■■■■■2008年8月19日 ■■■■■

【その他の寫(xiě)真】

國(guó)民的ヒーローの途中退場(chǎng)は、オリンピックムードに沸く中國(guó)の人たちを震撼させた。

18日、國(guó)家體育場(chǎng)（愛(ài)稱：鳥(niǎo)の巣）で行われた陸上男子110m障害の1回戦?！讣佑停。à螭肖欤┲袊?guó)」の大合唱の中で、スタート位置についた劉翔（中國(guó)）は、スタートの直後、第1ハードルの前で立ち止まり、その後、ナンバーカードを外して、大観衆(zhòng)の見(jiàn)守るコースを去っていった。

私はこの日、別の取材で、ある競(jìng)技會(huì)場(chǎng)にいた。そこの運(yùn)営スタッフを取材すべく、ちょうどお晝時(shí)だったため、彼らの胃袋を満たすスタッフ食堂で食事を頂いていた。劉翔が登場(chǎng)した瞬間、500人ほどが入る大食堂の全てが箸を止め、2箇所に設(shè)けられた大型モニターに見(jiàn)入っていた彼らは大歓聲を上げ、國(guó)民的ヒーローを迎えた。そして、彼がフライングのあと、再びスタート位置に戻ることなく、控え室に帰っていった瞬間、何が何だか分からないというおかしな空気が漂った。「どよめき」と「ため息」が入り混じり、にわかにはその現(xiàn)実を受け入れられない彼らは、それまでの歓聲がうそのようにシーンと靜まり返り、ヒーローの様子を見(jiàn)守った。この「おかしな空気」は私にとっても一生忘れられない一シーンとなるだろう。この空気こそ、中國(guó)全土の人々がこの現(xiàn)実を目にしたときの気持ちを代表するものに違いない。

私は3年前、この一人の天才アスリートの走りを生で目にし、その肉聲を取材したときから、彼は必ず北京五輪で優(yōu)勝すると確信していた。別に専門的な根拠があるわけではない。ただ、彼は不世出の天才ハードラーであり、根っからの英雄だと私に思わせる何かを持っている男だった。だから、若くて強(qiáng)力なライバル、デイロン?ロブレス（キューバ）が登場(chǎng)しても、今年6月1日のニューヨーク陸上で退場(chǎng)し、右足の古傷悪化が伝えられても、また選手村入りした直後に病院で検査を受けたというニュースが入ったときも、私はそれらが全て、「天才?劉翔の物語(yǔ)」を完結(jié)させるためのサイドネタに過(guò)ぎないと思っていた。天才が最高の結(jié)果を迎えるときには、えてして、そんな逆境がつきものだし、それがあるからこそ、劉翔はヒーローなのだ…という妙な確信を持っていた。

だから、昨日の出來(lái)事は私にもにわかに受け入れることができないものだった。

ケガは「古傷」…アキレス腱疲労

この日、第6組2コースでウォーミングアップをしている劉翔は、いつもの自信に満ちた表情とは程遠(yuǎn)く、眉間にしわを寄せながら、右足をしきりに気にしていた。そして號(hào)砲と共にスタートを切ったものの、他選手のフライングにより、レースはやりなおし。だが、劉翔は苦悶に満ちた表情で、太ももの「第2コース」を意味するナンバーカードを剝がし、一人向きを変え、選手控え室に通じる通路に引き返していった。

その後、劉翔は記者陣の前に現(xiàn)れることがなかったようだが、専屬コーチの孫海平氏が記者會(huì)見(jiàn)に応じ、涙ながらに、その苦悶の選択の真相を語(yǔ)った。各メディアが報(bào)道する內(nèi)容によると、劉翔のケガが悪化したのは、先週土曜日、練習(xí)中のことだったそうだ。孫氏によると、アキレス腱の傷はかなり前からのものであり、「古傷」であったようだ。

専門家によると、おそらく、これはアキレス腱の疲労がもたらしたものであり、頻繁に高い強(qiáng)度の練習(xí)とレースを繰り返し、その後、疲労回復(fù)しないままにトレーニングを続けたことが原因ではないかということ。その最悪の結(jié)果がよりによって、あの13億が見(jiàn)守る鳥(niǎo)の巣での本番中に現(xiàn)れてしまったというわけだ。

不世出のヒーロー、ケガと戦いながらの4年間

才能に溢れた若き劉翔が初めて世界の表舞臺(tái)に登場(chǎng)したのは、2003年の世界選手権で3位に入ったときだろう。歐米、アフリカ勢(shì)が圧倒的優(yōu)位を占める短距離界において、彼の潛在力は誰(shuí)もが認(rèn)める突出したものだった。

