2013年10月28日に天安門の金水橋欄干に衝突した車暴走炎上事件に関して、中國當(dāng)局はウィグル獨(dú)立運(yùn)動(dòng)の組織的なテロ事件と斷定し、ウィグル族ら8人（內(nèi)3人死亡、生存者5人）を逮捕した。

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この動(dòng)きをいち早く報(bào)道したウィグル?オンラインは、「中國政府はいつもこうしてウィグル族やチベット族のせいにして、それを弾圧強(qiáng)化の口実にしようとしている」と抵抗している。

しかし中國政府は、「テロ事件」という見解を崩さないだろう。すでにウイグル獨(dú)立派組織「東トルキスタン?イスラム運(yùn)動(dòng)」の指示があったと、名指ししている。

そこで本稿ではその視點(diǎn)に立った時(shí)の、習(xí)近平政権が受ける打撃と事件の背景を分析することとする。

◆チャイナ?セブンに少數(shù)民族自治區(qū)統(tǒng)治経験者はいない

まず、この時(shí)期を選んだのは、言うまでもなく11月9日から三中全會(huì)（中國共産黨第三次中央委員會(huì)全體會(huì)議）があるからだ。この時(shí)期には海外の記者も北京に集まる。ウィグル族がどれほど中國政府に虐げられ、どれほど大きな不満を持っているかを全世界にアピールするには絶好の時(shí)期だ。特に天安門に衝突するという手段を選んだのは絶大な効果をもたらす。

中國には漢民族（全人口の92％）以外に55の少數(shù)民族があるが、中でもチベット族とウィグル族に関しては獨(dú)立傾向が強(qiáng)く、中國政府は特に警戒してきた。

ところが2012年11月の第18回黨大會(huì)直後の一中全會(huì)で選ばれたチャイナ?セブン（中共中央政治局常務(wù)委員會(huì)委員7名）は全員、少數(shù)民族自治區(qū)を統(tǒng)治した経験を持っていない。わずかに黨內(nèi)序列ナンバー5の劉雲(yún)山が內(nèi)モンゴル自治區(qū)に長くいたが、しかし92年から93年の1年間、副書記になっただけなので力は持っていない。劉雲(yún)山は中宣部にいて中國共産黨の思想宣伝に人生のほとんどを注いできた宣伝マン。

2009年のウィグル暴動(dòng)のときには胡錦濤國家主席が國際會(huì)議出席のため不在だったので、鎮(zhèn)圧の実働を周永康と孟建柱に指示。但し國家主席不在時(shí)の業(yè)務(wù)代行は國家副主席が執(zhí)行することになっているので習(xí)近平國家副主席がその任に當(dāng)たったことはある。だからと言って少數(shù)民族地區(qū)の統(tǒng)治を心得ているわけではない。

新疆ウィグル自治區(qū)の（中國共産黨委員會(huì)の）書記である張春賢は2010年にウィグル自治區(qū)書記に任命されるまでは、湖南省の書記や交通部部長（大臣）をやったことはあるが、それまでは基本的に機(jī)械工程や経済界にいた人間だ。

したがって習(xí)近平政権は獨(dú)立志向のあるイスラム教徒の多い新疆ウィグル自治區(qū)に関して、「取り締り」という意味では、やや手薄なのである。というか、経験がない。

◆警戒し過ぎた貧困層の爆発

これまでのコラムでも述べてきたように習(xí)近平政権1年目の試練は、何と言っても薄熙來裁判だった。2012年11月15日に中共中央総書記になった習(xí)近平が最初に手を著けたのは「大衆(zhòng)路線」だ。明けても暮れても「毛沢東路線回帰」のごとき大衆(zhòng)路線を叫び続け、劉雲(yún)山はその中心となって思想統(tǒng)制に全力を投入してきた。ともかく貧困層の不満が爆発するのを警戒し、中共中央紀(jì)律検査委員會(huì)の書記、王岐山もまた腐敗撲滅に沒頭した。

