八牧浩行 2018年1月5日(金) 5時0分
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世界を牽引する「2トップ」の米國と中國が、冷戦時代の米ソのように鋭く対立しないのは経済相互依存が存在するためである。事実上「新型大國関係」に踏み出したと言っても過言ではない。安全保障でも緊密な関係にあり、北朝鮮問題では密約説も流れている。資料寫真。
米國と中國は世界1、2位の経済?軍事大國として対峙している。世界を牽引する「2トップ」として、米中が冷戦時代の米ソのように鋭く対立しないのは両國間に経済相互依存が存在するためである。事実上「新型大國関係」に踏み出したと言っても過言ではない。
2017年11月9日に北京で開催されたトランプ米大統(tǒng)領(lǐng)と中國の習近平國家主席のトップ會談。懸案の「北朝鮮非核化」で一致したほか、米中貿(mào)易不均衡是正のため2500億ドル(約28兆4200億円)以上の商談が成立。中國も悲願の「新型大國関係」を內(nèi)外にアピールした。
広大な北京故宮博物院で開催された首脳會談の共同記者會見で、トランプ氏は「完全に北朝鮮を非核化することで合意した。経済的な圧力を強め、北朝鮮が無謀な道を放棄するまで続ける」と述べ、「北朝鮮非核化」で意見が一致したと強調(diào)。習主席も「安保理決議の全面的かつ厳しい履行を継続する」と応じた。
トランプ大統(tǒng)領(lǐng)は首脳會談の冒頭「米中関係ほど重要な関係はない。私たちには世界の問題を解決する能力がある。米中はウィンウィン関係を築く」と明言したが、これは習近平主席にとって待望していた言葉。トランプ氏は「習近平主席はすばらしい指導者だ」と褒めちぎった。両首脳は記者會見で、米中間の様々な分野で進行する?yún)f(xié)力の成果を強調(diào)。米國との「対等な関係」を意識した中國の動きは今後さらに高まりそうだ。
◆習政権、米國との合意は900件に
習政権の有力ブレーンである胡鞍鋼清華大學教授?國情研究センター長は、習氏が國家主席に就任した2012年以降「米中間で交わした合意は700件を超え、早晩900件以上になる」と指摘。米中は今回の首脳會談で両國が世界を牽引する「2トップ」として「新型大國関係」に事実上踏み出したと分析している。習氏はオバマ前米大統(tǒng)領(lǐng)との會談でこの言葉をアピールして米國から警戒された経緯があり、トランプ政権発足後はこの表現(xiàn)を避けてきた。しかし10月の共産黨大會で基盤をさらに固め、2期目に入った習主席が、米國と互角に渡り合う「新型大國関係外交」に自信を深めたのは間違いないところだ。
胡教授は「世界1、2の大國が仲良くしなければ世界に“激震”が起こる。中國と米國の間に大きな太平洋があり、両國がステークホルダー(利益共有者)になることができる」と力説?!该字袇f(xié)力の數(shù)は數(shù)知れない。経済分野はもちろん、米國にとっての共同研究先の第1位は中國であり、両國は切っても切れない仲。互いに利益を共有しており、さらに協(xié)力すればさらに大きな成果が期待できる。習氏とトランプ氏に共同で新しい企畫を持ちかけている」とし、米中が冷戦時代の米ソのように鋭く対立しないのは両國間に緊密な経済相互依存が存在するためという。
◆トランプ氏は中國を?qū)澋趣手匍gと見ている
呉心伯?復旦大學國際関係學院副院長兼アメリカ研究センター所長は「中國は米國との対立は望まず、競爭と協(xié)力のバランスをとり共存、衝突は回避できる」と指摘?!弗啸奘悉仙悉槟烤€だったが、トランプ氏は中國を平等なパートナーと見ている」との認識も示し、「米中はゼロサム(一方の利益が他方の損失になること)ではなく相互依存関係にあり、ウィンウィンの関係だ。雙方は経済貿(mào)易や北朝鮮の核ミサイル開発問題で連攜できる」と強調(diào)した。
毎年米中交互に開催されてきた米中戦略?経済対話は、米中両國の主要閣僚や政府?経済界が経済や安全保障分野の懸案、國際的な課題について意見交換する大規(guī)模會議。毎年閣僚や政府関係者、経済界のトップクラス1000人近くが出席。トランプ政権になっても枠組みを変え引き継がれた。
米國との間で、日本にはこのような定期的な戦略的大規(guī)模対話はない。米中は互いの立場を暗黙裡に理解し合う「阿吽(あ?うん)」の関係にあるとの見方も多い。筆者は昨年も、中國各地で取材したが各地で米國企業(yè)が立地し、米ブランドのビルが林立、アメリカ人であふれていた。米國では中國語を幼児に習わせる家庭が急増しており、トランプ氏の5歳になる孫も中國語を?qū)Wんでいる。
