中國(guó)では全國(guó)人民代表大會(huì)（全人代）と中國(guó)人民政治協(xié)商會(huì)議（政協(xié)）という二つの會(huì)議である「両會(huì)」が終われば、そろそろ春も間近で、人々は例年、華やいだ気分になるのだが、北京の知人は電話で「今年はくつろいで、華やいだような気分にはなれない。むしろ、政治的に緊張しているくらいだ」と話していた。その最大の理由が「江沢民（ジアン?ザーミン）元主席の腹心中の腹心が捕まった」からだという。

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中國(guó)の最高人民検察院（最高検）が先の全人代で報(bào)告したところによると、昨年1年間に立件した橫領(lǐng)や収賄など100萬元（約1900萬円）以上の汚職事案は前年比42％増の3664件と大幅に増加。汚職などで立件された公務(wù)員は前年比7．4％増の5萬5101人。このうち元最高指導(dǎo)部メンバーの周永康（ジョウ?ヨンカン）や徐才厚（シュー?ツァイホウ）ら閣僚級(jí)以上の高官は28人で、前年の3倍超となっており、汚職構(gòu)造の深刻さを示している。

「習(xí)近平（シー?ジンピン）主席による反腐敗運(yùn)動(dòng)もいよいよ佳境を迎え、江沢民閥の本陣に迫っている」とこの知人は語る。

捕まったのは江氏の秘書を30年以上も務(wù)める賈廷安（グー?ティンアン）中國(guó)人民解放軍総政治部副主任。賈氏と言えば、「江沢民の分身」「江沢民の影」などと形容されるように、30年以上も江氏に寄り添ってきた腹心中の腹心。階級(jí)は上將で、軍トップ34人のなかに入る最高幹部の1人だ。

賈氏は1952年、河南省生まれの62歳。地元の高校を卒業(yè)後、當(dāng)時(shí)の第四機(jī)械工業(yè)省傘下の工場(chǎng)に工員として入ったが、持ち前の勤勉さと文筆の才を認(rèn)められ事務(wù)職に異動(dòng)。文化大革命（66?76年）の影響で閉鎖されていた大學(xué)が再開した際、「優(yōu)秀な労働者」として職場(chǎng)推薦で成都電信工程學(xué)院（現(xiàn)在の電子科學(xué)技術(shù)大學(xué)）に入學(xué)。卒業(yè)後は同省秘書部に配屬。同省はのちに電子工業(yè)省に改組されるが、82年に同省の筆頭次官として赴任してきた江氏との出會(huì)いがその後の人生を決めた。

江氏は賈氏の有能さを見込んで、自身の秘書に抜てき。85年に上海市長(zhǎng)に転出した江氏は、賈氏を手放さず市長(zhǎng)秘書に任命するほど高く評(píng)価した。89年6月の天安門事件で、江氏が黨総書記に抜てきされると、賈氏も中央政界入りし、北京で黨中央総書記弁公室主任（黨総書記事務(wù)所長(zhǎng)）に。江氏が中央軍事委主席に就任するや、賈氏は軍歴がないにもかかわらず中央軍事委弁公室主任や軍総政治部副主任を歴任し、2012年11月に習(xí)近平指導(dǎo)部が発足すると、黨中央委員會(huì)入りするなど、江氏の威光を背景にトントン拍子に出世した。

まさに「江沢民の分身」と稱されるほどの賈氏が、黨員の不正を追及する黨中央規(guī)律検査委に身柄を拘束されたのだから、北京?中南海には衝撃が走った。

逮捕の舞臺(tái)裝置が振るっている。2月23日、北京市內(nèi)の八寶山革命公墓。張萬年（ジャン?ワンニエン）元軍事委副主席の告別式を終えた賈氏が會(huì)場(chǎng)を後にしようとした際、出口で待ち構(gòu)えていた規(guī)律検査委の係官數(shù)人が賈氏を取り囲むようにして近づき、「賈廷安同志。我々に同行していただきたい」と聲をかけると、そのまま車に乗せて走り去ったという。この一瞬の逮捕劇は參列者の習(xí)氏や他の黨政治局常務(wù)委員らが見守る中で実行された。

賈氏には以前から軍內(nèi)の汚職に絡(luò)む黒いうわさが飛び交っていたが、その裏には江氏が関わっているとされ、「當(dāng)局の狙いが江沢民ファミリーにあるのは間違いない」と知人は興奮気味に語る。

それにしても、「將を射んと欲すれば、まず馬を射よ」を地でいくような逮捕劇。この図式は日本でもおなじみだが、まさに「秘書は辛いよ」というところだろうか。

このような中、両會(huì)を終えた直後、「規(guī)律検査委の巡視隊(duì)が上海に入り関係各所の捜査を開始した」と中國(guó)メディアは伝えており、いよいよ腐敗追及の手が江沢民閥の本丸中樞に及んでいるようだ。

◆筆者プロフィール：相馬勝

1956年、青森県生まれ。東京外國(guó)語大學(xué)中國(guó)學(xué)科卒業(yè)。産経新聞外信部記者、次長(zhǎng)、香港支局長(zhǎng)、米ジョージワシントン大學(xué)東アジア研究所でフルブライト研究員、米ハーバード大學(xué)でニーマン特別ジャーナリズム研究員を経て、2010年6月末で産経新聞社を退社し現(xiàn)在ジャーナリスト。

著書は「中國(guó)共産黨に消された人々」（小學(xué)館刊＝小學(xué)館ノンフィクション大賞優(yōu)秀賞受賞作品）、「中國(guó)軍300萬人次の戦爭(zhēng)」（講談社）、「ハーバード大學(xué)で日本はこう教えられている」（新潮社刊）など多數(shù)。