吉田陽介 2022年6月15日(水) 10時30分
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中國の研究者が中國抜きの「インド太平洋経済枠組み」を批判している。資料寫真。
5月20~24日のバイデン米大統(tǒng)領(lǐng)のアジア歴訪で、「インド太平洋経済枠組み(IPEF:Indo-Pacific Economic Framework)」が始動した?!阜睎绚韦郡幛违ぅ螗商窖蠼U済枠組みに関する聲明」によると、この枠組みは「経済の強(qiáng)靱性、持続可能性、包摂性、経済成長、公平性、競爭力を高めることを目的とする」ものだ。
この枠組みの參加國は、米國、日本、インド、ニュージーランド、韓國、シンガポール、タイ、ベトナム、ブルネイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、オーストラリアの13カ國で、東アジア地域の経済大國である中國が名を連ねておらず、「中國外し」の意図が透けて見える。
現(xiàn)在、中國は世界経済での地位が向上し、世界のサプライチェーンでも存在感を増している。中國も多國間主義を旨とする経済外交を展開し、世界資本主義と結(jié)びついた上での発展を模索している。そのため、中國抜きで世界経済を語れなくなっている。
■中國人學(xué)者が指摘するIPEFの三つの“弱點”
中國メディアでも専門家の評論が掲載され、注目度の高さがうかがえる。
『人民日報』系の國際専門紙『環(huán)球時報』に5月21日に掲載された評論記事は、「インド太平洋経済枠組み」には「先天的に欠陥があり、三つの“弱點”を直視する必要がある」と述べた。
一つ目の“弱點”は、「枠組み」の目的が「あやふや」なことだ。記事は、「一部の米メディアが喧伝した地域サプライチェーンの弾力性、公平な貿(mào)易の促進(jìn)、インフラの連結(jié)、クリーンエネルギーと低炭素環(huán)境保護(hù)技術(shù)などの問題を解決するのか、それとも米政府が中國を抑制?均衡させようとする新たな措置を隠そうとしないのか、それともインド太平洋における地政學(xué)的影響力を形作り、地政學(xué)的安全保障の影響力との間の不均衡を是正するために米國が混じっているのか分からない」とし、「(この枠組みは)、『米國のため』なのか、『インド太平洋國家のため』なのか」はっきりしないと述べた。
二つ目の“弱點”は、「損得ばかりを気にかける」ことだ。記事は、「インド太平洋経済枠組みの理念には、米國が高らかに敷いた排他性の下地、日本が宣言したアジア各國と協(xié)力して中國に対抗することを目的とする封じ込め思考がにじみ出ている」と指摘する。
三つ目の“弱點”は、「枠組みルールが支離滅裂」なことだ。記事は、「日米の地政學(xué)的ニーズのために域內(nèi)諸國が受けるはずの関稅削減や市場アクセスなどの強(qiáng)固なルールの支えを犠牲にし、さらにはより多くの國を米國に従わせて踴るために、包摂性と公平性という恣意的な解釈をしている」と指摘した。
『環(huán)球時報』の評論記事は以上の3つの“弱點”を指摘し、もともと完璧なものでない「インド太平洋経済枠組み」が動き出したのは、米國の政治的意図が大きいことを強(qiáng)調(diào)している。
記事はさらに、「バイデン政権が米中競爭の激化に対応し、ロシア?ウクライナの衝突が続いている中で練り上げた青寫真の本質(zhì)は、経済という大義名分で可能な限り中國の影響力を封じ込め、インド太平洋における米國の地政學(xué)的主導(dǎo)力を確立することだ」と米國の「冷戦政策」を批判した。
■中國排除の枠組みは経済協(xié)力のルールを無視している
新浪ネットの「オピニオンリーダー」チャンネルに掲載された、中國人民大學(xué)重陽金融研究院の何偉文?上級研究員の記事は、経済の角度から、「インド太平洋経済枠組み」について述べている。
まず、何氏は、この枠組み「インド太平洋」という呼び名だが、「インド太平洋」の最大國である中國が含まれていないと指摘し、この枠組みは中國の「代替品」としての色合いが強(qiáng)いと指摘する。
何氏はまた、「インド太平洋経済枠組み」がカバーする地域経済の概念は「偽の命題」とし、中國を除いた南アジア地域と東アジア太平洋地域の國に域外の國である米國を加えたものと述べ、「インド太平洋経済枠組み」の不完全性を指摘した。
何氏はさらに、東アジア?大洋州地域自體は比較的整った分業(yè)と産業(yè)チェーンを持ち、中國はそこで中心的存在であり、米國とインドを除く「インド太平洋経済枠組み」の創(chuàng)設(shè)メンバー國は、東アジア地域包括的経済連攜(RCEP)加盟國で、RCEP 15カ國の輸出は世界の30%を占め、うち中國は半分近くを占めていると指摘した。
