八牧浩行 2016年5月29日(日) 9時0分
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2017年4月に予定していた消費(fèi)稅の10%への引き上げ時期が19年10月まで2年半延期される見通しとなった。財政健全化目標(biāo)の達(dá)成が不可能になるため市場の信認(rèn)を失う恐れもある。海外格付け會社も日本の國債格付けを引き下げに動くと見られる。寫真は日銀。
2016年5月28日、安倍晉三首相は、17年4月に予定していた消費(fèi)稅の10%への引き上げ時期を19年10月まで2年半延期する方針を麻生太郎副総理兼財務(wù)相らに伝えた。安倍政権としては7月の參院選に勝利するために円安?株高の流れに戻したいところだが、マーケットでは消費(fèi)稅増稅先送りは既に織り込み済み。先進(jìn)國で最悪レベルの日本の債務(wù)殘高を軽減するための財政健全化目標(biāo)の達(dá)成が不可能になるため市場の信認(rèn)を失う恐れもあり、海外の格付け會社も日本の國債格付けを引き下げに動くと見られる。安倍政権の経済政策「アベノミクス」の行き詰まりが改めて露呈した格好だ。
安倍首相は「リーマンショック級のリスク」に直面していることを、消費(fèi)増稅再延期の理由に挙げている。先のG7伊勢志摩サミットで首相が指摘したところ、多くの首脳がこの現(xiàn)狀認(rèn)識に賛同しなかった。海外では米國が利上げ時期を模索しているほか、原油価格は底入れ基調(diào)が鮮明。最大の懸念材料だった中國の経済狀況や原油価格の下落も底入れしつつあり、08年のリーマンショック時に混亂した歐米の金融システムも安定している。
このところ政府日銀は景気の現(xiàn)狀について「緩やかに回復(fù)基調(diào)にある」と繰り返しており、首相発言の唐突感は否めない。市場の安定には、政府日銀の政策への信頼が欠かせないが、今回の勇み足的な「危機(jī)」の強(qiáng)調(diào)は、この信頼を揺るがすことともなりかねない。
20年度に政策経費(fèi)を稅収などでどれだけ賄えるかを示すプライマリーバランス(基礎(chǔ)的財政収支)を黒字化する財政健全化目標(biāo)の実現(xiàn)も困難になる。內(nèi)閣府の試算によると、國?地方を合わせた20年度の基礎(chǔ)的財政収支は、高成長が続く「経済再生ケース」でも6.5兆円の赤字。試算は17年4月の消費(fèi)稅再増稅が前提で、稅率2%分で消費(fèi)稅収が5兆?6兆円程度増えると見込まれていた。再増稅先送りにより財政はさらに悪化してしまう。財政再建目標(biāo)の未達(dá)成は市場の信認(rèn)を失いかねない。
◆際立つ日本の低成長
米格付け會社のムーディーズは今年3月に「再増稅延期による財政への不安は大きいものになる」と厳しいコメントを示し、國債格下げの可能性を示唆した。現(xiàn)在、日本國債格付けは「Aプラス」もしくは「A」である。消費(fèi)稅増稅先送りになった場合、日本の財政規(guī)律が不透明で不確実なままでは、最悪の場合、2段階格下げされ「Aマイナス」となる可能性がある。その場合、日本の民間企業(yè)の発行する債券格付けの上限が「Aマイナス」となり、銀行や企業(yè)はCP(コマーシャルペーパー)や短期資金の調(diào)達(dá)が困難になる恐れもある。
アベノミクスでは、デフレ脫卻に向けた大膽な金融緩和、機(jī)動的な財政政策、民間需要を喚起する成長戦略の「3本の矢」で経済の好循環(huán)の実現(xiàn)を目指した。アベノミクスが志向した「富める者が富めば貧困層にも恩恵が及ぶ」という「トリクルダウン」は起きなかった。非正規(guī)や中小企業(yè)の労働者の賃金が思うように上がらず、貧富の格差は広がるばかり。しかし、実質(zhì)GDP(國內(nèi)総生産)は、14年度0.9%減、15年度0.8%増と政府目標(biāo)の実質(zhì)2%成長に達(dá)していない。米國が2%臺、歐州各國でも1%臺の成長を確保しており、日本の低迷が際立つ。
アベノミクスの一枚看板である「円安株高」の流れも逆流。経済學(xué)者や國民の間から「アベノミクスは失敗」との指摘が高まっている。政府は財政規(guī)律を保ちながらどのようにこれ以上の財政出動を可能にするのか。一歩踏み誤れば、民間企業(yè)の世界との競爭力にマイナスの影響を與える恐れもある。
◆大平首相の戒め
約1050兆円というGDPの2倍以上の財政赤字は、潛在成長率のアップや徹底した歳出削減、増稅で解消するのが真っ當(dāng)な方策だが、人口減少と景気低迷が続く日本ではハードルが高い。増稅は國民に嫌われるため、強(qiáng)い政治力も必要となる。そこで為政者が誘惑に駆られるのが「調(diào)整インフレによる赤字解消」である。大平正芳元首相は蔵相時代の1975年、筆者に「増稅も歳出削減もできない中、財政赤字をなくすために為政者が陥りやすい安易な方法はインフレ。最大の借金を持つ國が最大の恩恵を受けるので誘惑に駆られやすい。ただ年金生活者や低所得者は困窮してしまう」と戒めの弁を語っていた。
蔵相時代に初の赤字國債発行を余儀なくされた悔悟の念からだろう。大平氏は首相になって「一般消費(fèi)稅導(dǎo)入」をぶち上げたが、道半ばで倒れた。大戦後の日本や西獨(dú)での超インフレなど國の巨額債務(wù)を帳消しにした例は多い。政府日銀には、景気回復(fù)とハイパーインフレ防止の二兎を追うぎりぎりの綱渡り的な政策が求められる。(八牧浩行)
■筆者プロフィール:八牧浩行
1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務(wù)取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務(wù)めたほか、歐州、米國、アフリカ、中東、アジア諸國を取材。英國?サッチャー首相、中國?李鵬首相をはじめ多くの首脳と會見。東京都日中友好協(xié)會特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著?共著に「中國危機(jī)ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外國為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。
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