そして、アテネ五輪では12秒91を出し、アジア勢(shì)として初めて優(yōu)勝。中國(guó)陸上、いやアジア陸上にとって、大きな一ページとなる出來(lái)事だった。

そして、祖國(guó)でのオリンピックを4年後に控え、そこで金メダルをとるという最大の目標(biāo)のために厳しいトレーニングが始まった。だが、同時(shí)に、その直後から、彼の足は、あの「悲劇」に向けて、少しずつ負(fù)擔(dān)を重ねていたのだ。

今から思えば、2005年夏、劉翔が全國(guó)陸上グランプリという國(guó)內(nèi)大會(huì)に出場(chǎng)したときから、この悲劇の序幕が開(kāi)いたといえよう。この大會(huì)で、劉翔は所屬する上海代表の4×100mリレーのアンカーとして出場(chǎng)した。だが、得意のハードルと技術(shù)的に大きな違いがあるからか、レースの翌日、左足の腿がパンパンに膨れ上がったという。検査の結(jié)果は大事には至らないということだったが、このことが劉翔の足に大きな負(fù)擔(dān)をかけていった可能性はある。

またこのころ、劉翔は右足に頻繁に出來(lái)る水ぶくれに悩まされた。その水ぶくれが破裂したあと、その部分がスニーカーとの摩擦で「たこ」になり、それが足の肌肉の中に入り込んで、常に違和感があったそうだ。ただ、それ自體は特に痛みがなく、トレーニングに支障をきたさなかったため、それほど大きな問(wèn)題にはならなかった。

劉翔のケガで最も大きなものは、2006年初頭のことだろう。冬合宿の成果を試すため、全國(guó)室內(nèi)陸上の上海大會(huì)に出場(chǎng)する予定だった劉翔だが、開(kāi)幕3日前に、練習(xí)後、階段を踏み外して、左足を損傷してしまった。

その後、無(wú)事に復(fù)帰した劉翔だが、靴との相性からくる水ぶくれは続き、1週間ほど、練習(xí)がストップすることもあった。だが、ご存知のように仏ローザンヌの國(guó)際陸上で當(dāng)時(shí)世界新記録となる12秒88の好タイムを出すなど、対外的には、北京五輪に向け、順調(diào)な調(diào)整ぶりを見(jiàn)せているように見(jiàn)えた。

そして2008年6月1日、ニューヨークグランプリ陸上に出場(chǎng)した劉翔だが、レース開(kāi)始直前、太ももに違和感を覚え、棄権。當(dāng)時(shí)、コーチの話によると、太ももの筋肉疲労ということだったが、すでにこのころから、劉翔の足は限界にきていたのだろう。

すでにこの鳥(niǎo)の巣に入ったときから、劉翔は走れる狀態(tài)になかった。だが、それでも3人の醫(yī)師を現(xiàn)場(chǎng)に置き、最後まで諦めなかった。劉翔は試合前、痛みを麻痺させようと、右足で壁を強(qiáng)く蹴りつける凄まじい姿が見(jiàn)られた。そこまでして、レーンに立とうとしたのだ。

スポンサーも対応に追われる…各界の反応は？

劉翔はアスリートとして一流であるだけでなく、「広告王」としても知られている。各企業(yè)がこぞって彼をCMやイメージキャラクターに起用しており、そのギャラは3億円をゆうに超えているといわれている。

しかも、その企業(yè)はそうそうたるメンバーで、スポーツ用品メーカーのナイキ、VISA、コカコーラなど國(guó)際企業(yè)をはじめ、國(guó)內(nèi)ではレノボ、中國(guó)郵政EMS、中國(guó)移動(dòng)通信など、15社以上。2004年のアテネ五輪後、ナイキと30萬(wàn)元（450萬(wàn)円）でCM契約を結(jié)んで以降、その數(shù)は爆発的に増え、町を歩いていれば、必ず彼の寫(xiě)真がデカデカとのったポスターや看板に出會(huì)う。

そして、彼らは一様に、北京五輪で劉翔が金メダルを獲得し、その「先行投資」が莫大な商品価値に成長(zhǎng)することを見(jiàn)込んでのことだった。ライバルはいるものの、世界ナンバーワンの力をもつ劉翔はある意味「リスクの少ない」投資対象だったといえる。

特に劉翔が最初にオリンピックの舞臺(tái)に姿を見(jiàn)せる8月18日以降は、その広告価値が最大になるときであり、各社ともテレビ、新聞、看板など大量の広告を出す予定にしていた。

