<米中覇権爭い>中國は「持久戦」で反転攻勢へ=米國の対中関稅上げ、米経済にも大打撃―“トランプ奇策”で米衰退加速

八牧浩行    2019年9月2日(月) 8時0分

拡大

米中の対立は次代の経済覇権爭いの様相を呈し、追加関稅をめぐり報復(fù)の連鎖が続く。米國が攻勢をかけ、中國が防戦するとの構(gòu)図が流布されがちだが、実際に中國を取材し、米國の実情を探ると様相は異なる。寫真は上海中心部の「愛國」スローガン(2019年7月)

米中の対立は次代の経済覇権爭いの様相を呈し、追加関稅をめぐり報復(fù)の連鎖が続く。米國が攻勢をかけ、中國が防戦するとの構(gòu)図が流布されがちだが、実際に中國を取材し、米國の実情を探ると様相は異なる。

トランプ米政権が9月1日、1100億ドル分の中國製品を?qū)澫螭酥撇瞄v稅第4弾を発動、中國も即座に米製品に追加関稅を課した。米國が対中強硬策を表明するたびに株価が下落、トランプ大統(tǒng)領(lǐng)が慌てて譲歩するパターンが繰り返されている。トランプ氏は最大の輸入相手國である中國に次々と高関稅を課すことで赤字縮小を狙ったが、逆効果だった。2019年1~6月期の全體の貿(mào)易赤字は4121億ドルと前年同期比で3%増加してしまった。

中國は米國の弱みと焦りを徹底的に研究し、長期的な戦略の下、持久戦に持ち込む構(gòu)えだ。

◆「愛國」「自力更生」のスローガン

今年7月、上海の中心街にあるシティホテルでの出來事。いつも常備されている使い捨て歯ブラシが見當たらない。用意がなかったので、フロントにただすと「使い捨てのカミソリも含め無料で提供できなくなった」という。聞けば上海は他の都市に先駆け、「ゴミ分別」などを義務(wù)付ける生活ごみ管理條例が7月1日から施行されたばかりで、市內(nèi)すべてのホテルの常備サニタリー品も対象になったと明かした。

條例では、生活ごみを、「生ごみ」、ペットボトルや瓶などの「リサイクル品」、使用済み電池などの「有害ごみ」、その他の「乾燥ごみ」の4つに分別した上で、毎日朝晩の決まった時間に設(shè)置された専用のごみ箱に捨てることを市民に義務(wù)づけた?!腑h(huán)境保護社會」を目指す國家的な運動の一環(huán)である。

しかしこれを単純な「環(huán)境保護」と考えるべきではない、と筆者は思う。こうした運動には、米國との対抗上、先進國としての地位を高めることや、環(huán)境保護を通して國民を一致団結(jié)させる側(cè)面もあるようなのだ。中國の街を歩いて回ると、「愛國」「自力更生」のスローガンがあふれている。上海の目抜き通りにも、「愛國」の2文字が赤く輝いていた。

トランプ大統(tǒng)領(lǐng)は事実上今年秋から始まる次期大統(tǒng)領(lǐng)選挙の勝利が最大の目標。3年前の大統(tǒng)領(lǐng)選で対中強硬路線を打ち出した経緯もあり、途中で引き下がるわけにいかない?!笧樘娌僮鲊J定」も公約に掲げられおり、これを遵守した格好だ。

8月1日にトランプ大統(tǒng)領(lǐng)が中國への制裁関稅「第4弾」の発動を表明したことで、ニューヨークのダウ平均株価は767ドルあまり値を下げ、今年最大の下げ幅となった。その後も続落基調(diào)が続いた。同13日、トランプ氏が「対中10%の第四弾追加関稅発動を、一部の品目に限り、12月15日まで延期する」と発言。大統(tǒng)領(lǐng)選挙勝利を至上命題とするトランプ大統(tǒng)領(lǐng)は、最大の商機、クリスマス商戦を前に課稅を事実上延期せざるを得なかった。

