世界中のさまざまな民族が、それぞれの神話を伝えてきた。「神話は歴史上の事実ではないが、事実が何らかの形で反映されていている場(chǎng)合が多い」とよく言われる。神話はまた、伝えてきた民族の価値感を示し、自らの起原の認(rèn)識(shí)を示すものでもある。西洋を中心に特に有名な神話としてはギリシャ神話がある。中國(guó)も古くからの歴史を持つ國(guó)だけに、多くの神話が伝えられてきた。上海社會(huì)科學(xué)院文學(xué)所民俗研究室の畢旭玲主任はこのほど、中國(guó)メディアの中國(guó)新聞社の取材に応じて、中國(guó)神話とギリシャ神話の比較や中國(guó)神話の特徴や、これまでの中國(guó)神話に対する誤解について説明した。以下は畢主任の言葉に若干の説明內(nèi)容を追加するなどで再構(gòu)成したものだ。

他民族の神話を知れば、その民族の本質(zhì)を理解できる

私は著作の「文明起原の構(gòu)築－中華創(chuàng)生神話の時(shí)間の系譜」を執(zhí)筆する過程で、中國(guó)神話の系譜を整理した。中國(guó)神話の系譜は、中華の創(chuàng)世神話の全體性と、中華世界の多元的かつ一體的な大構(gòu)造を具體的に示すものだ。世界各國(guó)の人々は、この系譜を通じて、中國(guó)文化の思想と精神の根底を理解し、さらに中國(guó)人が持つ平和を愛し、粘り強(qiáng)く、犠牲を恐れず、すばらしい生活を求めて努力するという優(yōu)れた性質(zhì)が形成された要因と、その思考パターンを理解することができるはずだ。

現(xiàn)代にあって人類運(yùn)命共同體を構(gòu)築するには、多方面の協(xié)力を展開する必要があり、さらに文化、精神、思考パターンについて深く意思疎通をして、真に相互理解する必要がある。中華民族の哲學(xué)と世界観を全體的に示すことができる中華創(chuàng)世神話の系譜は、人類運(yùn)命共同體を構(gòu)築する重要な文化的?精神的資源になりうる。

中國(guó)神話の系譜づくりはギリシャ神話よりはるかに早かった

これまでは「中華創(chuàng)世神話には系譜がない」、あるいは甚だしい場(chǎng)合には「中國(guó)には創(chuàng)世神話がない」といった主張があった。これらは「西洋文明中心論」の影響下で形成された、極めて誤った認(rèn)識(shí)だ。多くの人は今でも、古代ギリシャ神話だけが系譜を持っていると思っている。オリンポス山のゼウスをはじめとする神々の、整理された物語(yǔ)群のことだ。しかし、中國(guó)神話については知識(shí)が少なすぎる。たまたま知っているのは、嫦娥の月に昇った話や、后羿が太陽(yáng)を射た話ぐらいのものだ。

実はギリシャ神話の系譜は、かなり後の時(shí)代になって整理構(gòu)築されたものだ?，F(xiàn)在知られる古代ギリシャ神話のテキストは、ドイツの詩(shī)人のグスタフ?シュワブ（1792－1850年）が広く収集して編纂（へんさん）したものだ。古代ギリシャの時(shí)代に、整理された神話の系譜はなかった。

中華創(chuàng)世神話の系譜は古代ギリシャ神話の系譜よりはるかに早く形成された。遅くとも西周時(shí)代（紀(jì)元前1100年ごろ－同771年）には、中華創(chuàng)世神話の系譜の原型がすでに現(xiàn)れていた。司馬遷の「史記?五帝本紀(jì)」は、すでに存在した五帝神話の系譜を改めて整理したものだ。三國(guó)時(shí)代（220－280年）から西晉時(shí)代（256－316年）にかけて生きた江南出身の徐整（生沒年不明）は、初の創(chuàng)世神話の専門書である「三五暦紀(jì)」を著した。

中華創(chuàng)世神話で極めて重要なのは、中華民族共同體の形成を説いた部分だ。大量の神話は原始社會(huì)後期の有名な部族連合の指導(dǎo)者と黃帝の間の親類関係を描寫している。例えば炎帝は黃帝の兄弟であり、顓頊（せんぎょく）は黃帝の孫であるなどだ。禹は黃帝から4代目の子孫であり、禹を開祖とする夏、さらには商、周、秦の4王朝の天子はすべて黃帝の子孫とされる。

