2013年11月29日、中國が東シナ海に防空識(shí)別圏を策定したと今月23日に発表。日米が強(qiáng)く抗議するなど、新たな緊張の火種となっている。（文：高口康太）

【その他の寫真】

もっとも防空識(shí)別圏とは各國が勝手に制定していいもので、他國の防空識(shí)別圏や領(lǐng)空と重複しても特に問題はない。ではなぜこれほどの火種となったのか。その根本には中國の防空識(shí)別圏が他國のそれとは異なる、異常な規(guī)定を持っているからにほかならない。

▼防空識(shí)別圏とはなにか？

そもそも防空識(shí)別圏とはなにか？　多くのメディアが解説記事を出しているが、元航空自衛(wèi)官?數(shù)多久遠(yuǎn)氏による解説記事、「中國による尖閣上空への防空識(shí)別圏設(shè)定の意味と対策」 がわかりやすい。ポイントをまとめると、

?防空識(shí)別圏自體はなんらかの権利を主張するものではない。

?自國の領(lǐng)空に進(jìn)入する可能性がありそうな航空機(jī)を識(shí)別する範(fàn)囲でしかない。

?徹頭徹尾、自國防衛(wèi)のためのものなので勝手に制定してもいいし、他國と重複していても構(gòu)わない。陸地で國境を接している國の場(chǎng)合、相手國の領(lǐng)空に防空識(shí)別圏がはみ出すことも普通。

?防空識(shí)別圏に不明機(jī)が入った場(chǎng)合、領(lǐng)空を侵犯しそうな問題のある航空機(jī)なのかを考え、無線で連絡(luò)したり、あるいは戦闘機(jī)をスクランブルさせて確認(rèn)、警告する「こともある」。

?ただし防空識(shí)別圏に入ったこと自體はとがめ立てすることはできない。

というもの。

▼中國が防空識(shí)別圏を設(shè)定するのは自由

となると、中國が防空識(shí)別圏を策定するのはどうぞご自由にという話になるし、むしろ今までも公表してなかっただけであったんでしょ？ないならびっくりですわということになろう。

最大の懸念は、尖閣諸島上空で日中の戦闘機(jī)が対峙、なんらかの偶発的衝突が起きるという可能性だろう。船の場(chǎng)合と違い、戦闘機(jī)同士のにらみ合いではリスクははるかに大きなものとなりそうだ。ただしこれも究極的には防空識(shí)別圏とは関係ない。

中國側(cè)の主張では尖閣諸島は彼らの領(lǐng)土。その上空を飛ぶことは當(dāng)然の権利という話になる。防空識(shí)別圏を策定、公開しようがしまいが、中國のロジックではいつでも巡視飛行が可能だし、その領(lǐng)空に日本機(jī)が進(jìn)入すれば中國機(jī)も出動(dòng)することになる。つまり戦闘機(jī)同士の対峙と防空識(shí)別圏にも根本的には関係はないということになってしまう。

▼異常な中國式防空識(shí)別圏

ならば、今回の防空識(shí)別圏策定は特に騒ぎ立てるような必要性はないのだろうか。それは違う。中國政府は國際慣例に従って策定したと繰り返し表明しているが、実は中國の防空識(shí)別圏は上述してきたような「普通」のそれとは異なるものだからだ。23日に発表された「中華人民共和國東シナ海防空識(shí)別圏航空機(jī)識(shí)別規(guī)則公告」がそのことを明示している。

まず第一條からして「中華人民共和國に東シナ海防空識(shí)別圏を飛行する航空機(jī)は必ずこのルールを守らなければならない」と、他國の航空機(jī)に義務(wù)を負(fù)わせている。以下、フライトプラン提出、無線通信ができるような狀態(tài)にしておくこと、そして何より中國側(cè)の指示に必ず従うことをいずれも義務(wù)としている。従わなければ、「中國武裝力量は防御的緊急処置対応をとる」と明記している。

繰り返しになるが、本來、防空識(shí)別圏とは自國防衛(wèi)のため勝手に策定するもので、他國の航空機(jī)になにかの義務(wù)を負(fù)わせることはできない。他國でもフライトプランを提出しているケースもあるが、それはあくまでお願(yuàn)いにすぎない。その意味で義務(wù)を強(qiáng)要する中國の防空識(shí)別圏は通常とは異なる異質(zhì)のもの。米國がそんな必要はないと一蹴したのもむべなるかな、だ。

▼中國式防空識(shí)別圏から通常の防空識(shí)別圏へ、靜かな路線変更

なぜ、こんな異例なルールにしてしまったのかは定かではないが、やはり中國國防部の勘違いがあることは否めない。そして、その勘違いは日米をはじめ各國が強(qiáng)く抗議する口実となっただけではない。中國國內(nèi)の世論の対応に苦慮する困った狀態(tài)を引き起こしている。

26日晝（北京時(shí)間）、米軍の爆撃機(jī)B-52、2機(jī)がフライトプランなしに中國の防空識(shí)別圏を飛行した。上述のとおり、米軍機(jī)に中國領(lǐng)空侵犯の意志はないため、米軍に事前通告の必要性もなければ、中國がアクションを起こす必要性もない。通常の防空識(shí)別圏の解釈であれば、そういうことになろう。

ところが中國式防空識(shí)別圏のルールでみれば、米軍機(jī)は義務(wù)を怠ったことになる。一部の中國ネットユーザーは「撃墜してしまえ」などの脊髄反射的な書き込みをネットに殘しているが、それも中國式防空識(shí)別圏としては當(dāng)然の話なのだ。

おそらくはこうしたネットの盛り上がりに対応して中國國防部は27日、B-52飛行に関する臨時(shí)の記者會(huì)見を開いた。そこで「米軍機(jī)飛行の全過程を監(jiān)視し、すみやかに識(shí)別し機(jī)種も判明していた」と発表している。本來は防空識(shí)別圏に進(jìn)入されようとも発表する必要はないのだが、通常の防空識(shí)別圏としてやるべき仕事はちゃんとやっていたというアピールだ。

ただし中國式防空識(shí)別圏としての義務(wù)は果たしていないように思われるのだが。大々的に発表したルールは中國軍の手足を縛るものとなり、「ちゃんと仕事をしているのか」とネットユーザーが突き上げる口実を與えてしまった。

23日のルール発表後、中國側(cè)は義務(wù)を意味する言葉を使用しなくなっている。代わりに多用されているのが「各関係者は積極的に協(xié)力し、ともに飛行の安全を守ってほしい」という言葉。中國式防空識(shí)別圏から通常の防空識(shí)別圏へと軌道修正を図っているようにも読める。

◆筆者プロフィール：高口康太（たかぐち?こうた）

翻訳家、ライター。豊富な中國経験を活かし、海外の視點(diǎn)ではなく中國の論理を理解した上でその問題點(diǎn)を浮き上がらせることに定評(píng)がある。獨(dú)自の切り口で中國と新興國を読むニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運(yùn)営。