この緊急事態(tài)に対し、一番早く手を打ったのは、ナイキだった。新聞「財(cái)経」によると、全國(guó)各地にある看板の內(nèi)容を19日から、変更するとしている。ただ、変更後も主役は劉翔であることには変わりなく、ただテーマについて、若干の変更を加えるのみ、と説明している。

ただ困惑している企業(yè)もあるようだ。新聞「財(cái)経」によると、あるスポンサーは「金メダルを取ったときと取らなかったときのそれぞれの対応策については考えていた。だが、まさか棄権するとは…」と絶句しているという。このスポンサーは、2006年2月に3年契約で劉翔を起用。翌年11月からは、同社の社長(zhǎng)と劉翔を並べた広告を打ち、話題となった。

いずれも今のところ、劉翔と契約を打ち切るなどの措置は表明しておらず、今後も、契約関係を続けていく方針を示している。これからの世論の動(dòng)向や本人のケガの様子を見(jiàn)た上でということになるだろう。いずれにしても、全ての目論見(jiàn)が外れた各企業(yè)にとっては大きな痛手となることは間違いない。

また、ある専門家の分析によると、北京五輪で金メダルを取るか、取らないかは、10億元（150億円）以上のギャラの違いにつながるということだ。

これも、今後の「ストーリー次第」だが、いずれにしても「CM王」の座を続々と生まれている五輪ヒーローたちに明け渡す日が來(lái)るのは間違いないかもしれない。

ただ世論の動(dòng)向は非常に同情的という感じがする。

日本の各報(bào)道や記者のコメントを見(jiàn)ていると、國(guó)內(nèi)で非難の聲が殺到しているとのイメージがあるかもしれないが、私の印象は異なる。

もちろん、祖國(guó)の英雄が金メダルを逃したことへの失望は大きいが、むしろ、彼のこれまでの功労を稱え、また、不幸な結(jié)果に同情する聲が大きいような気がする。新聞?dòng)浭陇洹⑷〔挠浾撙违芝恁暗趣僵`スにしているネット掲示板での反応に関しても、実際に覗いてみると、決してこういう聲が圧倒的多數(shù)というわけではないことが分かる。

もちろん、一部に過(guò)激な意見(jiàn)があるのは確かだし、大きなショックを受けたのは間違いないが、大多數(shù)は、マラソンの野口や土佐の棄権がもたらした日本での反応とそれほど変わらず、ある程度、冷靜な受け止め方をし、むしろ同情を寄せる聲が大きいのではないか。もちろん、劉翔目當(dāng)てに高騰していた入場(chǎng)券を買い求めた人にとっては、たまったものではないかもしれないが…。

劉翔「もう一度復(fù)帰を」

彼は試合後、記者の取材を受けなかったが、ある記者がコーチを通じて、その肉聲を伝えている記事を見(jiàn)つけた。劉翔は「すごくつらい。全國(guó)の人民の期待を裏切ってしまった?！工日Z(yǔ)ったという。

そのコーチによると、劉翔はアテネ五輪後の4年間、ほとんどプライベートで外出することなく、練習(xí)がないときは、一人部屋の中で、ネットをする毎日だったそうだ。華やかなヒーローの生活は「孤獨(dú)」との戦いだったことが伺える。

劉翔は試合後、「多くの人たちの聲援に感謝したい。ケガを出來(lái)るだけ早く直して、もう一度、帰ってくる」と語(yǔ)ったそうだ。

年齢的に今がピークであり、若いライバルが臺(tái)頭していることからすると、「次」は非常に厳しいかもしれない。だが、これもまた「劉翔ストーリー」の一部だとすれば、もしかしたら、本當(dāng)に「次」があるのかもしれない。一部では引退して、蕓能界入りなどという話も噂されていたが、今後の劉翔がどうなるのか…引き続き、注目していきたい。

＜注：この文章は筆者の承諾を得て個(gè)人ブログから転載したものです＞

■筆者プロフィール：朝倉(cāng)浩之

奈良県出身。同志社大學(xué)卒業(yè)後、民放テレビ局に入社。スポーツをメインにキャスター、ディレクターとしてスポーツ?ニュース?ドキュメンタリー等の制作?取材に関わる。現(xiàn)在は中國(guó)にわたり、中國(guó)スポーツの取材、執(zhí)筆を行いつつ、北京の「今」をレポートする中國(guó)國(guó)際放送などの各種ラジオ番組などにも出演している。