また、これらの先祖神と中原以外の民族群との親類関係も設(shè)定された。例えば北狄と犬戎は黃帝の子孫で、氐は炎帝の子孫だ。さらに匈奴の始祖は夏王の子孫だ。これらの神話は中華の大地に生活する各民族群の族源をすべて黃帝、炎帝に収束させ、いずれも炎黃の子孫であるという族源のアイデンティティーを確立した。

神話は歴史の各時(shí)期の事情が反映され変容していった

中國(guó)と西洋の創(chuàng)世神話の違いとしては、西洋では神話が長(zhǎng)きにわたって韻文の形で伝えられたことがある。例えばホメロスの敘事詩(shī)だ。中國(guó)の創(chuàng)世神話は散文の形式で殘されている。

中國(guó)でも早い時(shí)期には神話が詩(shī)歌の形式、つまり韻文で伝播した。例えば「詩(shī)経」に収録された「玄鳥」や「長(zhǎng)髪」は神話敘事詩(shī)と見なすことができる。ただし、中國(guó)では文字の発達(dá)が早かったので、これらの敘事詩(shī)は、書き言葉として典雅表現(xiàn)で記録されるようになり、ホメロスのような吟遊詩(shī)人が覚えやすく聞きやすい韻文で歌い継ぐ必要は、早い時(shí)代に消失した。

神話は中國(guó)でも西洋でも、伝説と歴史を結(jié)び付け、さらにそれを現(xiàn)狀に結(jié)びつける役割を果たした。中國(guó)では神話の伝承時(shí)間が長(zhǎng)く、歴代にわたって神話には新しい政治、歴史、文化面の機(jī)能が追加された。神話の原初のストーリーと內(nèi)容は、知らず知らずのうちに希釈されたので、後世の人は神話と歴史が混同されていると感じるようになった、しかしこの混然一體となった物語(yǔ)群は、それぞれの時(shí)代を生きた人々にとって、神話が語(yǔ)るはるか昔のことがらと、自分らの現(xiàn)狀を?qū)g感をもって結(jié)びつけて認(rèn)識(shí)することを促し、神話の物語(yǔ)が受け継がれていくことを確実にした。

西洋でも、古代ローマが勃興して古代ギリシャの諸都市を併合した後には、「ホメロス敘事詩(shī)」と古い伝説の「アエネーイス」の物語(yǔ)を利用して、改めて「アエネーイス」の物語(yǔ)が編まれた。これは、ギリシャがトロイアを滅ぼした際に、アエネーイスという英雄が脫出して、ローマを建設(shè)したという物語(yǔ)だ。ローマ人はこの物語(yǔ)により、ギリシャ侵略を正當(dāng)化した。

ローマは共和制から帝政に移行してますます繁栄したが、紀(jì)元395年には西ローマ帝國(guó)と東ローマ帝國(guó)に分割された。そして西ローマ帝國(guó)は476年に、ゲルマン人の侵入により滅びた。ゲルマン人は、自らの先祖はアエネーイスの親族だったとする神話を作り出し、ローマ侵略と西歐の統(tǒng)治を正當(dāng)化した。

話を中國(guó)の神話に戻せば、中華の創(chuàng)世神話は中華民族を世界の他の民族と區(qū)別する重要な文化遺産だ。そして、世界各國(guó)の民衆(zhòng)に中華文明に対する理解を全體的に深めてもらうための、非常に重要な文化ソフトパワーだ。その鮮明なイメージと生き生きとした情景には時(shí)空を超えた価値があり、他國(guó)の民衆(zhòng)に受け入れられやすい。

実際に、ここ數(shù)年は中國(guó)國(guó)外で、中國(guó)神話の素材を取り上げることが増えている。英國(guó)と米國(guó)の合作ファンタジー映畫である「ファンタスティック?ビースト」のシリーズにも、中國(guó)の神獣である麒麟（きりん）や帝江が登場(chǎng)した。麒麟は太平の世に現(xiàn)れる瑞獣で、歌や踴りを好む帝江も、やはり瑞獣だ。これらの神獣は中華民族が古くから平和を愛し、生命を大切にし、さらに前向きで楽観的でありつづけた象徴と言える。

ただし現(xiàn)在のところ、中國(guó)神話のイメージや物語(yǔ)が海外に伝播する狀況は、極めて豊富な神話資源を考えれば、深さも広さも十分ではない。中國(guó)神話の「海外進(jìn)出」には、広大な領(lǐng)域が殘されている。（構(gòu)成 / 如月隼人）