前回のコラムでは進(jìn)展する北京の大衆(zhòng)消費(fèi)社會(huì)化を紹介しながら、その影の部分をも描寫(xiě)した。今回、テレビ番組の分析や蕓術(shù)空間探訪などを通じ、北京での市民レベルでの「対外」感覚を探りたい。

【その他の寫(xiě)真】

▽ストレートなお見(jiàn)合い番組

一見(jiàn)無(wú)関係な話題からの導(dǎo)入で恐縮だが、筆者は日本でも外國(guó)でもテレビを比較的見(jiàn)る方である。筆者の回りのいわば知的階層に屬する友人たちはテレビを見(jiàn)ない人の方が多いので、筆者は珍しい部類に入るだろう。

そんな筆者にとって中國(guó)でも參ってしまったのは、ロンドン五輪である。代表的なテレビ局の中央電視臺(tái)は始終中國(guó)選手を中心に実況し、朝のニュースも30分以上かけて報(bào)道する。まあこれは日本國(guó)內(nèi)でも同じなのだが、こういう狀況下ではテレビというメディアの眼目である日常性というものを測(cè)ることが難しくなる。

幸い日本と違って中國(guó)ではチャンネルは60?100くらいある?！袱ⅳ欤俊∏閳?bào)統(tǒng)制が進(jìn)んでいるはずだが…」と思われる向きもあるかもしれないが、中國(guó)では中央電視臺(tái)以外に、地方局が衛(wèi)星を飛ばして中國(guó)全土で視聴が可能。いわば日本のローカル?ノンキー局が衛(wèi)星局になって東京でも視聴可能になった事態(tài)を考えてほしい?！干鐣?huì)主義市場(chǎng)経済」化の賜物ではあるが、こうした地方局の中には利潤(rùn)追求の目的もあって思い切った番組を作っているところもある。

米「アメリカン?アイドル」の中國(guó)版である「超級(jí)女聲」で一躍有名になった湖南電視臺(tái)もその一つ。今回筆者はホテルでザッピングをしているうちに同局のお見(jiàn)合い番組「我們約會(huì)●（口へんに巴）」（デートしましょう）という番組を見(jiàn)つけた。実は似たような番組を作っているのは浙江電視臺(tái)などもあるのだが、湖南電視臺(tái)のこの番組はエグいほどにストレートなのだ。

この番組では結(jié)婚を前提にした相手を探したい男性が一人登場(chǎng)し、30人もの獨(dú)身女性が次々と質(zhì)問(wèn)を浴びせていく形式なのだが、これが本音丸出しで、日本の一昔前の「パンチDEデート」などを想定していては面食らう。

例えば大學(xué)で數(shù)學(xué)教師をしている33歳の男性は、學(xué)術(shù)関係者らしく世間におもねらず、いわば清貧の中でも自分らしく生きていくことを主張したが、この男性に対しある獨(dú)身女性が「新居は購(gòu)入するつもりはあるんですか？」と質(zhì)問(wèn)。「ない」と答えた男性に「今時(shí)新居もなくて嫁さんの來(lái)手があるわけないじゃない！」とバッサリ。こうした応答の過(guò)程で他の女性も男性に☓印をつけていくわけだが、その理由を聞かれると「容姿も性格もとんでもなくて全くワタシ好みじゃない」と手厳しい。結(jié)局この男性を選ぶ女性は一人もいなくなってしまった。

この手の番組以外でもプロの歌手と全くの素人がともに出演して歌聲を競(jìng)う番組などもあったが、一連のこうした地方発の番組を見(jiàn)ているうちに思い出されたのが米國(guó)のテレビ番組、特にFOXテレビのそれだ。テレビ番組には輸出用フォーマットというべきものも存在するので、そういうものを利用している可能性もあるが、いずれにしても中國(guó)人特有のストレートな部分がこうした米國(guó)スタイルにも促されて強(qiáng)く出ているという感じを受けた。そういえばこれは伝聞だが、中國(guó)の最近の學(xué)術(shù)エリートによる討論が米國(guó)のそれに酷似しているという指摘もある。日本社會(huì)では高度成長(zhǎng)後、生活のアメリカ化が進(jìn)み、1960年代以降「內(nèi)なるアメリカ化」が始まったとする言い方があるが、これに基づけば中國(guó)でもついに2000年代以降本格的に「內(nèi)なるアメリカ化」が始まったといえるかもしれない。

▽今回の旅の本當(dāng)の目的は…

ところでそれほど強(qiáng)いモチベーションを持っては臨まなかった今回の北京滯在ではあるが、當(dāng)然テレビ鑑賞が主たる目的ではない。いちおう探れればいいなあと思っていたのは、この連載の趣旨とも関係するが、中國(guó)の市民レベルあるいは若年層レベルでは臺(tái)灣をどのように捉えているのか、また當(dāng)局系あるいはそれに近いレベルでは建前はともかくとして本音レベルでは、事実上実効支配の及んでいない地域として、どのように臺(tái)灣の近代化過(guò)程を參照し、自らの參考あるいは反面教師にしようとしているのかという點(diǎn)にあった。

殘念ながらこれらの點(diǎn)についてはそう大きな成果は得られなかったかもしれない。ある文化人系列の集まりで、これらの疑問(wèn)點(diǎn)を思い切って口にしてみたのだが、ふっと「はっきりとは答えにくいなあ」というような空気が流れたのでそれ以上は觸れることはしなかった。文化人なら庶民とは違い臺(tái)灣関係で何らかの考えを持つことは想定される。しかしそれを口にするとやや敏感な問(wèn)題に觸れざるを得ない―という判斷だろう。何人かの発言を自分なりに解釈すると中國(guó)と臺(tái)灣の発展過(guò)程を同等に扱っていくには「まだちょっと早い」という反応であったようだ。

