清朝末期から中華民國期にかけて多くの企業(yè)や學(xué)校を創(chuàng)立した張謇という人物がいる。その特徴は、儒教などの伝統(tǒng)的な倫理観と、母國を強く豊かにするという使命感を抱いて事業(yè)に勵んだことだ。ということで、どうしても日本の渋沢栄一を連想してしまう人物だ。日本と中國の國情が大きく異なることもあり、両者の発想や方法は同一ではない。しかし、西洋の資本家とは異なる東洋の伝統(tǒng)思想が発想の原點にあった點は同じだ。山東省にある斉南大學(xué)農(nóng)村振興學(xué)院で首席研究員を務(wù)める溫鉄軍氏はこのほど、中國メディアの中國新聞社の取材に応じて、張謇が手掛けたことや、その精神や手法が現(xiàn)代人に教えてくれるものを解説した。以下は溫首席研究員の言葉に若干の説明內(nèi)容を追加するなどで再構(gòu)成したものだ。

【その他の寫真】

■資本投入の目的は個人的利益でなく社會を発展させること

張謇は1853年に、現(xiàn)在の江蘇省南通市內(nèi)で生まれた。そして科挙の試験にも合格し、最終的には最上位の狀元になった。つまり彼は儒教の考え方をしっかりと身に付けていた。これが後に実業(yè)の道を歩み始めてから、いわゆる「儒者ビジネスマン」なった最大の要因だ。

張に転機をもたらしたのは、1882年に朝鮮で反亂が発生した際に、清の北洋海軍の応援として、朝鮮に派遣されたことだった。彼は日本の動きから、帝國主義の侵略性を知った。1894年の日清戦爭に中國側(cè)が敗北すると張は大きな衝撃を受け官職を辭し、帰郷して「大生集団」を設(shè)立して、繊維工業(yè)を興した。

張の特徴は、資本の投入の目的は投資家の個人的利益ではなく、社會全體を発展させることという信念を持っていたことだった。

■西洋的資本主義でなく中國の國情に合致した方式を推進

張の発想は、當(dāng)時の中國の國情にも適合していた。清朝末期に始まった「洋務(wù)運動」の擔(dān)い手は地方當(dāng)局であり、富國強兵を目的に西洋の技術(shù)を?qū)毪筏剖聵I(yè)を興した。しかし日清戦爭の敗北により、事業(yè)は官民の共同出資の方式になった。

このことは民間側(cè)の投資家が、西洋のような純粋な営利目的の事業(yè)展開をできなくなったことを意味する。張が設(shè)立した「大生集団」にも、官側(cè)の資本が入っていた。

清朝は封建體制の國だった。清朝末期に出現(xiàn)した近代的企業(yè)家は、新興ブルジョワ階級に屬する。従って、より自由に経済活動を営める新しい體制を求める。つまり、當(dāng)時としては革命的な性格を持っていた。ここまではフランス革命などの狀況と同じだ。しかし當(dāng)時の中國では、「企業(yè)家は私的利益の最大化を追求する」という、“教科書的な資本主義”を追求することができなかった。

張の重要な思想の一つに「村落主義」がある。これは、地域の経済的な自立をめざすものだ。地場産業(yè)を発展させ経済を活性化することを社會事業(yè)と考えるわけだ。

張が事業(yè)を展開した故郷の南通市は當(dāng)時、南通県と言った。清朝末期から中華民國初期にかけての南通県の発展はめざましかった。教育や醫(yī)療、困窮者支援、男女平等、女性教育、科學(xué)技術(shù)が向上し、さらにはスポーツ施設(shè)や公園、博物館、図書館、劇場などの建設(shè)と運営といった社會文化事業(yè)も推進された。

■農(nóng)民から搾取するのではなく利益を還元した

「大生集団」は、工業(yè)企業(yè)として農(nóng)民を抑圧搾取したわけでない。農(nóng)會という農(nóng)民の組織と密接に連攜した。農(nóng)家はまず綿花を生産する。綿花は工場に運ばれる。工場で生産された綿糸を使って、今度は農(nóng)家の女性が布を織る。

この方法ならば、農(nóng)家側(cè)もまとまった収入を得られる。また、「男が耕し、女が布を織る」という伝統(tǒng)的な構(gòu)造も殘っているので、農(nóng)民も納得しやすい。

張が殘した最も貴重な精神的遺産は「大公無私」、つまり公を至上のものとし私利を求めないことだ。張は企業(yè)経営で得た利益を自分のものにしなかった。私を含め張の研究者は、「投資によるリターンを1銭も手にしなかった資本家」と表現(xiàn)している。張は経済活動によって得た収益を、すべて公益事業(yè)に回した。公益事業(yè)として學(xué)校なども多く設(shè)立した。張は裕福になるどころか、公益事業(yè)の推進のために多額の借金をした。

張は、現(xiàn)地化された経済循環(huán)の中で機能する工場を建設(shè)するだけでは、産業(yè)全體は発展しないことをよく理解していた。そのため、さまざまな加工業(yè)を興すと同時に、埠頭（ふとう）や倉庫などの物流業(yè)の創(chuàng)設(shè)に著手した。さらに金融業(yè)や保険業(yè)の設(shè)立も進められた。

このような産業(yè)チェーンの形成は、産業(yè)全體のコストを軽減させる。そうなれば競爭力が強化される。張の方法は、今日的な目で見ても、決して遜色がない。張の経験は現(xiàn)代を生きる我々に、地場産業(yè)チェーンの強化が必要であることと、その方法を教えてくれる。

張の経験は、文化教育などの社會事業(yè)を発展させることの重要性も教えてくれる。大生集団の労働者の資質(zhì)は他の地方や他の産業(yè)より高かった。障害を持つ労働者もきちんと教育を受けていた。社會の総合的発展と産業(yè)の総合的発展は良好な補完関係を形成し、同時に安定と団結(jié)が社會の総合的発展に貢獻した。

中國では現(xiàn)在、まずは國內(nèi)での良好な経済循環(huán)を出現(xiàn)させ、それを世界全體の大循環(huán)に接続する経済構(gòu)造づくりが進められている。そんな狀況にあって、張がめざした「地場経済の確立」は、大いに參考になる。（構(gòu)成 / 如月隼人）