中國(guó)の大がかりな汚職?腐敗撲滅運(yùn)動(dòng)は2015年も衰えなかった。習(xí)近平氏が2012年11月に中國(guó)共産黨の総書記に就任して以來、「虎もハエも叩く」の掛け聲のもと、これまでに10萬人以上の黨員が処分された。この運(yùn)動(dòng)は、黨幹部の綱紀(jì)粛正、格差拡大の溫床になっている國(guó)有企業(yè)改革、政敵打倒による権力基盤強(qiáng)化の「一石三鳥」を狙ったものだ。

胡錦濤政権時(shí)代に最高指導(dǎo)部の黨政治局常務(wù)委員を務(wù)めた周永康氏が「重大な規(guī)律違反」容疑で起訴され、15年6月に無期懲役判決が出た。周氏は公安?司法分野の責(zé)任者を務(wù)めたほか、有力國(guó)有企業(yè)の中國(guó)石油天然気集団（CNPC）のトップの経歴もあり、長(zhǎng)らく石油産業(yè)の中心人物でもあった。

従來、黨政治局常任委員経験者は逮捕されないとの不文律を破ってまでも斷行された背景には、中國(guó)國(guó)內(nèi)の格差拡大と腐敗のまん延を放置できなくなったことがある。共産黨統(tǒng)治の正統(tǒng)性が問われていることに危機(jī)感を抱き、司法が及ばないとみられた周氏のような大物をサプライズ的に失腳させることで、汚職一掃に真剣に取り組んでいるという強(qiáng)いメッセージを國(guó)民に送ることができると考えたようだ。

中國(guó)國(guó)內(nèi)のインターネット空間には、習(xí)國(guó)家主席による汚職追放キャンペーンを肯定するメッセージが溢れている。かつての薄煕來（元重慶市総書記）裁判のように、収賄、橫領(lǐng)、権力亂用の訴求に対し、反論の機(jī)會(huì)を與えながら、腐敗撲滅に賭ける強(qiáng)い決意をアピールしている。公判報(bào)道は國(guó)民大衆(zhòng)への格好の教宣材料となるのだ。

◆権力基盤強(qiáng)化など「一石三鳥」狙う

習(xí)近平政権の反汚職運(yùn)動(dòng)で、多くの被疑者が厳しい取り調(diào)べを受けている?？絾枻胜嗓螜M行から2012年から15年前半までに少なくとも50人以上が「異常な死」を遂げている。8月には中央紀(jì)律委員會(huì)の巡視取り調(diào)べを受けた第一重型機(jī)械株式公司の呉生富?董事長(zhǎng)がオフィスで自殺した。

國(guó)外逃亡した汚職官僚もターゲットになっている。14年から始まった「天網(wǎng)運(yùn)動(dòng)」では國(guó)外逃亡者を連れ戻すべく、自首勧告や逃亡先の政府との交渉を進(jìn)められている。中國(guó)國(guó)家預(yù)防腐敗局の劉建超?副局長(zhǎng)は15年12月の記者會(huì)見で、天網(wǎng)行動(dòng)開始以來800人以上もの汚職官僚、汚職企業(yè)幹部の連れ戻しに成功したことを明らかにした。半數(shù)弱は他國(guó)との交渉成功による引き渡しで、殘りは自首によるものだという。

習(xí)近平の汚職腐敗撲滅運(yùn)動(dòng)は、派閥に関係なく展開されている。胡錦濤前國(guó)家主席を輩出した共産主義青年団（共青団）出身の令計(jì)畫?黨統(tǒng)一戦線部長(zhǎng)が15年7月に収賄容疑で逮捕された。事情通によると、江沢民元國(guó)家主席ら保守長(zhǎng)老を牽制し権力基盤を強(qiáng)化することも狙っている。

江、胡両氏は黨の中核だった元幹部や有力者の家族に対する摘発を抑制すべきだと進(jìn)言したものの習(xí)氏はこれを一蹴した。國(guó)家主席や政治局常務(wù)委員経験者であっても摘発の例外としないことを示すことによって、政務(wù)や人事への介入を慎むよう警告する意味合いもあろう。

◆習(xí)主席、人民解放軍を掌握―江沢民派も牽制

習(xí)氏は江沢民氏の牙城の上海に、腐敗を取り締まる黨中央規(guī)律検査委員會(huì)の中央巡察隊(duì)を100人規(guī)模で送り込み、黨?政府?軍機(jī)関はもちろん、江沢民の息がかかっている國(guó)有企業(yè)などを徹底的に調(diào)べ上げ大量の重要文書を押収。その調(diào)査結(jié)果から、「一部の幹部の配偶者や子女らが経済?商業(yè)活動(dòng)に攜わり、不正な収入を得ている」として、市トップの韓正?黨委書記に幹部のファミリービジネスを止めさせるよう指示した。

