■■■■■2008年8月30日 ■■■■■

【その他の寫真】

比較的、冷靜に劉翔の棄権を受け入れた一般の市民に対し、最も焦ったのは、劉翔を広告に起用している各企業(yè)、そして劉翔の試合を當(dāng)て込んで競(jìng)技チケットを購(gòu)入した人たちだろう。

一説には、劉翔の出場(chǎng)する「予定」だった男子110m障害決勝のチケットは400元の2階席が20倍の8000元（12萬(wàn)円）まで高騰していたということだ。場(chǎng)合によっては、50倍以上に上がっているという話もあったから、その加熱ぶりは相當(dāng)なものだ。

私が110m障害の2回戦に足を運(yùn)んだとき、ある老人に出會(huì)った。彼は600元（9000円）のチケットを競(jìng)技場(chǎng)近くにたむろするダフ屋から6000元（80000円）で購(gòu)入したそうだ。劉翔の棄権を知った瞬間に、急いで売り払おうと、新たな「ダフ屋」を探したものの、いずれもその情報(bào)はとっくに察知済み。高くても2000元（30000円）といわれたので、それなら…と劉翔のいない鳥の巣にやってきたそうだ。殘念そうな表情で、チケットの経緯を語(yǔ)っていたが、それでも、この日は走り高跳びで世界記録が登場(chǎng)するなど、なかなかの見せ場(chǎng)があり、このお年よりも、“それなりに”楽しんだようだ。

また20社あまりに上る劉翔のスポンサー企業(yè)は、この予想だにしなかった結(jié)果に戸惑いを隠せなかった。牛乳メーカーで、五輪オフィシャルスポンサーでもある「伊利」の広報(bào)擔(dān)當(dāng)者は「金メダルを取ったときの対応、取れなかったときの対応、いずれも想定していた。だがまさか“棄権”とは…」と唇を噛む。ある大手國(guó)際企業(yè)は、早くも看板のキャラクターを変更するなどの措置をとったとの情報(bào)もあるが、今のところ、各社とも「劉翔とは長(zhǎng)い付き合い。復(fù)活に向けて、応援していく」として、様子見する姿勢(shì)を示している。ただ、以前は嫌というほど目にした劉翔のテレビコマーシャルは、五輪後、全く目にしなくなるなど、スポンサーの“劉翔離れ”は著実に進(jìn)んでいるといえよう。実際、北京五輪では51人の金メダリストが誕生しており、現(xiàn)時(shí)點(diǎn)では、「敵前逃亡」した劉翔よりも商品価値が高いともいえ、各社とも見極めムードといったところではないか。

ただ最も大きな痛手をうけたのは、やはり中國(guó)陸上界だろう。

國(guó)家體育総局の責(zé)任者は今回の五輪について、「確かに金メダル數(shù)1位は大躍進(jìn)。だが、陸上、水泳など競(jìng)爭(zhēng)の激烈な競(jìng)技ではまだまだ中國(guó)は発展途上國(guó)。引き続き努力を続けていかなければならない」と語(yǔ)った。

今回の北京五輪に向け、中國(guó)は二つの施策をとった。一つは、アテネで好成績(jī)を取ってメダル獲得が有望視される選手の更なる強(qiáng)化。そしてもう一つは、他國(guó)が余り力をいれていない、いわゆるマイナー競(jìng)技の徹底強(qiáng)化である。

後者については、今大會(huì)からというわけではなく、かなり以前からのスポーツ施策ではあったのだが、今回は予算投入の度合いも含めて、これが徹底された。結(jié)果的に、多くの種目で強(qiáng)化が実り、金メダルを量産できたわけだ。

一方、前者については、「チーム劉翔」まで作って、莫大な予算を投入して臨んだにもかかわらず、周知の結(jié)果となってしまった。これだけ110m障害に対する國(guó)民の期待が高まったにも関わらず、史東鵬が準(zhǔn)決勝敗退するなど、決勝進(jìn)出はゼロ。しかも、この二人の後を追う若手は登場(chǎng)していない。

これについて、ある體育関係者は「劉翔に頼りすぎた陸上連盟の失態(tài)」と斷じる。この「チーム劉翔」の結(jié)果、本來(lái)ならば、アテネ後に次々と劉翔の後を追って、陸上短距離の門を叩く若者が生まれ、裾野が広がっていくはずだったにもかかわらず「ポスト劉翔が全く育っておらず、ヒーローが生まれた意味がなくなった（同関係者）」という結(jié)果を生んだのだ。この現(xiàn)象は、陸上だけでなく、他の多くの競(jìng)技でも見られ、「金メダル獲得」のために、「北京後」をにらんだ育成をしっかりしてこなかった中國(guó)スポーツ界は今後、大きなツケをかぶることになるだろう。

中國(guó)陸上界は今後、「劉翔に頼らない」選手育成を進(jìn)めていくことを暗に示している。いわば「劉翔離れ」が五輪後、ようやく始まったというわけだ。劉翔の専屬コーチは、すでに110m障害の“秘蔵っ子”（17歳）を見つけており、次のロンドンは無(wú)理でも、2016年を目指して、育成を続けている。

経験がモノを言う障害競(jìng)技だから、劉翔は十分ロンドンも狙えるし、本人も早くも気持ちを切り替えて、4年後に向けてスタートを切っている。だが、「新王者」デイロン?ロブレス（キューバ）の成長(zhǎng)振りを見ていると、劉翔の復(fù)活は非常に厳しいのが現(xiàn)実。そこにまた、劇的な「劉翔?復(fù)活劇」が生まれることは期待してもいいのだが、そんな浪花節(jié)のストーリーに一國(guó)のスポーツ政策を託すわけには行かないのは當(dāng)然だ?！弗荪攻葎⑾琛工彼伽诉M(jìn)んでいくのは間違いないだろう。

もし仮に…劉翔が金メダルをとっていたら、今頃、「チーム劉翔」は祝杯を挙げ、北京への4年間が全面的に肯定されて終わっていただろう。今回、陸上関係者が深刻に陸上の現(xiàn)狀を受け止めていることは、中國(guó)陸上、いや中國(guó)スポーツ全體が変わる前兆とも受け取れる。

劉翔の棄権は、考えようによっては、中國(guó)スポーツを改革する大きなきっかけになるかもしれない…とも言えるかもしれない。

＜注：この文章は筆者の承諾を得て個(gè)人ブログから転載したものです＞

■筆者プロフィール：朝倉(cāng)浩之

奈良県出身。同志社大學(xué)卒業(yè)後、民放テレビ局に入社。スポーツをメインにキャスター、ディレクターとしてスポーツ?ニュース?ドキュメンタリー等の制作?取材に関わる。現(xiàn)在は中國(guó)にわたり、中國(guó)スポーツの取材、執(zhí)筆を行いつつ、北京の「今」をレポートする中國(guó)國(guó)際放送などの各種ラジオ番組などにも出演している。