前回は、中國を代表する金融イノベーターとして、アリババグループのアント?フィナンシャルを紹介した。今回は、金融界內部から、イノベーターを取り上げてみたい。その代表は、“三馬”の1人、馬明哲の率いる中國平安集団である。

■中國平安とは

中國上場金融機関の時価総額ランキング（2020年5月23日）によれば、1位?工商銀行、2位?農業(yè)銀行、3位?中國平安の順である。平安の時価総額は1925億ドルで、偶然にもアント?フィナンシャルの想定企業(yè)価値とほぼ変わらない。

創(chuàng)業(yè)者で董事長の馬明哲は1955年生まれ、経営者としてはファーウェイの任正非（1944年生）に近かった。同じ深センで創(chuàng)業(yè)し、株式を社員に分與するなど、よく似た経営手法を取っている。それがアリババの馬雲(yún)（1964年生）、テンセントの馬化騰（1971年生）と並び“三馬”と稱される。なぜ金融機関のボスが、巨大IT企業(yè)の創(chuàng)業(yè)者と同列に語られるのだろうか。

中國平安は1988年3月、深セン市蛇口で誕生した中國最初の株式制保険會社である。馬明哲を中心に13人のメンバーでスタートし、不動産保険をテコに成長する。そして今では、保険、銀行、証券、投資、資産管理などの総合金融サービス企業(yè)に成長、従業(yè)員は34萬人を超えた。國策に基づいて設立され、國有企業(yè)など融資先が保障された國有4大銀行（工商銀行、農業(yè)銀行、建設銀行、中國銀行）や國有保険會社（中國人壽保険、中國人民保険）とは全く異質の存在だ。

■衆(zhòng)安保険

“三馬”となる転機になったのは2013年、中國最初のオンライン保険會社「衆(zhòng)安保険」の設立だった。アリババ、テンセント、平安の共同出資という意外な組み合わせである。これは馬明哲が、最新のITを學習するため、年下の馬雲(yún)、馬化騰に頭を下げ、教えを乞う形でできた。効果はてきめんだった。

まず、衆(zhòng)安保険そのものが大きく成長した。國內初のネット通販保証金保険「衆(zhòng)楽寶」や自動車用タイヤ保険など、斬新な商品を次々に発売した?，F(xiàn)在の商品ラインナップには、意外、健康、旅行、財産保険とあり、個人にシフトした損保と言えそうだ。2017年9月には香港証券取引所へ上場を果たした。2019年の保険料収入は146億3000萬元（2200億円）、前年比30％増。利益は17億元の欠損だが、保険金支払い余力（ソルベンシーマージン比率）は502％と十分である。

この経験を生かし、馬明哲は新しいAI時代へ攻勢に出る。

■陸金所と平安好醫(yī)生

最も成功したのは、「陸金所」と「平安好醫(yī)生」、2つの子會社である。

陸金所は2011年9月、上海で設立された、投資、金融資産管理、交易情報サービスプラットフォームである。スマホアプリとしてスタートしたのは2013年、衆(zhòng)安保険と同じだ。中小企業(yè)や個人顧客のため、信頼に足る投融資サービスを提供する。ネット技術のイノベーションと適切なリスク管理により、顧客資産の“増殖”を目指す。登録ユーザー數(shù)4459萬人。iimediaによる2020年ユニコーン企業(yè)ランキング4位、企業(yè)価値は380億ドル。

平安好醫(yī)生は2014年8月、上海で設立された?，F(xiàn)在のアプリは2015年4月スタートのオンライン問診、健康管理アプリだ。すべての家庭にホームドクターを提供するため、移動醫(yī)療＋AIの技術を革新していく。主要な効能は、ホームドクター、問診カルテ、名醫(yī)館、健康コミュニティの4つ。會員制の「平安好醫(yī)生私家醫(yī)生會員」も伸びている。2018年5月には香港市場へ上場を果たした。新型肺炎は追い風となり、株価は大きく上昇、直近の時価総額は150億ドル近辺である。

■平安智慧城市（スマートシティ）

そしてスマートシティ（智慧城市）でも、アリババ、テンセント、ファーウェイと爭うようになる。地方政府のデジタル化を目指す、4社の提攜合戦が続いている。

中國平安は2019年12月、スマートシティ報告會を開催した。それによれば國內100都市以上、「一帯一路」構想沿線の外國都市と提攜している。平安智慧城市は、経済開発と改革のプラットフォームで、根拠は不明だが、経済予測の正確性を50％、意思決定を60％改善するという。

具體的なプラットフォームも用意されている。例えば環(huán)境保護プラットフォームでは、10萬を超える汚染源のリアルタイム監(jiān)視を行っている。これにより環(huán)境リスク防止能力を50％向上させた。また大衆(zhòng)からの報告や苦情も処理し、満足度も向上させている。

■まとめ

中國平安は、従來型金融機関から、IT企業(yè)への脫皮に成功した。今では各地、各界のAIプロジェクトにおいて、アリババ、テンセントと爭っている。それには“三馬”の協(xié)力で実現(xiàn)した、衆(zhòng)安保険の経験が、極め付きに大きかったのだ。彼らが三馬とよばれる所以である。

日本生命や、東京海上ホールディングスなどのサラリーマン経営者には、とてもできそうにない。袋小路の日本金融界に絶望せざるを得ない。イノベーターはどこにいるのだろうか。

■筆者プロフィール：高野悠介

1956年生まれ、早稲田大學教育學部卒。ユニー株（現(xiàn)パンパシフィック）青島事務所長、上海事務所長を歴任、中國貿易の経験は四半世紀以上?，F(xiàn)在は中國人妻と愛知県駐在。最先端のOMO、共同購入、ライブEコマースなど、中國最新のB2Cビジネスと中國人家族について、ディ－プな情報を提供。著書：2001年「繊維王國上海」東京図書出版會、2004年「新?繊維王國青島」東京図書出版會、2007年「中國の人々の中で」新風舎、2014年「中國の一族の中で」Amazon Kindle。