その間、たしかにチャイナ?セブンは新疆ウィグル自治區(qū)の治安に関して緊急指令を出したり（6月28日）、大量の武裝警察を配備することには腐心している。しかし、よもや権力中樞の象徴のような天安門に自爆テロ車が突っ込んでくるとは思わなかっただろう。そこには明らかな習(xí)近平政権の少數(shù)民族統(tǒng)治に対する「ぬかり」とアキレス腱がある。

　そして筆者には、それだけではない全く別の光景が見えるのだ。

◆「新シルクロード経済ベルト」の拠點(diǎn)はウィグル自治區(qū)

それは習(xí)近平が秘かに目玉としている「新シルクロード経済ベルト」構(gòu)想である。

この構(gòu)想を?qū)g現(xiàn)すべく、習(xí)近平は今年9月3日から13日にかけて、自ら中央アジア諸國を歴訪した。ロシアのサンクトペテルブルグで開催されたG20首脳會(huì)談參加を含めながら、トルクメニスタン、カザフスタン、キルギスタン、タジキスタンなどを歴訪し、「新シルクロード経済ベルト」構(gòu)想を軸として関係國首脳と合意に漕ぎ著けている。

主たる內(nèi)容は天然ガスや石油のパイプラインなどを中心としたエネルギー源の確保で、これは2006年からすでに著手している。その主要拠點(diǎn)が新疆ウィグル自治區(qū)なのである。ここを通らない限り中央アジアからのエネルギー輸送はできない。

漢民族のウィグル自治區(qū)への入植は1954年から「新疆生産建設(shè)兵団」として始まっており、中國人民解放軍の徹底した管理の下に生産隊(duì)を送り込んだ。今ではウィグル自治區(qū)の40％強(qiáng)が漢民族になってしまい、獨(dú)立を困難にしている。さらに漢民族の黨幹部が利益集団となりウィグル族を搾取し、かつ彼らの尊厳である心の支柱、イスラム教をも迫害している。ウィグル族は精神的も経済的にも不當(dāng)な扱いを受けている者が少なくない。

にもかかわらず中國政府は30億人が含まれているとする「新シルクロード経済ベルト」構(gòu)想実現(xiàn)を、ウィグルを主要拠點(diǎn)として強(qiáng)行する構(gòu)えだ。機(jī)械管理工程に強(qiáng)い張春賢を書記に配置したのも、そのためなのである。

折しも事件の翌日である10月29日には、カザフスタン、ウズベクスタン、アゼルバイジャンなどの駐中國大使が集まって「新シルクロード経済ベルト」フォーラムを北京で開催していた。時(shí)期的に三中全會(huì)もさることながら、実はこのフォーラムにこそ照準(zhǔn)を當(dāng)てて事件を起こしたはずだ。

G20首脳會(huì)談で習(xí)近平が突如ロシアの側(cè)に立ち、オバマ大統(tǒng)領(lǐng)のシリアへの軍事介入に強(qiáng)烈に反対したのも、この経済ベルト実現(xiàn)が理由だ。イスラム教徒の國で紛爭(zhēng)が起きればウィグルに飛び火するのは自明だったからだ。

今後習(xí)近平政権はウィグルへの弾圧を強(qiáng)めるだろうが、そうすれば自爆テロも激化し、イスラム圏全體を敵に回す可能性もある。その中で「新シルクロード経済ベルト」の実現(xiàn)が可能なのか、そして何よりも政権の安定が保証されるのか。習(xí)近平政権への打撃は計(jì)り知れない。

（＜遠(yuǎn)藤譽(yù)が斬る＞第6回）

遠(yuǎn)藤譽(yù)（えんどう?ほまれ）

筑波大學(xué)名譽(yù)教授、東京福祉大學(xué)國際交流センター長。1941年に中國で生まれ、53年、日本帰國。著書に『ネット大國中國―言論をめぐる攻防』『チャイナ?ナイン―中國を動(dòng) かす9人の男たち』『チャイナ?ジャッジ毛沢東になれなかった男』『チャイナ?ギャップ―噛み合わない日中の歯車』、『●（上下を縦に重ねる）子（チャーズ）―中國建國の殘火』『完全解読「中國外交戦略」の狙い』など多數(shù)。