◆大統(tǒng)領(lǐng)選勝利が至上命題、初めて「副作用」認める

トランプ米政権が発動を先送りした対象品目リストはスマートフォンや玩具、靴など年末のクリスマス商戦の目玉商品を網(wǎng)羅した。米國內(nèi)総生産(GDP)の7割を占める個人消費への影響を抑えたいトランプ大統(tǒng)領(lǐng)の思惑が反映された。トランプ氏は記者団に一部製品の関稅を延期する理由を「クリスマス商戦のためにやる。萬が一、米國の消費者に影響が及ぶことを考慮した」と説明した。これまで関稅上げは米國に悪影響を及ぼさないとの一點張りだったが、初めてその副作用を認めたものだ。「一部の品目」といっても、実際は3000憶ドル分(約32兆円)のうち金額ベースで大半の品目が対象となるという。

まさに朝令暮改、米株価は直後に反発したものの、14日に前日比800ドル安と今年最大の下げ幅を記録。さらに8月下旬に米中による関稅引き上げ応酬合戦の様相を呈したため米市場をはじめ世界の金融市場が大混亂に陥った。トランプ大統(tǒng)領(lǐng)は連邦準備制度理事會(FRB)に圧力をかけ、利下げへ転換させたが、世界的なサプライチェーン(産業(yè)連関)切斷という、経済原則を無視した“奇策”を前に大きな効果を発揮していない。

株価が急落した局面で米政権が中國への強硬姿勢を和らげ、投資家心理が好転する―。このパターンはこれまでに何度も起きたことだ。昨年秋以降の米市場を発端とする世界的なマーケットの急落時には、12月のブエノスアイレス首脳會談での合意にこぎつけた。6月の大阪サミット時の首脳會談と同様米國から持ち掛けたもので、焦りの裏返しである。

市場の変調(diào)や経済界の反発と並んでトランプ氏にとって頭が痛いのは、有力な支持層である農(nóng)業(yè)関係者の反抗。中國の報復(fù)措置で大豆など米國産農(nóng)産物の対中輸出が制限され、価格が下落、農(nóng)業(yè)関連企業(yè)の倒産も出始めた。

◆米経済減速予兆も焦り誘う

米経済の先行きに不透明感が増していることも大きく影響する。4~6月期のGDPは輸出が3四半期ぶりにマイナスに転落し、米製造業(yè)の景況感指數(shù)は7月に2年11カ月ぶりの低水準となった。7月の鉱工業(yè)生産指數(shù)は109.2となり、前月比0.2%低下した。金融市場も米景気後退の可能性を警告、10年債と2年債で景気後退の予兆とされる米長短金利差の逆転が起きた。企業(yè)収益や個人消費への影響が避けられない。

一方で中國は10月1日には國慶節(jié)を迎える。今年は特に建國70周年記念の年である。米政府が中國製品に10%の追加関稅をかける方針を公表したことに対し、「中國は必要な対抗措置を取らざるをえない」とする聲明を発表?!弗ⅴ毳讥螗隶螭浯筅妞扦蚊字惺酌棔劋喂餐ㄕJ識に著しく違反している」と批判した。トランプ米政権は一部商品への課稅を先送りする方針を決めたが、中國は対抗措置を取る方針に変わりがない點を強調(diào)したものだ。

米國際問題誌『The National Interest』は「関稅戦爭は結(jié)局、雙方のどちらが痛みに最も耐えられるか、である」とその闘いの本質(zhì)を指摘し、中國は明らかに米國より我慢強いと認めた。なお、「この闘いにトランプ政権が勝てないことが明らかになると、北京はより大膽にワシントンに挑戦していくだろう」と論評した。

◆米企業(yè)からも「戦爭の終結(jié)」を求める聲

中國メディアの「捜航網(wǎng)」は7月1日、首脳會談はトランプ側(cè)の「大きな譲歩」だとし、米側(cè)の要因として、中國からすでに取り付けた成果を確保したいこと、中國の強硬姿勢に直面してこれ以上取れないと判斷したこと、米國內(nèi)の経済?農(nóng)業(yè)団體からの圧力の増大、國際社會の対米不満の高まり、再選のために外交の成果が欲しいなど5點を挙げた。

中國では長期戦への覚悟を國民に求めるような報道も出始めている。持久戦に持ち込み、時間稼ぎをすれば大統(tǒng)領(lǐng)選への影響を懸念するトランプ氏が矛を収めるとの思惑も否定できない。

