<直言!日本と世界の未來>米中覇権爭い、ポピュリズム蔓延、英國のEU離脫-リスク要因が急拡大―立石信雄オムロン會長

立石信雄    2019年6月2日(日) 7時20分

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米中貿易戦爭が長期化するとの懸念から日米中の株価が大幅安となり、市場でリスク回避姿勢が強まっている。加えて、歐州経済の先行き不安から世界で長期金利が低下するなど、投資家心理を弱気にさせる材料に事欠かない。

長らく経済界に身を置き、國際社會と関わってきたが、現(xiàn)在ほど世界全體を暗雲(yún)が覆っている時代はあまりなかったような気がする。米中貿易戦爭が長期化するとの懸念から日米中の株価が大幅安となり、市場でリスク回避姿勢が強まっている。加えて、歐州経済の先行き不安から世界で長期金利が低下するなど、投資家心理を弱気にさせる材料に事欠かない。

トランプ政権が「アメリカファースト」の旗印の下、保護主義的な政策を推進。米中の貿易戦爭や次代覇権爭いが激化し、英國の歐州連合(EU)離脫問題も混迷の度を深めている。

一方で中國やロシア、トルコ、フィリピンに代表される強権的な國家が臺頭、アジア、中東、南米、アフリカなどで増えている。北朝鮮の核開発問題をめぐる「劇場型駆け引き」も、戦後秩序激変のあらわれと見ることもできる。EU議會選挙に見られるように、各國でポピュリズム(大衆(zhòng)迎合主義)が強まっており、世界を支えてきた普遍的な理念が脅かされているのではなかろうか。

深刻なのは戦後の秩序をつくり主導してきた米國がその秩序を破壊していること。國連や世界銀行、世界貿易機関(WTO)など法を順守する今の國際秩序に米國が主體的に関わらなければ、民主主義體制とは異なる勢力が増大しかねない。

現(xiàn)在世界で顕著なのはポピュリズムの蔓延であり、強権的な國家の増加ではなかろうか。政府、大企業(yè)、學會、舊來メディアなど20世紀型組織?権威の凋落とも言える現(xiàn)象が見られ、21世紀には中間の「無組織層」が大幅に増加、経済、政治、社會、メディア、教育現(xiàn)場など多方面で中抜き現(xiàn)象が広がっている。

世界で臺頭しているのが、「中華民族の偉大な復興」スローガンを掲げる中國。冷戦が終結した後、「唯一の超大國」として君臨してきた米國との経済、軍事両面で將來の覇権を賭けた攻防が激化している。

國際通貨基金(IMF)によると、中國の國內総生産(GDP)は2014年に、実態(tài)に近い購買力平価(PPP)で米國を追い抜き、世界1位になった。世界銀行は名目GDPでも十年以內に拮抗すると予想。消費市場としても実質世界一であり、多くの國にとって貿易相手國のトップを占める。米國、歐州、韓國、東南アジア諸國なども中國のパワーを無視できない。

中國の改革開放以來の驚異的な急成長を前に、シンガポール、ベトナム、フィリピン、カンボジアなど中國型の強権的國家モデルを目指す開発途上國が増加している。

人工知能(AI)やロボット、フィンテック(金融技術)、情報技術(IT)など次世代産業(yè)を左右するビッグデータ分野で、米國と中國が覇を競っている。インターネットの閲覧や買い物履歴など経済のデジタル化が進行している。世界最大14億人の人口を有し、一黨獨裁の中國では、データを集めやすく、それだけ人工知能(AI)の性能を高められる。

世界の覇権國家として長らく君臨してきた米國は、常にナンバー1でなければ気が済まず、ナンバー2國家を警戒する傾向が強い。かつての標的はソ連の軍事力であり、日本の経済力だったが、これらライバル國を退けてきた。今は中國の臺頭に焦りを抱き、標的としているが、強力な「中國パワー」に手こずっているのが実情だと思う。

米政権は中國が技術を盜み出し個人のデータ情報を國民監(jiān)視や治安維持の道具に使っていると非難。中國からの輸入品への高関稅付加や中國企業(yè)の米IT企業(yè)買収を阻止している。中國側は「グーグルなど米國企業(yè)もブラックボックスであり、膨大なデータを米政府も活用している」と応酬。アジア、中近東、中南米などの途上國では、米中IT企業(yè)の熾烈な戦いが展開されている。

米國が中國製品の関稅を大幅に引き上げたり、華為技術(ファーウェイ)を世界のサプライチェーンから排除しようとしたりするのも、焦燥のあらわれと見ることが出來よう。

米中の対立は次代の覇権爭いの様相を呈し、厳しい攻防が続いており、世界経済の低迷に拍車をかけている。米中貿易摩擦が世界の実質國內総生産(GDP)に與える影響として、國際通貨基金(IMF)の試算では、世界のGDP成長率は19年に0?78%、20年に0?82%下落すると予測している。さらに米國が自動車や自動車部品の輸入に25%の追加関稅をかければ、各國の設備投資は縮小してしまう。

景気の先行きに不透明感が強まっている。中國経済の減速に引きずられ、景気動向指數(shù)の基調判斷は6年ぶりに「悪化」に転じた。1~3月期の実質國內総生産(GDP)は前期比、年率換算で2.1%増と予想外のプラス成長になったが、中身をみると內需に陰りが出ている。

こうした激動の世界情勢の中で、日本の役割は重要である。最大の同盟國である米國と最大の貿易相手國である中國の間で橋渡し役を擔うべきであろう。日本がめざすべきはアジア太平洋融合の枠組みだ。環(huán)太平洋経済連攜協(xié)定(TPP)と東アジア地域包括的経済連攜(RCEP)を結合して「スーパーFTA(自由貿易協(xié)定)」をつくり、米國を呼び込むことである。分斷ではなく融合こそ共通目標である。6月に大阪で開く20カ國?地域(G20)首脳會議は、議長國である日本にとって活躍のチャンス。新冷戦やブロック化を抑止し、世界経済の再興の向け先頭に立つ重要な機會になろう。

<直言篇89>

■筆者プロフィール:立石信雄

1959年立石電機販売に入社。1965年立石電機(現(xiàn)オムロン株式會社)取締役。1995年代表取締役會長。2003年相談役。 日本経団連?國際労働委員長、海外事業(yè)活動関連協(xié)議會(CBCC)會長など歴任。「マネジメントのノーベル賞」といわれるSAM(Society for Advancement of Management)『The Taylor Key Award』受賞。同志社大名譽文化博士。中國?北京大、南開大、上海交通大、復旦大などの顧問教授や顧問を務めている。SAM(日本経営近代化協(xié)會)名譽會長。エッセイスト。

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