吉田陽介 2021年11月29日(月) 16時0分
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「996(朝9時から夜9時までの勤務(wù)を週6日間続ける)」は中國のIT企業(yè)などの長時間労働を語る上で馴染みの深い言葉となった。
「996(朝9時から夜9時までの勤務(wù)を週6日間続ける)」は中國のIT企業(yè)などの長時間労働を語る上で馴染みの深い言葉となった。ネットユーザーの中には、「996」はまだいい方だ、うちは「7117」だなどと自分の方がより過酷な環(huán)境にあると自虐的に語る人もいる。
■會社の労働時間表がネット上で公表された目的
少し前の話で恐縮だが、10月中旬に、中國のインターネット上で発表された「會社の労働時間表」が話題となった?!竸簝P時間表」を発表したプラットフォームには「Worker Lives Matter(働く人の命は大切だ)、働く者にも生活がある」という中國語と英語のスローガンが掲げられていた。
ネット上で公表された労働時間表には、1300社以上のインターネット企業(yè)、金融、コンサルタンティング、不動産、石油などの企業(yè)が含まれている。そこには、労働時間、出退勤時間、晝食?夕食時間、1週間の勤務(wù)日數(shù)など細かく記されている。この労働時間表がネット上で公表されてからわずか3日で10萬アクセスを突破したと中國メディアは伝えている。
中國メディアの報道によると、中國國內(nèi)の主要インターネット企業(yè)に比べ、外資系企業(yè)はより「ワークライフバランス」が取れており、マイクロソフト、ショッピー(Shopee)、エリクソンなどの外資系企業(yè)は出勤時間が9~10時、退勤時間も6~7時に集中しており、週報/日報などの「日常事項」も外資系企業(yè)の要求は少ないという。
労働時間表をネット上で公表されたのは、中國のインターネット業(yè)界で働く人が「996」という働き方に疑問を呈する目的があったと思われる。「996」はアリババの馬雲(yún)氏や京東グループの劉強東氏ら多くの中國の有名企業(yè)家が高く評価している。馬氏は社內(nèi)で「若いうちはどんどん働け」という趣旨の話をして、「996」問題に火をつけた。
「自分の夢のために奮闘すれば、時間など忘れる」という馬氏の考え方は一理あるが、それは馬氏と同じような能力?精神力を持った人については當てはまるが、そうでない人にとっては高いハードルだ。そのため、この働き方は現(xiàn)場の社員の怒りを買っている。
この労働時間表は當初、會社での仕事?休息に関する情報の共有を目的としていたが、會社への不満やより多くの労働者の要請を表明するものとなり、インターネット時代における中國の「働く者」の集団行動の最新事例となった。
メディア報道によると、この表は當初、新卒者4人が10月中旬に作成した。彼らの年齢は最年少で20歳、最年長で25歳、學(xué)歴は學(xué)部か修士で、いずれもインターネット大手の技術(shù)職のインターンをしていた?,F(xiàn)在、中國は秋の新卒者募集の時期で、これらの新卒者は同時にいくつかのインターネット大手企業(yè)から聲をかけられており、どこに就職するかを考える。
■「嫌なら別のところへ行け」殘業(yè)が恒常化するインターネット産業(yè)
この労働時間表は2週間の間に、テンセントQQ、微信、「知乎」などのプラットフォームで広く拡散され、大きな反響を呼んだ。中國のネットユーザーも、労働時間表についてコメントを投稿した。
ネットユーザーの書き込みの多くは「996」の働き方への不満だ。あるユーザーは「私たちのような労働者は資本家の道具だ。若い時はこの道具を『手』と呼ぶ。突進して戦うことができ、996や徹夜もできるので、『努力者の協(xié)定』に署名することができる。そして、彼らは稱賛してくれる。だが、996や徹夜ができなくなり、突進もできなくなった時、破れた草履のように捨てられる」とつぶやく。
また、微信にこの労働時間表を転載し、実習(xí)生の搾取、女性労働者が受ける不公平な扱い、アウトソーシングによる不定時労働制など、「労働者の権利?利益問題に注目する」よう訴えたユーザーもいた。
こうした聲は、中國の働く人々のニーズをある程度反映している。だが、現(xiàn)実は彼らの訴える問題解決の方向にはいかない。例えば、現(xiàn)在のインターネット業(yè)界の「996」問題は短期間で解決するのは難しいだろう。
インターネットは速報性が重視されるため、新しい情報を常にアップしなければならない。そのため、働く者一人一人の負擔が大きくなる。インターネットもそうだが、翻訳などもいいものを追求すれば、長時間労働になりがちで、仕事と殘業(yè)の線引きがなかなかできない。そのため、どこまでが必要な殘業(yè)か分けることのできない業(yè)種では「996」問題の解決は困難だ。