トランプ政権の中國への高関稅は米國経済に悪影響を及ぼしている。中國の対米輸出の金額には中國へ進出している米企業(yè)が製造したモノも含まれ、17年の中國貿(mào)易黒字の57%は米系など外資企業(yè)が稼いでいた。トランプ政権による対中高関稅は中國で生産して米國へ輸出する米國企業(yè)に大きなダメージを與える。

実際、貿(mào)易戦爭によってダメージを受けている國內(nèi)企業(yè)からも「戦爭の終結(jié)」を求めるような聲が上がっている。グーグルやインテル、クアルコムなど米企業(yè)7社の経営トップは7月22日、ホワイトハウスを訪れトランプ大統(tǒng)領(lǐng)と面會した。中國の通信機器最大手、華為技術(shù)(ファーウェイ)への制裁を巡り、商務(wù)省が個別に出す同社への輸出許可について適切な時期に決斷するようトランプ氏に直談判し、同氏も有力スポンサー企業(yè)のクレームを受け入れざるを得なかった。

戦後の経済秩序を主導しグローバル経済を広めた米國が「自國第一」の殻に閉じこもり、米國內(nèi)外で軋轢を生んでいる。米有力大學教授は「“トランプ失政”と言え、米経済の衰退を加速する」と懸念している。

◆中國の底力を見誤った?

こうした聲が上がるのはひとえに、今後の中國の「成長の余白」があまりにも大きいからだろう。ドイツの時事週刊誌『Focus』の6月18日號はドイツの中國問題専門家へのインタビューで、「ヨーロッパはこれまで米國の力を買いかぶり、中國の底力を見誤った」とし、ヨーロッパは時勢に応じて臨機応変に対応しなければならないと提言した。

オーストラリアのシンクタンクLowy Instituteが5月に発表した2019年版「アジアの実力指數(shù)」は、米中日ロなど25カ國に対して8分野に分けて指數(shù)をつけて調(diào)査した結(jié)果、100點満點で、米國は「軍事力」「回復(fù)力」「文化的影響力」など4項目でリードし、総合得點が84.5で一位であるのに対し、中國は「経済力」「未來性」「外交的影響力」など4項目で一位を占め、総合得點は75.9で二位になり、前の數(shù)年間に比べ、急速に追い上げている。

貿(mào)易戦爭で中國経済が「深刻な打撃」を受け、外資が逃げ出しているとの報道が目立つが、中國商務(wù)省によると、今年1月から5月までの中國の外資受け入れ(実行ベース)総額は3691億元に達し、昨年同期比6.8%の伸び(昨年同期は前年比5.5%増)となった。

7月2日付ワシントンポスト紙では、100人の代表的米國人學者、元高官などによる大統(tǒng)領(lǐng)への書簡が掲載され、米國社會に大きな衝撃を與えた。その骨子は、(1)現(xiàn)行の対中政策は方向も手段も間違っている、(2)中國は経済?安全保障上の脅威ではなく、中國國內(nèi)も一枚巖ではない、(3)中國を孤立させるやり方は中國の改革派を弱體化する、(4)中國が世界的な軍事強國になるにはハードルが高い、(6)中國は國際秩序の転覆を考えていないーなど。トランプ政権へ痛烈な批判が突き付けられた。

◆中國は改革開放を推進

中國側(cè)は、こうした狀況を冷徹に分析し、自國の方針に役立てている可能性が高い。その姿勢は、強気かつ戦略的であると考えられる。筆者の取材によると、中國政府の基本方針は、

(1)大阪での首脳會談の暫定的合意を受けて決定的な対決を回避し、より長期的な安定的発展期間を勝ち取る、(2)レッドライン、デッドラインを設(shè)けて原則は譲らないことを示す、(3)一段と改革開放を推進する、(4)今後もいろいろと仕掛けられる「陰謀」やトリックを見破り、米國との競爭や対抗の長期性、複雑性を覚悟すべきだーというものだ。ファーウェイ排除の包囲網(wǎng)が世界各國で広がっていないことも見透かしている。