では文獻(xiàn)レベルではどうかということでいくつかの書(shū)店、図書(shū)館をめぐってみたが、當(dāng)然のことながら、中華人民共和國(guó)、共産黨の見(jiàn)解を超えるものは出ていなかったが、逆にどのへんが「限界」なのかはよく分かった。例えば臺(tái)灣において70年代末以降の民主化に関する記述は、時(shí)に韓國(guó)と対比されながらなされているが、それについても極めて「客観的」な筆致で展開(kāi)されておりよく研究されていることはわかるものの、中國(guó)自身との比較という視點(diǎn)は當(dāng)然ながら敏感なところに觸れざるをえないだけに欠落していた。このあたりはもう少し中國(guó)國(guó)內(nèi)の研究者と個(gè)別の人間関係ができていけばあるいは深い次元を聞きだせるかもしれないが、それにしても記述としては無(wú)難なものにならざるをえないだろう。

　市民、あるいは若年層レベルではどうかということだと今回は一部の若年世代とはお會(huì)いする機(jī)會(huì)はあったものの、サンプル數(shù)がまだ少ないので今後増やしていくよう検討したい。運(yùn)動(dòng)関係、NGO関係者の中には70年代末以降の臺(tái)灣の変動(dòng)を大きく意識(shí)している人もいるようだが、一般レベルの市民や若年層だとまだまだそこまではないようである。ただ北京編1で書(shū)いたように旅行ガイドなども臺(tái)灣関連のものが多くではじめているし、地下鉄の中で臺(tái)灣旅行経験者が「臺(tái)北では地下鉄のことを「捷運(yùn)」(『捷』は音訳でジェットの意味)ていうんだよね。うまい表現(xiàn)だね」などと屈託なく話しているのを耳にした。こうしたところから見(jiàn)れば徐々に関心が高まりつつあるともいえるかもしれない。このへんを探っていくにはやはり中國(guó)國(guó)內(nèi)のネット空間を手始めにしたほうが良さそうだ。

▽蕓術(shù)空間ようやく探訪

　最後に書(shū)いておきたいのは、筆者としては初めて、北京市內(nèi)東北部、いわば市內(nèi)中心部と空港の中間に位置する複數(shù)の蕓術(shù)空間を訪ねたことである。以前から、拡大著しい北京においては既に発展が飽和狀態(tài)になっている中心部よりは、郊外のほうが外來(lái)人口も含めて人間的に面白い層が存在している、とは指摘されていた。特に市內(nèi)東北部のこの地域はそう言われており、筆者としても長(zhǎng)年行きたかったところだったので、今回訪問(wèn)が実現(xiàn)して本當(dāng)に良かったと思っている。

　郊外で最近韓國(guó)人人口の増加著しい望京という街を経由して最初に向かったのは「798蕓術(shù)區(qū)」である。ここは中國(guó)関連の人の間ではあまりにも有名なところであり、その數(shù)字の名前が示すように國(guó)有工場(chǎng)の並ぶ地域であった。しかし改革開(kāi)放とともに経済構(gòu)造の転換が進(jìn)む中で、國(guó)有工場(chǎng)としての需要が徐々に減っていったことがこの地域の蕓術(shù)區(qū)への転換を進(jìn)めたということは間違いなさそうだ。こうした転換ぶりが中國(guó)內(nèi)外で話題になり腳光を浴び続けてきたが、近年は商業(yè)化し過(guò)ぎではないかとの批判もある。

　筆者が訪ねた際はたまたま寫(xiě)真関連の施設(shè)を中心に巡っていたが、最近の日本における「カメラ女子」同様に、一眼レフをぶら下げた二人組以上の女子高生または女子大生世代が目立った。展示場(chǎng)はもともとの生産施設(shè)を利用しているせいもあってだだっ広いところが多く、中には國(guó)有企業(yè)時(shí)代の生産機(jī)械をそのまま展示してあるところもある。798に関しては多少は日本の影響や進(jìn)出しているギャラリーなどもあるようだが全體的には歐米の影響のほうが強(qiáng)いようだ。

　798を後にして次に向かったのは、もう少し地味な、言い換えれば、まだそれほど商業(yè)化されていない蕓術(shù)區(qū)「草場(chǎng)地」である。ここではたまたま、アラーキーこと日本の著名寫(xiě)真家である荒木経惟氏の個(gè)展が開(kāi)かれていた。中國(guó)ということもあって、アラーキーワールドも全開(kāi)というよりは若干抑え気味であったが蕓術(shù)性の高い次元の寫(xiě)真に関してはほぼ全開(kāi)であったといってもいいだろう。北京でアラーキーの世界に遭遇するとは思ってなかったが、荒木氏のある意味ラディカルな世界を求め、受け入れる懐の深さというものも感じた。

　以上北京再訪に関しての実感を綴らせていただいたが、一週間強(qiáng)でもまだまだ物足りなさがあり、文字通り「ななめ読み」となってしまったところもあるかもしれない。次回以降はもう少し腰を據(jù)えて取り組みたいという気もしている。

（本田親史/國(guó)士舘大アジア?日本研究センター客員研究員＜PD＞）

●寫(xiě)真一枚目＝湖南電視臺(tái)のお見(jiàn)合い番組「我們約會(huì)吧」の一コマ、二枚目＝798蕓術(shù)區(qū)の入口。