12月になってから、中國(guó)の習(xí)近平國(guó)家主席が、腹心である中國(guó)共産黨北京市委員會(huì)の蔡奇書(shū)記を降格させる可能性があるとの記事が出てきた。蔡書(shū)記に対しては、市內(nèi)で低所得層が集まる住宅を強(qiáng)制撤去するなどで抗議デモも発生した。仮に蔡書(shū)記を降格させれば習(xí)近平政権にとって大きな打撃、しなければ習(xí)主席自身に不満の矛先が向けられる可能性がある。

▼大規(guī)模な強(qiáng)制立ち退きで北京市が不穏な情況に

北京市當(dāng)局が低所得層の住宅の撤去に著手したきっけは、11月18日に同市大興區(qū)の集合住宅で火災(zāi)が発生し、19人が死亡したことだった。北京市政府は同月20日からの40日間を、安全リスク排除のための行動(dòng)期間にすると発表。重點(diǎn)とされたのは、市街地と郊外の境界地域にある集合住宅で、遅くとも23日には安全基準(zhǔn)を満たしていないことを理由とする強(qiáng)制立ち退きが始まったという。

現(xiàn)場(chǎng)擔(dān)當(dāng)者が「即座立ち退き」を要求し、抵抗する住人には係員が暴力を振るったことなどで「ナチスがユダヤ人に対して行った処遇と同じ」「中國(guó)における反中國(guó)人活動(dòng)」などの批判が出た。11月末までには數(shù)十萬(wàn)人が家を追われたとの見(jiàn)方がある。世界人権デーの12月10日には、北京市朝陽(yáng)區(qū)內(nèi)で強(qiáng)制立ち退きに対する抗議活動(dòng)が行われた。參加者は約1000人と見(jiàn)られている。

中國(guó)で大規(guī)模な抗議活動(dòng)が発生すれば、地元政府にとっては大きな失點(diǎn)になる。まして強(qiáng)引かつ大規(guī)模な強(qiáng)制立ち退きが直接の原因であれば、北京市トップの蔡書(shū)記の責(zé)任が問(wèn)われたとしても、おかしくない情況だ。

▼蔡奇書(shū)記の抜擢（ばってき）は習(xí)近平主席の「窮余の一策」との見(jiàn)方

中國(guó)の中央政界には、ごく大雑把な分類だが、胡錦濤前國(guó)家主席などを中心とするグループ（団派）と、江沢民元國(guó)家主席を中心とするグループ（江派）の二大派閥がある。

習(xí)主席は2007年の黨大會(huì)で中央政治局常務(wù)委員になったことで2012年の黨書(shū)記、13年の國(guó)家主席就任を確実にした?！竾馀伞工取附伞工洗纹谥笇?dǎo)者を巡って対立していた。習(xí)政権の発足は、どちらの派閥にもはっきりと屬していない習(xí)氏を選ぶことで両派閥が妥協(xié)した結(jié)果と見(jiàn)られている。

習(xí)氏の父親は國(guó)務(wù)院副首相を務(wù)めた習(xí)仲勲だ。そのため、共産黨高級(jí)幹部の子弟である「太子黨」の一員とされている。しかし「太子黨」は必ずしも、政治的に結(jié)束しているわけではない。そのため習(xí)氏は政権のトップ座に就いても、「団派」と「江派」に挾まれて強(qiáng)い指導(dǎo)力を発揮できないと見(jiàn)られていた。

しかし習(xí)氏は12年秋に黨総書(shū)記に就任すると、「腐敗撲滅」を強(qiáng)力に進(jìn)めることで施策に抵抗しにくい狀況を出現(xiàn)させた上で、人事などでも獨(dú)自色を強(qiáng)く打ち出した?；镜膜摔稀缸预椁丐沃艺\(chéng)」を示すものを重用し、「団派色」や「江派色」の強(qiáng)い人物は排除する方向を示した。