◆庶民レベルでは「米中摩擦」は感じられず

筆者はこの半年間に3回にわたって中國各地を取材したが、その活力たるや凄まじいものがあった。

たとえば、中國東北地方は中心都市?瀋陽の目抜き通りは超高層ビルが林立し、繁華街の中街路は華やかで、人々の表情は皆明るい。このような地方都市でも歐米系ブランドショップやアメリカ人で溢れ、庶民レベルでは「米中摩擦」は全く感じられなかった。この街の重工業(yè)が中國経済を引っ張ってきたが、改革開放で急速に発展した上海などの沿海部に後れをとった。しかし現(xiàn)在では再びこの地域の経済活性化が見込まれている。地元のシンクタンク幹部は「今、中國政府は再び、この地域の振興策に力を入れ始めている」と説明した。

北京市北西部の中関村地區(qū)は、北京大學清華大學などに近く、IT関係の企業(yè)が集積している。起業(yè)を目指す若者らが集まる「創(chuàng)業(yè)カフェ」や、ベンチャー企業(yè)に投資するファンドなどが集まる。スマートフォンのアプリ開発など、元手が少なくてもアイデア次第で稼げる分野に人気が集中していた。

こうした都市の様子を目の當たりにすると、人工知能(AI)やロボット、フィンテック(金融技術(shù))、醫(yī)療ヘルスケアなど世界的に注目を集める次世代産業(yè)における中國の存在感を強く印象づけられる。フォーチュンが毎年発表している世界企業(yè)番付「フォーチュン?グローバル500」の2019年版にランクインした企業(yè)數(shù)で、中國が初めて米國を抜いた。19年版で「500強」入りした企業(yè)數(shù)は、中國が129社、米國は121社だった。

米國は現(xiàn)在の覇権を支えるドルや輸出入管理を武器に新冷戦を仕掛けるが、21世紀の「ブロック経済」はデータ流通競爭の様相を呈し、過激な手段をとると、従わない國が増え米國陣営が孤立し、覇権が衰退するリスクもある。米國が技術(shù)流出防止を目的に、留學生の制限や研究開発への過剰な規(guī)制を強行すると米國の優(yōu)位性を減殺してしまう。

中國にもアキレス腱がある。政府と共産黨が民営企業(yè)に過剰に介入する可能性が強く、そうなれば民営企業(yè)の活力が衰えてしまう。監(jiān)視社會化が行き過ぎれば民意の反抗を招く恐れもある。中國経済は安定を保ち崩壊しないが、年金債務(wù)が激増、財政頼みの成長確保は將來を先食いする。

◆中國型「グローバル経済」支持も

世界の覇権國家として長らく君臨してきた米國は、常に「ナンバー1」の座確保が“國是”であり、「ナンバー2」國家を“排除”してきた。かつての標的はソ連の軍事力であり、日本の経済力だったが、これらライバル國をことごとく退けた。今は臺頭する中國をターゲットとしているが、その「経済?人口パワー」に手を焼いているのが実情だ。

このまま米中の対立が激化すれば、世界が二極に分斷される恐れもある。その場合、米國が主張する「政治的安全保障」より消費大國?中國を中心とした「グローバル経済」支持に多くの國が傾く可能性もある。

対立が続く米中だが、貿(mào)易?投資?サプライチェーン網(wǎng)が張りめぐらされ、相互依存関係にあり、互いの経済界がブロック化を強く懸念している。日本の役割は重要である。最大の同盟國である米國と最大の貿(mào)易相手國である中國の間で橋渡し役を擔うべきだろう。

米中覇権爭いは今後20年以上も続くとの見方があるが、雙方とも相手を一方的に打ち負かすことはできそうもない。選挙がある米國と異なり、強権國家という特殊事情もある中國の方が『忍耐力』は中國の方が數(shù)段上。米國の対中政策はぶれる傾向があり、1971年のニクソン訪中のように電撃的に手を結(jié)ぶこともありうる。日本としては思い込みや期待を排し、あらゆる事態(tài)を想定して入念に準備し柔軟に対応することが重要だ。

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務(wù)取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務(wù)めたほか、歐州、米國、アフリカ、中東、アジア諸國を取材。英國?サッチャー首相、中國?李鵬首相をはじめ多くの首脳と會見。東京都日中友好協(xié)會特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著?共著に「中國危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外國為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

この記事のコメントを見る

ピックアップ



   

we`re

RecordChina

お問い合わせ

Record China?記事へのご意見?お問い合わせはこちら

お問い合わせ

業(yè)務(wù)提攜

Record Chinaへの業(yè)務(wù)提攜に関するお問い合わせはこちら

業(yè)務(wù)提攜