これより先14年4月には、江沢民氏に近い華潤(rùn)グループ（電力會(huì)社）の宋林?董事長(zhǎng)が巨額の汚職の疑いで捕まったが、宋林氏は、電力界の大物、李小鵬氏と緊密な間柄。父親の李鵬?元首相や妹の李小琳とともに、中國(guó)の電力界をリードしている。また同年9月には袁純清?山西省黨書記が解任されている。ともに共青団の有力メンバーである。電力閥は、江沢民派でも共青団も差別なしに、「虎退治」のターゲットになっているのだ。

中國(guó)共産黨幹部の腐敗が救いようがないほど蔓延し、習(xí)氏は、このままでは中國(guó)が滅びてしまうとの危機(jī)感を抱いている。石油閥の後は電力閥が次の退治のターゲットになっているのは、ともに巨大な獨(dú)占的利益集団である國(guó)有企業(yè)だからだ。國(guó)有企業(yè)を抜本的に改革しなければ、中國(guó)の経済発展が行き詰まると考えているという。

人民解放軍も腐敗撲滅運(yùn)動(dòng)の例外ではない。制服組元トップの徐才厚?前中央軍事委員會(huì)副主席は2014年10月に起訴され、収賄や職権亂用の容疑がかけられていたが、15年3月、裁判が始まる前に病死した。

15年2月から人民解放軍の財(cái)務(wù)問題調(diào)査がスタート。すでに続々と問題が発覚している。経費(fèi)の流用、予算案を超えた支出、規(guī)則違反の銀行口座開設(shè)、基準(zhǔn)以上の福利厚生支給、規(guī)定以上の豪華接待、ニセ領(lǐng)収書を使った経費(fèi)搾取、隠し口座などが見つかっている。

習(xí)近平國(guó)家主席への圧倒的な権力集中を背景に、規(guī)制緩和、権限委譲、國(guó)有企業(yè)改革、経済改革、司法改革、戸籍改革、地方財(cái)政改革を斷行する構(gòu)え。習(xí)主席は「2020年までに改革達(dá)成」へ背水の陣を敷いており、これらの大膽な改革が実現(xiàn)するかが中國(guó)の命運(yùn)を握る。

習(xí)近平政権の特徴として、（1）権力の集中と黨內(nèi)派閥（太子黨、共産主義青年団）の解消（2）空前絶後の腐敗撲滅運(yùn)動(dòng)（3）大膽な改革（4）厳しい言論統(tǒng)制（5）改革派だけでなく保守派とも協(xié)調(diào)―などが挙げられる。広範(fàn)な階層から支持されており、「皇帝が進(jìn)める市場(chǎng)化改革」と言えるが、民主化や言論の自由なしに進(jìn)展するかどうか。改革が進(jìn)展しなければ、急速にレームダック化する可能性もある。

◆毛沢東、トウ小平以來の「後継指名」果たせるか

習(xí)氏は「黨內(nèi)では絶対に仲間を呼び寄せて徒黨を組むような『封建時(shí)代の結(jié)託』を再現(xiàn)してはならない。全てが平等に取り扱われ、平等に権利を持たなければならない」と警告している。既得権益者＝獨(dú)占國(guó)有企業(yè)グループの腐敗にメスを入れなければ、これまでの歴代王朝時(shí)代と同じように、中國(guó)共産黨「王朝」が崩壊する崖っぷちに追い込まれていることを自覚しているのだろう。

習(xí)氏が見據(jù)えるのは、黨最高指導(dǎo)部の政治局常務(wù)委員7人のうち、黨規(guī)約の年齢制限で習(xí)氏と李氏以外の5人が入れ替わる17年黨大會(huì)だ。22年から始まる「ポスト習(xí)」時(shí)代の最高指導(dǎo)部の陣容もこのとき見えてくる。江沢民、胡錦濤両氏は次期黨総書記を選べなかった。習(xí)氏が自ら指名できれば、毛沢東、トウ小平両氏以來となる。（八牧浩行）

＜続く＞

■筆者プロフィール：八牧浩行

1971年時(shí)事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長(zhǎng)、常務(wù)取締役編集局長(zhǎng)等を歴任。この間、財(cái)界、大蔵省、日銀キャップを務(wù)めたほか、歐州、米國(guó)、アフリカ、中東、アジア諸國(guó)を取材。英國(guó)?サッチャー首相、中國(guó)?李鵬首相をはじめ多くの首脳と會(huì)見。東京都日中友好協(xié)會(huì)特任顧問。時(shí)事総合研究所客員研究員。著?共著に「中國(guó)危機(jī)ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外國(guó)為替ハンドブック」など。趣味はマラソン（フルマラソン12回完走＝東京マラソン4回）、ヴァイオリン演奏。