問(wèn)題は、共産黨中央の上層部に習(xí)主席の「人事の眼鏡」にかなう人物が少なかったことだ。そこで、習(xí)政権は福建省や浙江省で勤務(wù)した時(shí)代に接近した人物を大量に登用することになった。蔡書(shū)記は1955年生まれ。出身地は福建省だ。習(xí)近平主席が福建省で仕事をしていた1980年代に目をかけられたとされている。習(xí)政権発足後の2014年には浙江省副省長(zhǎng)から中央國(guó)家安全委員會(huì)弁公室副主任に抜擢され中央に異動(dòng)し、16年には北京市市長(zhǎng)、17年5月には市長(zhǎng)より格上の共産黨同市委員會(huì)の書(shū)記に就任した。

▼「2階級(jí)特進(jìn)」したものの、施策には批判が噴出

蔡書(shū)記は17年秋の黨大會(huì)で、共産産黨內(nèi)の序列としては中央委員會(huì)候補(bǔ)委員、中央委員會(huì)委員を飛び越して中央政治局委員にするという「2階級(jí)特進(jìn)」をした。しかし北京市における蔡書(shū)記の仕事については、強(qiáng)制立ち退きだけでなく、石炭による暖房を禁止したことでも、「弱者に厳しい」施策が多いと批判との批判が強(qiáng)まった。

石炭使用の極端な制限は、習(xí)近平政権が打ち出した大気汚染改善のための天然ガスへの転換に呼応したものだった。大気汚染対策で特に重視されたのが「北京に青空を取り戻す」ことで、北京市や周辺の河北省、天津市では石炭暖房が禁止された。そのため、舊式の石炭火力ボイラーを使う地域暖房や石炭ストーブの利用ができなくなり、庶民が暖を取れなくなった。學(xué)校でも暖房が使えず、凍傷になる児童が出たとされる。

一方では天然ガスが供給不足になり、価格が前年同期の2倍以上に高騰するなどの問(wèn)題が出た。このため、中央政府?環(huán)境保護(hù)部は12月4日に、天然ガス暖房への転換ができていない地域では石炭暖房の使用を認(rèn)めることを通達(dá)し、住宅建設(shè)部も13日になり同様の內(nèi)容を持つ「通知」を公開(kāi)した。

北京市がそれまでに石炭暖房を禁止したのは習(xí)近平政権の方針に従ったわけだが、余りにも忠実に実行したとして、同市トップである蔡書(shū)記に対する不満が高まった。

蔡書(shū)記の、もう一つの不評(píng)を呼んだ施策としては、ビル外壁や屋上部分に掲示された會(huì)社名?組織名やロゴの看板を「違法広告」として撤去した「保衛(wèi)天際線」がある。中國(guó)國(guó)外に拠點(diǎn)を置き、反中國(guó)當(dāng)局の立場(chǎng)の情報(bào)を発信している中國(guó)禁聞網(wǎng)は14日、11月末に始まった「保衛(wèi)天際線」で、2萬(wàn)7000點(diǎn)の看板が撤去されと報(bào)じた。

ところが中國(guó)禁聞網(wǎng)によると、北京市メディアの新京報(bào)が12月11日、ニュースサイトで同市海淀區(qū)當(dāng)局が、広告の撤去作業(yè)を暫定的に停止する通達(dá)を出したと報(bào)じた。さらに、同記事は掲載後數(shù)時(shí)間で、削除されてしまったという。

米國(guó)に拠點(diǎn)を置き反中國(guó)的な立場(chǎng)での報(bào)道を続けている華字メディアの新唐人は16日になり、北京市人民代表大會(huì)常務(wù)委員會(huì)（人大常委會(huì)）が最近になって會(huì)議を開(kāi)催し「重大な決定については必ず人大常委會(huì)を通さねばならない」と採(cǎi)決したとの見(jiàn)方が出ていると紹介。事実とすれば、北京市における事実上の最高決定機(jī)関である黨委員會(huì)への反発をあらわにした異例の事態(tài)だ。新唐人は、背後には共産黨の権力闘爭(zhēng)があり、北京市人大常委會(huì)が蔡書(shū)記の失政をチャンスに権力を奪取しようとしたとの見(jiàn)方を示した。

蔡書(shū)記に由來(lái)すると見(jiàn)られるこれまでの「悪政」に共通しているのは、黨中央の方針や規(guī)則に忠実ではあるが、現(xiàn)場(chǎng)の狀況を理解せず性急に事を進(jìn)めたために混亂をもたらし、大きな不満を出していることだ。これでは、政治能力を疑問(wèn)視する見(jiàn)方が出ても仕方ないだろう。