中國はイノベーションによる経済発展を目指しており、インターネット業(yè)界は中國の経済成長を促進する重要な原動力とされている。この業(yè)界は初めに激しい競爭が起こる。例えば、フードデリバリーサービスは美団、餓了麼、大衆(zhòng)點評、百度外売など數(shù)十ものプラットフォームが競爭している。これらの企業(yè)は生き殘りをかけて、より多くのシェアを獲得しようとする。そうなると、必然的に労働者に長時間労働を強いることになる。
また、よく指摘されることだが、中國では「人の値段が安い」とも言われる。つまり、「お前がやらなくても、やりたい人はいくらでもいる」という考え方で、多少悪い待遇でも文句も言わず働くという人も少なくない。
「中國は人も多いが、優(yōu)れた人材も多い」とよく言われる。働いている職場の待遇に不満でも、他の人にポストを取られたら生活できないため、我慢して働く。
筆者は勤務(wù)先の大學(xué)の清掃員に「仕事大変でしょう」と聞くと、「休みはあまりないけど、生きるためだ、やるしかない。それはあんたも同じだろう」と答えた。
中國の「殘業(yè)文化」がクローズアップされてもなくならないのは、「大勢につかざるを得ない」という気持ちだ。日本でもそうだが、「お付き合い殘業(yè)」もある。同僚がみんな忙しく殘業(yè)している中ではなかなか「仕事終わったから帰ります」とは言いづらい。
インターネット企業(yè)は現(xiàn)在、成功すれば高収入も夢ではないため、人材間の競爭もかなり熾烈だ。毎年多くの新卒者がインターネット大手への就職を目指しているため、これまで働いている社員は當然危機感を抱く。競爭に勝ち抜くためには、時間をかけて自分の競爭力を高めなければならない。
これらの要因により、労使関係がさらにアンバランスになっている。どの業(yè)界でもそうだが、社員一人で會社と交渉をするのはほぼ不可能に近い。このことから、労働時間表がネット上に公表された時、大きな反響を起こしたのである。
■法律で規(guī)定されてもなくならない「殘業(yè)文化」
中國の法律は長時間労働を規(guī)制しているのだろうか。
「労働法」によると、法定の労働時間は1日8時間で、週に最大44時間までとなっている。それを超える仕事には、殘業(yè)代を支払う必要がある。今年8月末、中國の最高人民法院と人力資源社會保障部は、殘業(yè)の典型的事例を共同で発表し、その中で「996」の働き方が法律に違反すると明確に述べた。
だが、法律にはそう定められているが、その方向で動くのは難しい。社員には告発する権利があるが、個法的な立証を個人で行うのは難しい。例えば、サービス殘業(yè)のような自発的殘業(yè)に殘業(yè)代を請求するのは難しく、周りに「なんてことしてるんだ」と一喝されそうだ。
これまで中國は経済成長を優(yōu)先させ、企業(yè)の殘業(yè)など「働く者」の権利の保護については規(guī)定にはあるが、うまく実行されていなかった。これまでの政府は、ネット上で匿名の民衆(zhòng)が訴えても、「誰かわからないやつの言うことは信じない」として、解決に乗り出しことはなかった。今の中國共産黨は「人民の利益を第一に考える」理念を體現(xiàn)した政策措置を打ち出そうとしており、変わってきている。
中國共産黨の理念から見れば、「996」の働き方は否定的に受け止めるだろう。ネット上の集団的な聲がどんどん大きくなれば、監(jiān)督管理を強化して、「996」を規(guī)制する方向へ向かうだろう。
■筆者プロフィール:吉田陽介
1976年7月1日生まれ。福井県出身。2001年に福井県立大學(xué)大學(xué)院卒業(yè)後、北京に渡り、中國人民大學(xué)で中國語を一年學(xué)習(xí)。2002年から2006年まで同學(xué)國際関係學(xué)院博士課程で學(xué)ぶ。卒業(yè)後、日本語教師として北京の大學(xué)や語學(xué)學(xué)校で教鞭をとり、2012年から2019年まで中國共産黨の翻訳機関である中央編訳局で黨の指導(dǎo)者の著作などの翻訳に従事する。2019年9月より、フリーライターとして活動。主に中國の政治や社會、中國人の習(xí)慣などについての評論を発表。代表作に「中國の『代行サービス』仰天事情、ゴミ分別?肥満?彼女追っかけまで代行?」、「中國でも『おひとりさま消費』が過熱、若者が“愛”を信じなくなった理由」などがある。
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