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1月20日に中國?石家荘市中級人民法院はいわゆる「中國毒ギョーザ事件」の容疑者?呂月庭に無期懲役を言い渡した。だがこれで解決なのだろうか?寫真は中國の冷凍食品工場。
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2014年1月20日に中國?石家荘市中級人民法院はいわゆる「中國毒ギョーザ事件」の容疑者?呂月庭(リュー?ユエティン)に無期懲役を言い渡した。だがこれで解決なのだろうか?日中関係の懸案を消すための政治的判斷ではないかという疑念は絶えない。それどころか、呂は真犯人ではないと考えている人も少なくない。
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「証拠不十分なのに政治におもねって司法が判斷を下す」となれば大問題のように思われるだろう。いや、確かに日本でこんなことをやれば問題なのは間違いない。だが、中國の社會主義的刑法のロジックに従えば“あり”なのだ。
中國は共産黨一黨獨(dú)裁國家ではあるが、その獨(dú)裁にはルールが存在する。日本とは異なるものであれ、単に権力者の恣意的判斷ですべてが決められるわけではない。本稿では毒ギョーザ事件の判決を大罪として中國刑法の獨(dú)裁のルールを取り上げたい。
■毒ギョーザ事件を振り返る
まず毒ギョーザ事件について簡単に振り返っておこう。2008年1月、中國製冷凍ギョーザを食べた日本人14人が中毒癥狀を起こした。日本警察は中國メーカー?天洋食品で殺蟲剤メタミドホスが混入した可能性が高いと判斷したが、中國側(cè)はこれを否定。日中間の外交問題となった。
事件発覚から2年が過ぎた2010年3月、中國側(cè)は天洋食品従業(yè)員、呂月庭の犯行だったとして逮捕したことを発表した。2013年7月に裁判が行われ、今年1月に危険物質(zhì)投入罪で無期懲役の判決が下された。
だが本當(dāng)に呂は真犯人なのか。國際問題を解消するため、中國食品の安全性を立証するためのスケープゴートにされたのではとの疑念はかねてより指摘されていた。上述したとおり、當(dāng)初は中國での混入を強(qiáng)く否定していた中國側(cè)が事件の2年後に一転して容疑者を逮捕したこと自體に違和感が殘る。
また、呂の逮捕にあたっては冷凍ギョーザに殺蟲剤を注入した注射器が重要な物証とされているが、2年間にわたり下水道に放置されていた注射器から水溶性の高いメタミドホスの殘留物が検出されたとは信じがたいとの指摘もあった。(註1)
■中國刑事訴訟法の精神:「真実」よりも「社會の安定」が重要
かくして「政治におもねった」疑いが色濃く殘る毒ギョーザ事件の判決なのだが、実は政治におもねることは中國の刑事訴訟の精神に反するものではない。
まずは中國の刑事訴訟の目的を見てみよう。中國の刑事訴訟法第1條は以下のように規(guī)定している?!感谭à握_な実施を保障し、犯罪を懲罰し、人民を保護(hù)し、國家の安全と社會公共安全を保障し、社會主義社會秩序を維持するため憲法を根拠に本法を制定する」。
この條文を日本の刑事訴訟法第1條と比べてみればその特徴がよく分かる。日本の刑事訴訟法第1條は「この法律は、刑事事件につき、公共の福祉の維持と個(gè)人の基本的人権の保障とを全うしつつ、事案の真相を明らかにし、刑罰法令を適正且つ迅速に適用することを目的とする」と規(guī)定している。
比べてみると明らかだが、中國の刑事訴訟法には「真実の発見」という言葉が使われていないのである。そして日本の刑事訴訟法にはない言葉に「社會秩序の安定」という言葉が使われている。
■民衆(zhòng)を納得させるための刑事訴訟
司法が政治に、國家に奉仕する。なんとも奇異に思われるかもしれないが、実は社會主義國家や共産黨の統(tǒng)治の精神に合致している。
多くの民衆(zhòng)が報(bào)道などを通じてA氏が犯人だと信じている狀況がある。この場合、A氏が処罰されれば多くの民衆(zhòng)は納得する。その結(jié)果、社會不安が除去され社會安定に寄與できる。
これこそが中國の刑事訴訟の目的なのである。刑事裁判は罪を裁くことが主眼ではない。民衆(zhòng)を納得させることが目的なのだ。誰が本當(dāng)に罪を犯したのか、その真実を追求することが主眼ではない。中國の刑事訴訟では「民衆(zhòng)の意識」も量刑決定の材料とされているが、これもまた社會の安定という観點(diǎn)が貫徹していることのあらわれと言える。
つまり毒ギョーザ事件の場合、「呂月庭が本當(dāng)に犯人なのか」は問題ではない?!笀?bào)道によって多くの人が犯人と思い込んでいる?yún)卧峦イ藷o期懲役判決を出す」ことこそが中國の刑事訴訟の目的に合致している。
