中國の伝統(tǒng)劇と言えば京劇が有名だ。日本の歌舞伎との大きな違いは役者が歌うことで、そのため「Beijing Opera（北京オペラ）」と紹介されることもある。また、中國には地方ごとに伝統(tǒng)劇が存在し、全國では350種以上にも上るとされる。山西省を代表する伝統(tǒng)劇が晉劇だ。関羽役などを演じる名優(yōu)と知られる晉劇俳優(yōu)の武凌雲(yún)氏はこのほど、中國メディアの取材に応じて、晉劇など中國の伝統(tǒng)劇の狀況などについて説明した。以下は武氏の言葉に若干の説明內(nèi)容を追加するなどで再構(gòu)成したものだ。

■古い特徴を殘すと同時(shí)に高い蕓術(shù)性を獲得した山西省の「晉劇」

中國の伝統(tǒng)劇の基礎(chǔ)となったのは民謡や民間器楽、民間舞踴などの大衆(zhòng)蕓能だ。それらを総合して芝居として演じるようになった。すると「もっとよい芝居にしたい」との意識(shí)による「蕓術(shù)化」が発生した。晉劇の場合もそうのなのだが、各地の教養(yǎng)人も地元の伝統(tǒng)劇の改良に貢獻(xiàn)してきた。なお、各地の伝統(tǒng)劇には、複數(shù)の名稱が存在する場合が多かった。晉劇とは、中華人民共和國の時(shí)代、すなわち新中國になってから定められた統(tǒng)一名稱だ。

中國北部の民間蕓能は、荒々しさや豪快さという特徴がある。晉劇もそのような特徴があり、さらに人々の知恵や哲理を盛り込むことで蕓術(shù)文化として結(jié)晶した。

中國の伝統(tǒng)劇にとって、音楽と臺(tái)本の文學(xué)性は共に極めて重要だ。中國の民族音楽は、新中國になってから大きな改良が加えられた。楽器そのものも合理的な作りになり、新たな演奏法も多く加えられた。西洋音楽を參考に、過去よりも大人數(shù)での合奏も行われるようになった。晉劇の音楽も、本來の味を殘しつつ進(jìn)化を遂げることになった。

晉劇の舞臺(tái)効果については、役者の衣裝の色の鮮やかさや図案の複雑さにも特徴がある。晉劇で使う衣裝には中國のより古い時(shí)代の舞臺(tái)裝束の特徴が殘っており、蕓術(shù)的な価値は高い。

■現(xiàn)代に生きる人々に知ってもらうには工夫と努力がまだ足りない

高い境地に達(dá)した晉劇だが、その伝承が安泰であるわけではない。と言うのは、社會(huì)は常に発展し、人々が多くの文化に接するようになったからだ。例えば漫畫などに比べれば、晉劇は人々への普及において立ち遅れている。

また、晉劇の中國國外での認(rèn)知度を高めようとしたら、動(dòng)畫配信は特に重要な手段だ。動(dòng)畫の場合には、カメラの切り替えによって演技の神髄をよりよく伝えることができる。一方で、観客は、カメラに切り取られた情景を表示する畫面だけに頼って鑑賞するので、観客にもたらされる舞臺(tái)の全體性や臨場感、観客の主體的な劇空間への參畫感が大きく制限されてしまう。私の考えでは、ルートや方法の問題を含め、晉劇を海外に伝える仕事は、さまざまな面で遅れている。

中國の地方伝統(tǒng)劇は、その土地の言葉を使うのが基本だ。海外では標(biāo)準(zhǔn)中國語でも理解できる人が多くないのに、方言となると理解はなおさら困難だ。価値観の違いも障壁になる。中國人ならば感動(dòng)する內(nèi)容でも、海外の人が共感するとは限らないからだ。

晉劇を中國國外で評(píng)価してもらおうと考えるならば、晉劇の伝統(tǒng)的な特徴をしっかり殘さねばならないのは當(dāng)然として、観客側(cè)の美的感覚にも配慮するなどが必要だろう。字幕などに使う翻訳術(shù)の向上や、腳本の見直しなども必要だ。

■関羽を媒介に中國伝統(tǒng)劇を知り中國文化を知ってもらう

ただ、方法はある。例えば、海外でも知名度が高い歴史上の人物である関公（関羽）が登場する芝居だ。関公を演じることで表現(xiàn)する人としての品格は、共感してもらえるはずだ。もう一つ重要なことがある。関公の生地は現(xiàn)在の山西省だ。山西省で生まれた晉劇を知ってもらうために、山西省で人物が登場する作品を上演する。まさにぴったりではないか。

私の両親は二人とも晉劇の役者だ。私は8歳の時(shí)に芝居を?qū)Wび始め、12歳で劇団入りした。役者として父の指導(dǎo)も受けた。父は常々、関公の品格を?qū)Wび、関公のような人間になってこそ、舞臺(tái)の上で生き生きとした関公が演じられると言っていた。

私は関公を演じ続けて、もう30年以上になった。だからこそ、関公を通じて晉劇の海外普及を促進(jìn)していきたいと考える。私が初めて海外で関公を演じたのは2019年10月18日の、マレーシアのクアラルンプールで踏んだ舞臺(tái)でだった?，F(xiàn)地で行われた関公文化祭に伴う公演だった。

世界のどこでも中國系住民、すなわち華人は関公を知っており、深く尊敬している。2019年のクアラルンプールでの公演も大成功だったし、その後はベトナム、フィリピン、シンガポール、日本などでも私は関公を演じた。

今は感染癥の影響で海外公演ができないが、オンラインで関公の芝居を発信している。なぜなら、関公の芝居を鑑賞したいとの希望が次々に寄せられるからだ。

海外への普及や浸透に努力している中國伝統(tǒng)劇は晉劇だけではない。例えば崑曲だ。崑曲の発祥の地は現(xiàn)在の江蘇省蘇州市內(nèi)の崑山地區(qū)だ。ただし、崑曲は蕓術(shù)性が極めて高まり、さまざまな場所に伝わり上演された。また、崑曲はさまざまな地方伝統(tǒng)劇の模範(fàn)にもなった。だから崑曲を江蘇省だけに特有の劇と理解したのでは、少々違うことになる。

その崑曲の代表的演目の一つに「牡丹亭」がある。腳本家であり崑曲の保存と普及に力を入れている白先勇さんが練り直した「青春版?牡丹亭」は2006年に米カリフォルニア大學(xué)バークレー校で上演された。この公演は「米ロサンゼルスタイムズ」紙が「めったに見られない偉大な公演だった」と書いたように、現(xiàn)地メディアに高く評(píng)価された。

海外における中國の伝統(tǒng)劇の理解は、無理解から理解へ、部分的理解から全體的理解へ、観衆(zhòng)にとって奇異に思える部分から本質(zhì)部分へ、そして與えられた「機(jī)會(huì)を利用して」という受動(dòng)的な鑑賞から、自ら求めて鑑賞という能動(dòng)的な受け入れと、進(jìn)化している。我々としては、まだできていないことも多いが、成果は出てきている。海外の人に中國の伝統(tǒng)劇を知ってもらうことは、中國の伝統(tǒng)文化の全體像を理解してもらうことにつながる。これはさらに意義深いことだ。（構(gòu)成 / 如月隼人）