▼庶民による不満を考慮して、習(xí)近平主席が「泣いて蔡奇を斬る」可能性

蔡書(shū)記については、「習(xí)近平氏への露骨なごますり」が取沙汰されたこともある。17年秋の共産黨の黨大會(huì)の際には、習(xí)近平氏を「英名なる首領(lǐng)」と表現(xiàn)しようとして、「中國(guó)共産黨?政府の頭脳」と呼ばれる王滬寧氏に「不適切」として拒否されたとされる。

王氏は1980年代には新進(jìn)気鋭の政治哲學(xué)學(xué)者として注目されていた存在で、江沢民?胡錦濤?習(xí)近平の3代にわたる政権を理論面で支えてきた。それぞれが政敵とも言える3代の指導(dǎo)者すべてから信頼されたということは、王氏の並々ならぬ能力が共産黨上層部にとってどうしても必要とされていることを示す?！赣⒚胜胧最I(lǐng)」の提案がただちに否定されたことで、蔡書(shū)記の「軽さ」が改めて印象づけられることになった。

新唐人は11月25日付で、習(xí)主席も実績(jī)を上げられない蔡書(shū)記が露骨な「習(xí)近平禮賛」を繰り返してばかりいることに失望していると報(bào)じた。

香港メディアの蘋果日?qǐng)?bào)（アップル?デイリー）は13日、「習(xí)近平は泣いて蔡奇を斬るのか」と題する記事を発表した。三國(guó)志演義にある「諸葛孔明は馬謖という若い武人に目をかけて引き立てていたが、馬謖の命令違反で蜀軍が大敗した。諸葛は馬謖の処刑を決め、大いに泣いた」という「泣いて馬謖を斬る」とのエピソードをもじった見(jiàn)出しだ。

同記事は、蔡書(shū)記は悪政を繰り返していると批判。責(zé)任論から言えば、習(xí)主席は庶民の不満に対応するためにも蔡書(shū)記を辭任させるべきだと指摘。しかし実際には、習(xí)政権の権勢(shì)が強(qiáng)大になっており、蔡書(shū)記を政治局委員という高い地位につけてしまっているため、名譽(yù)挽回の機(jī)會(huì)を與えることはしても辭任させることは考えにくいと主張。蔡書(shū)記の処分を本當(dāng)に考慮せねばならなくなっても、北京市の黨?政府のその他の高官をスケープゴートにすることで事態(tài)の収拾を図るだろうとの見(jiàn)方を示した。

12年に発足した習(xí)近平政権は、これまで反発の聲を抑え込んでいた。しかし、習(xí)體制をよく思わない黨上層部の勢(shì)力が消滅したとは思えない。習(xí)主席がこれまで進(jìn)めてきた黨?政府?軍における「お友達(dá)人事」の弊害が、政権の足元をすくう可能性も否定できない狀況だ。

■筆者プロフィール：如月隼人

日本では數(shù)學(xué)とその他の科學(xué)分野を勉強(qiáng)したが、何を考えたか北京に留學(xué)して民族音楽理論を?qū)煿?。日本に戻ってからは食べるために編集記者を稼業(yè)とするようになり、ついのめりこむ。「中國(guó)の空気」を読者の皆様に感じていただきたいとの想いで、「爆発」、「それっ」などのシリーズ記事を執(zhí)筆。

■筆者プロフィール：如月隼人

1958年生まれ、東京出身。東京大學(xué)教養(yǎng)學(xué)部基礎(chǔ)科學(xué)科卒。日本では數(shù)學(xué)とその他の科學(xué)分野を勉強(qiáng)し、その後は北京に留學(xué)して民族音楽理論を?qū)煿ァＨ毡兢藨盲皮椁鲜长伽毪郡幛司幖浾撙蚣跇I(yè)とするようになり、ついのめりこむ。毎日せっせとインターネットで記事を発表する。「中國(guó)の空気」を読者の皆様に感じていただきたいとの想いで、「爆発」、「それっ」などのシリーズ記事を執(zhí)筆。中國(guó)については嫌悪でも惑溺でもなく、「言いたいことを言っておくのが自分にとっても相手にとっても結(jié)局は得」が信條。硬軟取り混ぜて幅広く情報(bào)を発信。

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