もちろん無罪の者をスケープゴートにすることを奨勵(lì)しているわけではない。一応、中國の刑事訴訟法第2條には「無罪の者が刑事責(zé)任を受けないことを保障する」との規(guī)定があり、一見無罪の者に対する保障規(guī)定を置いているようにも見える。しかし同法第12條には「人民法院の法による判決を経なければ、いかなる者に対しても有罪を確定することはできない」としており、「単に判決を得ていない狀態(tài)が無罪である」ことを示している。その意味で「本當(dāng)に犯罪を行ったのか」と「無罪」が別の概念となっているわけである。
■「推定無罪」は原則ではない、「有罪推定」が許される中國
無論このような狀況に満足するかどうかは別問題であり、多くの中國の法學(xué)者らは學(xué)説で「真実発見」も刑事訴訟の目的であると主張しているが、それはまだ條文化されたものではない(註2)。
問題となるのが有罪推定の問題である。日本などの國々では「疑わしきは罰せず」、推定無罪という言葉がある。つまり「確かに犯罪をしたと確固たる認(rèn)定を受けてはじめて罰される」のだ。容疑者はまず無罪の推定を受けていることになる。
一方、中國では真逆だ?!敢嗓铯筏饬Pする」、有罪推定である。中國では「存在する事実を認(rèn)識できないわけはない」という社會主義唯物論的思考から、事実は必ず認(rèn)定もしくは推定できるという考えがあった。1980年代以降、中國の法學(xué)者らは無罪の推定も唱え始めたがまだ制度的に完全に認(rèn)められたわけではない?,F(xiàn)在も無罪推定を完全に否定する説を展開する法學(xué)者もいるくらいである(註3)。
■毒ギョーザ事件判決を批判するならば
數(shù)々の疑念が殘る毒ギョーザ事件の裁判だが、中國刑事法のロジックには完全に合致している。
立証が不十分に思われるが、有罪推定の立場に立てば不十分な証拠であれ、犯罪事実が推定しうるだけで十分である。それでは真実が解明されないと思われるが、中國の刑事訴訟は真実発見を目的とはしておらず、むしろ犯人と「思われる」呂月庭に無期懲役の判決を下すことで社會が安定すれば役割を果たしたことになる。
日本人の目から見れば不可思議な問題が數(shù)多く積み殘されている毒ギョーザ事件だが、中國刑事訴訟的に見ればまったく問題はないというわけだ。換言するならば、今回の判決を批判する時(shí)、「こんな判決は法的には許されない」と批判をしても意味がない。中國の法では十分に許されているからだ?!袱长螭逝袥Qが出る制度は許されない」と制度自體を批判しなければならないだろう。
■刑事訴訟以外にも広がる中國のロジック
上述してきたような中國刑事訴訟の特徴は他の法律にも貫徹している。刑事訴訟のみならず、中國を理解するためにはおしなべてそのロジックを理解しなければならない。例えば毒ギョーザ事件で中國警察が非協(xié)力的だったこともそのあらわれだろう。
中國警察は人民警察法を根拠法としているが、その第1條は人民警察の目的を「國家安全および社會治安の秩序、公民の合法権益の保護(hù)のため」と規(guī)定している。日本の警察法第1條は「個(gè)人の権利と自由を保護(hù)し、公共の安全と秩序を維持するため」である。
つまり日本の警察法は「(國籍限定をせず)個(gè)人の権利と自由を保護(hù)する」ことが目的だが、中國の人民警察は「社會秩序と公民(中國人)の権益の保護(hù)」が目的なのだ。
海外で起きた、しかも被害者が外國人の事件となれば、中國警察が仕事するいわれはない。日本のために捜査協(xié)力をしたとしても、それは本來の職分を離れた溫情といったものでしかないのだ。
註
(1)「中國『毒ギョーザ』奇々怪々」『週刊新潮』(2010年4月8日號)新潮社、28?35頁。福島香織「中國毒ギョーザ事件“真犯人”呂月庭は『替罪羊』か」『月刊WiLL』(2010年6月號)ワック出版、88?97頁など。
(2)樊崇義(主編)『刑事訴訟法學(xué)』中國政法大學(xué)出版社、2009年、41頁など。
(3)小口彥太=田中信行『現(xiàn)代中國法 』成文堂、2004年、161頁。
◆筆者プロフィール:高橋孝治(たかはし?こうじ)
日本文化大學(xué)卒業(yè)。法政大學(xué)大學(xué)院?放送大學(xué)大學(xué)院修了。中國法の魅力に取り憑かれ、都內(nèi)社労士事務(wù)所を退職し渡中?,F(xiàn)在、中國政法大學(xué) 刑事司法學(xué)院 博士課程在學(xué)中。特定社會保険労務(wù)士有資格者、行政書士有資格者、法律諮詢師、民事執(zhí)行師?!芍J詢師(和訳は「法律コンサル士」)、民事執(zhí)行師は中國政府認(rèn)定の法律家(試験事務(wù)局いわく初の外國人合格とのこと)。『Whenever北京《城市漫歩》北京日文版増刊』にて「理論から見る中國ビジネス法」連載中。
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