米國にとって最大の課題は巨額の米政府債務と経常赤字の縮減であり、破綻を避けるためには、世界最大の中國消費市場の取り込みが不可欠と判斷している。中國は米國の最大の輸出相手國である上に、中國は米國債を1兆3200億ドル(約160兆円)も保有、外貨準備も3兆8000億ドル(約460兆円)と世界最大である。
米中間の波亂要因は貿(mào)易摩擦。米國の16年の貿(mào)易赤字7343億ドルのうち、中國は3470億ドルと全體の47%を占めた。米政府は米通商法301條に基づく対中貿(mào)易制裁措置を発動する構(gòu)えである。ところが、中國では輸出入ともに外資系企業(yè)のウエイトが高く、輸出品の4割は外國企業(yè)が製造。対米輸出品に限ればその7割を多國籍企業(yè)をはじめとする米関連企業(yè)が製造しており、中國からの輸入品に高関稅をかければ米企業(yè)が苦境に立たされる仕組。日本からの対米輸出のほとんどが日本企業(yè)によっているのと違いが際立つ。
中國も、米國と厳しい対立があっても衝突せず、対話で解決する「対立的共存」方針のもと、米中が互いに干渉せずに利益を追求する世界を志向している。國內(nèi)向けには対立姿勢を見せつつ、米國と経済相互発展と武力不使用を改めて確認し合っているのが実情だ。
安全保障面でも米軍と人民解放軍は協(xié)力関係にある。米ハワイ諸島沖で2年に1度行われる米海軍主催の環(huán)太平洋合同演習(リムパック)に中國海軍も招待されている。米軍艦の上海港などへの寄港も頻繁だ。陸軍同士も非常時支援訓練などで米中が協(xié)力、空軍同士の交流も行われている。
◆米中、安全保障でも連攜
米中の実情に詳しい松尾文夫?元共同通信ワシントン支局長によると、米中間には「相互確証破壊」(2つの核保有國の雙方が、相手方から核先制攻撃を受けても、相手方の人口と経済に耐えがたい損害を確実に與えるだけの核報復能力を溫存できる狀態(tài))が成立しており、核戦爭ができない間柄にあるという。同氏は「これで結(jié)ばれた米中関係は日米間よりも深い」と見ている。
田中均?國際戦略研究所理事長(元外務審議官)は「米中関係がどうなるか関心を払わなければならない。米中間で貿(mào)易戦爭になったら、日本や東アジアは大きなダメージを受ける。米中首脳間でグランドバーゲン(包括的取引)が成立することが日本とってもアジア諸國にとっても望ましい。経済的には米國は東アジアで建設(shè)的に、中國と話し合いをして関與すべきだ」と提言する。米中バーゲン(取引)の條件は(1)東シナ海、南シナ海で自制するか、(2)北朝鮮に本気で圧力をかけられるか―の2點。「米中協(xié)調(diào)が東アジアの安定と発展に望ましい」と語る。
朝鮮半島情勢でも米中の連攜が進行している。ティラーソン國務長官は昨年12月12日、ワシントンで次のような趣旨の講演を行った。
<北朝鮮が崩壊する事態(tài)にそなえて、中國と既に話し合っている。核兵器をきちんと回収するため、米軍が南北を隔てる北緯38度線を越えて北朝鮮に進入したとしても、環(huán)境が整えば、米軍は撤退する。中國にはそう保証している。>
これは爆弾発言といえるが、外交トップの発言は重い。南北対話の機運が出てきたことや、米朝會談開催説などが取りざたされている展開をみると信憑性がありそうだ。トランプ大統(tǒng)領(lǐng)と習近平國家主席は11月9日の會談で、北朝鮮問題について「中長期」の方策を話し合うことで一致。これを受け、米中高官級の対話が進行しているという。
日本の外交専門家は「両國は水面下でつながっている」と分析。北朝鮮問題にとどまらず、北東アジア秩序にも関係する大きな構(gòu)想だけに、米中には「大國である自分たちで主導したい」という共通認識があると見ている。日本を含む関係國にとって、頭越しに米中の連攜が進行しているとすれば、「ある種の不安材料」(同専門家)と言えよう。(八牧浩行)
<続く>
■筆者プロフィール:八牧浩行
1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、歐州、米國、アフリカ、中東、アジア諸國を取材。英國?サッチャー首相、中國?李鵬首相をはじめ多くの首脳と會見。東京都日中友好協(xié)會特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著?共著に「中國危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外國為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。
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