<米中覇権爭い>米國、「経済安全保障」前面に=日本、官民挙げた「新戦略」が命運決める 

八牧浩行    2021年6月19日(土) 6時30分

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「経済安全保障」という概念がクローズアップされている。かつて日本はアメリカの経済安保の標的にされた。今米中摩擦は標的は異なるものの同じ図式。さらに熾烈な「覇権爭い」が絡む。寫真はスマートフォン。

米中対立が長期化する中で、「経済安全保障」という概念がクローズアップされている。かつて日本はアメリカの経済安保の標的にされた。半導體協(xié)定というタガをはめられ、日本の半導體産業(yè)は競爭力を失っていった。今展開されている米中摩擦は、標的は異なるものの、同じ図式。さらに熾烈な「覇権爭い」が絡む。

◆日米ハイテク摩擦激化の80年代が源流

経済安全保障という概念が生まれたのは、日米ハイテク摩擦が激化した1980年代。この時代に、米國で日本の半導體への「依存問題」が俎上に上がった。現在の中國通信分野への「依存問題」と同じ図式である。80年代前半は米議會を中心とした感情的な反応だったが、 80年代後半以降は日米包括協(xié)議、日米構造協(xié)議などあの手この手で結果を追求する対応に移行した。

20世紀初めに英國から世界一の経済大國の座を奪い、「世界覇権國」として君臨してきた米國は、その座を死守するために、経済力で自國の60%以上に達した第二の経済國家を徹底的に叩いてきた。最初の標的はドイツだったが、1次と2次の世界大戦で同國を退けた後、1960~70年代からの日本の経済復興力が「目の上の〝たん瘤?」だった。巨額の貿易黒字を背景に日本が世界最大の債権國家に躍り出、日本企業(yè)が米國の名門企業(yè)や有力施設を買収したのもこの時代である?!弗弗悭靴?アズ?ナンバーワン」が流行語となり、最大の機関投資家「日本の生命保険會社」が世界金融市場を席捲し「ザ?セイホ」として怖れられた。

90年代後半に、日本経済の停滯とともに米國の「日本への危機」意識は薄れたが、安全保障と経済をリンクさせる発想が定著。 2000年代以降には中國の臺頭に対する「迅速な対応策」が検討された。米中経済安全保障検討委員會が2000年に設立され、外資規(guī)制が2007年に強化された。

◆中國GDP、28年にも米國凌駕

中國経済は最近20年間に急拡大。2000年に日本の4分の1に過ぎなかった中國経済規(guī)模は2010年に日本を抜き今や3倍以上に急拡大。実態(tài)に近い購買力平価(PPP)方式によるGDPで2014年に米國を追い抜き、世界1位になった。

コロナ禍への対応の差で中國優(yōu)位の流れがさらに早まる。日本経済研究センターは名目GDPでも「28~29年」に米中が逆転するとの見通しを発表した。英國のシンクタンク、経済ビジネス?リサーチセンター(CEBR)は世界各國経済狀況の比較報告の中で、中國の経済規(guī)模が2028年に米國を抜いて世界最大の経済大國になり、従來の予測よりも米中逆転のタイミングが5年前倒しになるとの予測を示した。

さらにIMF、OECDなど有力國際機関の予測分析でも、米中経済のGDP経済規(guī)模は20年代に逆転する見通しだ。中國の経済パワーは14億人の人口パワーと相まって、かつての日本をはるかに上回る。

4月中旬の日米首脳會談では半導體に焦點が當たった。日米技術摩擦の當事國の日米が対中國戦略の中核ともいえる「経済安全保障」で連攜することになったのは歴史の皮肉である。半導體協(xié)定は日本の凋落のきっかけになった。

2016年のトランプ政権誕生により、米國內の蓄積された不満が一気に噴出し、安全保障と経済の境が崩壊。中國の臺頭に対抗するため米中摩擦が激化し経済安全保障がクローズアップされた。この問題に詳しい村山裕三同志社大學教授は、米國の経済安全保障論議には(1)「経済安全保障」に関する議論自體が好まれる、(2)軍民融合、軍事革命、輸出管理政策など米國の他の政策と同期している、(3)政策策定のスピードが速い―などの特徴があると指摘している。