2021年の中國とRCEPの他の14カ國との貿(mào)易総額は1兆8678億9000萬ドルで、米國との貿(mào)易額は8021億4000萬ドルにすぎない。また、「インド太平洋経済枠組み」はASEANを中心とするといわれているが、ASEANと中國の貿(mào)易額も米國との貿(mào)易額の2倍以上に達(dá)している。このことは、東アジアにおける中國の影響力が大きいことを示しており、同國の排除を目指す枠組みは不完全であることを示している。
したがって、すでに存在する域內(nèi)の産業(yè)チェーンに取って代わるチェーンを構(gòu)築することは、政治的な要因によるところが大きく、オバマ政権の「アジアへの回帰」とTPP交渉の焼き直しのような感がある。この枠組みの産業(yè)チェーンと既存の産業(yè)チェーンとの競爭になろうが、その後どうなるかは今後の展開を見る必要がある。
中國は國內(nèi)市場を中心とした雙循環(huán)戦略をとっているが、それは閉鎖を前提にしたものでなく、対外開放も堅持している。中國は「自主イノベーション」を重要課題としており、一部の技術(shù)は世界トップを行っているが、先進(jìn)國との開きがまだあるものもある。そのため、中國は「外國に學(xué)ぶ」姿勢を堅持し、世界との交流の「ドア」をオープンにしている。
■「冷戦思考」は時代遅れ、「新思考」で中國と付き合うべき
何氏は、「インド太平洋経済枠組み」のサプライチェーン戦略も「偽の命題」として批判する。氏は、チップなどの分野で、中國を排除した「安全な」サプライチェーンを構(gòu)築することが目的の一つだが、中國を排除したチップ?サプライチェーンは完全なものでないと指摘する。
何氏によれば、世界のチップ生産で、中國の存在を抜きには語れない。チップ?サプライチェーンの供給側(cè)と需要側(cè)を考えても、中國を排除するのはメリットが大きくない。供給側(cè)についていうと、中國から供給されるレアアース磁性材料がなくなり、チップが生産できなくなる。中國が提供する洗浄、マイクロフロー制御、レーザー技術(shù)がなければ、フォトリソグラフィも完成できない。需要側(cè)についていうと、中國は世界最大のチップ市場であるため、チップのサプライチェーンは世界的なものとは言えなくなる。
何氏は最後に、「『インド太平洋経済枠組み』は貿(mào)易協(xié)定でも経済共同體でもなく、多國間貿(mào)易のルールを守るつもりもない。このような枠組みはどのくらい持つだろうか」と結(jié)んでいる。
前述のように、「インド太平洋経済枠組み」は米國を中心とする西側(cè)諸國の「冷戦政策」を反映したものと言える。かつての世界は、資本主義陣営と社會主義陣営が存在した。冷戦時代の社會主義の教義では、社會主義世界と資本主義世界は共存できないとされていたが、現(xiàn)在は「戦爭と革命の時代」ではなく、世界各國の経済上のつながりは強(qiáng)い。かつてのように、世界に「二つの市場」が存在することはあり得ない。
何氏や前出の「環(huán)球時報」記事は、「冷戦思考」に基づいた世界観への批判という立場に立って論じている。「冷戦思考」を排して、資本主義國と共存し、経済上の交流を活発化するというのが、改革開放以來の中國の外交方針だ。現(xiàn)政権の掲げる「運命共同體」の構(gòu)想も、米國に対抗するというものではなく、各國との「ウィンウィン」を模索するものだ。
中國國內(nèi)には問題がいくらかあるが、それが西側(cè)の中國に対する「偏見」の源になっている。だが、中國はこれまで長期的視點で問題解決に取り組む姿勢を堅持しており、現(xiàn)在の流れを見る限り、その姿勢に変わりはない。
現(xiàn)在の中國が掲げる構(gòu)想が「本物」かは、今後の中國の政治?経済?社會の発展の動向を見る必要がある。
■筆者プロフィール:吉田陽介
1976年7月1日生まれ。福井県出身。2001年に福井県立大學(xué)大學(xué)院卒業(yè)後、北京に渡り、中國人民大學(xué)で中國語を一年學(xué)習(xí)。2002年から2006年まで同學(xué)國際関係學(xué)院博士課程で學(xué)ぶ。卒業(yè)後、日本語教師として北京の大學(xué)や語學(xué)學(xué)校で教鞭をとり、2012年から2019年まで中國共産黨の翻訳機(jī)関である中央編訳局で黨の指導(dǎo)者の著作などの翻訳に従事する。2019年9月より、フリーライターとして活動。主に中國の政治や社會、中國人の習(xí)慣などについての評論を発表。代表作に「中國の『代行サービス』仰天事情、ゴミ分別?肥満?彼女追っかけまで代行?」、「中國でも『おひとりさま消費』が過熱、若者が“愛”を信じなくなった理由」などがある。
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