タイトルだけを見ると、よくある「過激な“反中”煽り本」と見紛うが、読み進(jìn)むうちに、綿密な取材に基づいた、中國通ジャーナリストならではの実証的な分析書であることが分かってくる。

【その他の寫真】

うたい文句の「機(jī)密文書」10本のうち「反日」と読めるのは2本だけ。その一つ「習(xí)近平が長老指導(dǎo)者に宛てた『反日』書簡の內(nèi)容」は、2012年9月の副主席時代、日本政府による尖閣諸島の國有化の直後で反日機(jī)運(yùn)が高まっていた時のもの。もう一つの「習(xí)近平の日本との戦爭に関する重要講話」は13年12月の安倍晉三首相の靖國神社參拝の翌日開かれた軍事委員會指導(dǎo)幹部會での発言。いずれも立場上、過激な物言いをせざるを得ない局面でのものである。

本書には、権力を掌握しつつある“皇帝”習(xí)近平の政治方針、生い立ちと取り巻く人物が詳述され、世界の政治?経済?軍事面で不気味に臺頭する中國を知るのに役に立つ。文化大革命（1966?76年）時代に、副首相だった父が批判され、中學(xué)生だった自身も、都市の知識青年を農(nóng)村に送って肉體労働などに就かせる「下放」政策のもとで、洞窟住居での厳しい生活を強(qiáng)いられた。今の地位に上り詰めるまでの経緯、習(xí)の両親と抗日戦爭との関係、人生観などを知ることができる。生粋の共産主義者で毛沢東主義者である一面、改革開放も推進(jìn)する複雑な指導(dǎo)者像も浮かび上がる。

習(xí)近平が推進(jìn)する「腐敗の撲滅」についても多くのページを割いている。習(xí)近平の「一般大衆(zhòng)は、ハエもトラもと腐敗分子を退治するのを歓迎していると思う。この一點(diǎn)について、完全に民衆(zhòng)の側(cè)に立たなければならない」との肉聲を紹介した上で、「習(xí)近平の腐敗撲滅にかける心意気は17年間を過ごした福建省時代に芽生えた」と指摘。民衆(zhòng)の貧しさが半端でなかった寧徳地區(qū)の黨書記だった1990年に、「21世紀(jì)までに貧困地帯を消滅させなければならない」と福建省黨委に訴え、問題解決へ支援を求めたエピソードを紹介する。こうした中、同地區(qū)の幹部たちが公用地を私的に借用し、不法に住宅を建設(shè)していたことが発覚、習(xí)近平は彼ら全員を処罰した。著者は「これが習(xí)近平の反腐敗闘爭の原點(diǎn)であり、いまも當(dāng)時のように純粋な気持ちで全身全霊をかけて取り組んでいる腐敗撲滅運(yùn)動は民衆(zhòng)から絶賛されている」と記述している。

栗戦書（黨中央弁公庁主任）、劉亜州（中國國防大政治委員）、王岐山（黨政治局常務(wù)委員?黨中央規(guī)律検査委書記）、劉鶴（黨財経指導(dǎo)小組弁公室主任）、範(fàn)長龍（中央軍事委副主席）といった主要なキーパーソンについて、具體的に取り上げられ參考になる。このうち、人民銀行総裁などを務(wù)め國際金融界に知己が多い王岐山とは、不遇の青年時代に意気投合した仲。最も信頼する兄貴分で、実力や実績も高く評価し、腐敗撲滅の陣頭指揮を任せているという。王岐山が北京市長だった時に、ユネスコ北京事務(wù)所長として再三會談した評者の友人が、「誠実な人柄で子どもの貧困や重癥急性呼吸器癥候群（SARS）の撲滅に真剣に取り組んでいた」と語っているから、本當(dāng)の話なのだろう。

著者は習(xí)近平の政治外交方針について「軍部や黨內(nèi)をはじめとする國內(nèi)の反日勢力を味方につけるためにも対日強(qiáng)硬論を時々ぶち上げ、尖閣諸島問題では一歩も引かない」と指摘する。その一方で、「中國経済の減速が目立つ中、日本企業(yè)の撤退が相次いだり投資が鈍っていることに強(qiáng)い懸念を抱き、2017年からの2期目での指導(dǎo)部運(yùn)営ではより安定した権力基盤の下、山積する內(nèi)外の問題への対処のために、國內(nèi)的には改革路線を堅持しながら対外的には融和路線をとるのではないか」と予想する。

習(xí)近平が浙江省黨書記だった時期に、同省と姉妹省県の靜岡県知事を務(wù)めトップ同士の交流が度々あった石川嘉延氏は「習(xí)さんはとても協(xié)調(diào)的で日本との経済文化交流を大事にしていた」と評者に述懐している。習(xí)近平は浙江省のほかにも、福建省や上海市など日本企業(yè)の進(jìn)出が活発な地域のトップを務(wù)めていた時に交渉に當(dāng)たった日本企業(yè)関係者の多くは「経済発展の重要性をよく分かっている人だった。本音は日中経済協(xié)力推進(jìn)だろう」などと語っており、著者の見立てに賛同したい。

著者は産経新聞外信部記者、次長、香港支局長などを務(wù)めたフリージャーナリスト。中國の歌姫と言われた妻である彭麗媛の華麗な人脈や「中華民族の復(fù)興」「中國夢」「海と陸のシルクロード」「アジアインフラ投資銀行（AIIB）」などの構(gòu)想、ゴーストタウン“鬼城”の実態(tài)なども書き込まれ、「中國の今」を知る読み物としても興味深い。（評?八牧浩行）

相馬勝著『習(xí)近平の「反日」作戦―中國「機(jī)密文書」に記された危険な野望』（小學(xué)館刊、1500円稅別）

■筆者プロフィール：八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務(wù)取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務(wù)めたほか、歐州、米國、アフリカ、中東、アジア諸國を取材。英國?サッチャー首相、中國?李鵬首相をはじめ多くの首脳と會見。東京都日中友好協(xié)會特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著?共著に「中國危機(jī)ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外國為替ハンドブック」など。趣味はマラソン（フルマラソン12回完走＝東京マラソン4回）、ヴァイオリン演奏。