バイデン政権、「強さ」向上に力點

トランプ政権時代の米中対立の第1ステージは感情的対応となり、超黨派に支持された。バイデン大統(tǒng)領の登場で第2ステージ入りし、米中がそれぞれの経済安全保障政策を掲げて覇権競爭に突入した。対中対抗策として、米國は科學技術やインフラへの額投資など「強さ」を向上させる対応に舵を切った。

第2ステージの始まりを技術面からみると複雑である。トランプ前政権の自國第一主義はエンティティ?リスト(禁輸企業(yè)指定)によるデカップリングなど対中対策の余波を受けて日本経済も影響されたが、ディール(取り引き)を好むトランプ氏の意向もあって、甚大な打撃にはつながらなかった。

一方、バイデン政権は同盟國、友好國との連攜を重視しており、日本の利害が左右される事象も出てきた。4月中旬の日米首脳會談ではこの問題が協(xié)議され、経済産業(yè)省で輸出管理の見直し作業(yè)が進められている。

◆國家理念の米中対立、経済揺るがす

前述の村山教授は米中摩擦について「米中の國家理念の対立は解けず、経済活動に影響する」と見ている。アメリカ合衆(zhòng)國憲法前文では「我等と我等の子孫の上に自由の祝福の続くことを確保する目的をもって、アメリカ合衆(zhòng)國のために、この憲法を制定する」と記されている。これに対し中華人民共和國憲法は「(中國は)労働者階級の指導する労農同盟を基礎とした人民民主主義獨裁の社會主義國家であり、中國共産黨のリーダーシップが中國の特色ある社會主義の最も本質的な特徴である」と明記されており、米中の國家理念は相いれない。

この結果、(1)日本は米國と本當に理念を共有しているのか?(2)日本経済の根幹にある理念は何か?―などが問われることになる。新疆ウイグル問題に見られるように、日本企業(yè)の対応は難しい。

安全保障を考慮したサプライチェーン構築は必須だが、政治による市場の歪みをコントロールして半導體をはじめとする戦略分野の競爭力を維持?強化する必要がある。米國追隨は短期的には、(1)中國市場の部分的な喪失への対応、(2)中國による輸出管理を使った報復措置への対応―などを迫られ、世界最大の中國消費市場で稼いでいる、多くの日本企業(yè)にとってマイナスとなるのは避けられない。

長期的には、(1)米國政府?実業(yè)界の利害、(2)日本政府?実業(yè)界の利害、(3)中國政府の安保?経済面での利害―などのせめぎ合いの中での経済と安全保障の線引き、バランスが重要である。企業(yè)もこの國際環(huán)境の変化を踏まえた経営戦略が欠かせない。

経済産業(yè)省は6月初旬、半導體などデジタル産業(yè)の基盤強化に向けた新戦略を公表。海外のファウンドリー(受託生産會社)誘致などを念頭に、通常の産業(yè)政策を超えた「特例扱いの措置」で支援すると明記した。

新戦略では、半導體はデジタル社會を支える基盤として「死活的に重要」と強調し、IT開発や製造に取り組む日本企業(yè)を後押しする。具體的には自動運転やスマート工場向けの人工知能(AI)チップをつくる工場を整備するほか、高速通信規(guī)格「5G」を進化させた「ポスト5G」用の次世代半導體の製造技術も開発する。

官民挙げた新戦略の行方が日本経済の命運を左右しそうだ。世界的なIT開発競爭の中で不退転の対応が望まれる。

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、歐州、米國、アフリカ、中東、アジア諸國を取材。英國?サッチャー首相、中國?李鵬首相をはじめ多くの首脳と會見。東京都日中友好協(xié)會特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著?共著に「中國危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外國為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

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