「殷鑑不遠（殷鑑遠からず）」という言葉がある。さまざまな失敗による殷の滅亡（紀(jì)元前1046年）を「遠い昔に起こった現(xiàn)在とは関係のない出來事」と考えるのではなく、滅亡の原因や過程を現(xiàn)在に通用する教訓(xùn)とみなすべき、という主張だ。香港メディアの香港01は16日付で、中國で猛烈な勢いで続けられている鉄道建設(shè)について、かつての日本で新幹線など鉄道路線を盛んに建設(shè)したことで発生した諸現(xiàn)象を引き合いにして「殷鑑不遠」と論じる記事を発表した。

中國では2000年代ごろから鉄道建設(shè)に巨大な投資

中國では改革開放が本格化した1980年代には「要致富，先修路」（豊かになるためには、まず道路を作れ）と盛んに言われるようになった。ところが2000年代に入ってしばらくすると、鉄道建設(shè)の遅れによる問題が大きくなった。そのため、中國は鉄道建設(shè)に大いに力を入れるようになった。その成果として、鉄道の総延長は世界第2位、高速鉄道の総延長は世界第1という「鉄道大國」になることができた。鉄道路線網(wǎng)は僻地（へきち）にも張り巡らされるようになった。

2016年から20年までを?qū)澫笃陂gとする第13次５カ年計畫とその次の第14次5カ年計畫では、貧困の撲滅と農(nóng)村の振興が重要な取り組みとされた。そのための重要な手段の一つとされたのが、鉄道および高速鉄道の建設(shè)だ。中央政府?鉄道部の統(tǒng)計によれば、過去10年間で中國の130カ所の県が「鉄道が通っていない」という狀態(tài)に終止符を打った。僻地及び貧困地區(qū)における鉄道建設(shè)のために、4兆3000億元（23年4月16日時點の為替レートで約84兆円）が投じられた。

しかし、鉄道建設(shè)は本當(dāng)に貧困の撲滅と農(nóng)村の振興に奏功するのか。この問いに対する解答を得るためのヒントとなるのが、中國の東の隣國である日本の狀況だ。

1950年代に始まった日本の鉄道建設(shè)で出現(xiàn)した狀況とは

日本は中國よりよほど早く、1957年から鉄道建設(shè)に大いに力を入れた。東海道新幹線の著工は59年だった。64年に東海道新幹線が開通した後も、日本は新幹線の建設(shè)を進めた。日本では70年代末には、全國を覆い各重點都市を結(jié)ぶ鉄道交通ネットワークが完成した。

日本の鉄道ネットワークの完備は工業(yè)の勃興を促進した。日本は敗戦に伴い、資源に乏しい東アジアの遅れた國になった。しかし工業(yè)の勃興で経済大國になった。世界の名聲を得た日本の重要な工業(yè)地帯は、鉄道に依拠して形成されたものだった。

しかし日本では鉄道網(wǎng)の整備が、別の狀況ももたらした。まず、農(nóng)村部の沒落だ。日本の國內(nèi)輸送は歴史を通じて、主に水運に頼っていた。そのために、村や町は水路に沿って分布していた。鉄道網(wǎng)の全面的な整備は、多くの村や町が交通の流れから阻害されることを意味した。そのことで、農(nóng)村からの労働力の流出がさらに加速した。

日本政府は70年代には「村おこし」政策に力を入れるようになった。しかし農(nóng)村工業(yè)化運動も村づくり運動も、労働力の流出や農(nóng)業(yè)の疲弊、農(nóng)村の高齢化などの問題を解決することができなかった。2016年時點で、日本での農(nóng)業(yè)従事人口の全人口に占める割合はわずか1．5％で、その半數(shù)近くが70歳以上の高齢者という狀況になった。日本では農(nóng)業(yè)の衰退とともに、食糧自給率も低下しつづけることになった。

現(xiàn)在も尾を引く鉄道関連の債務(wù)問題

日本における鉄道建設(shè)は、別の問題も引き起こした。鉄道関連の巨大な債務(wù)問題だ。1964年には300億円だった赤字は、79年には8218億円に達した。年間の増加率は24．69％だった。日本國有鉄道（國鉄）の長期負債額も、64年の8313億円から79年には11兆1672億円にまで増加した。年間増加率は18．91％だ。日本政府は國鉄の民営化改革を進めることになった。

しかしその後も、土地の売卻制限やバブル景気の悪影響で、新規(guī)の債務(wù)が発生し、債務(wù)殘高は増加した。結(jié)局は政府が殘った債務(wù)を肩代わりすることになった。政府はかなりの程度、沿海地區(qū)の経済ベルトがもたらす稅収を期待しているが、解決するためにはさらに時間と労力を要する。先行きは不透明だ。

中國の重視する農(nóng)村振興が、鉄道により阻害される恐れも

中國でもすでに、農(nóng)村部の空洞化や高齢化、就農(nóng)人口の不足などの問題が発生している。中國は農(nóng)村部振興が経済建設(shè)の中心に據(jù)えられ、繰り返し強調(diào)されてきた。中國では日本と異なり、農(nóng)村部や貧困地區(qū)での鉄道建設(shè)に力が入れられてきたので、鉄道建設(shè)が農(nóng)村振興にもたらす積極な役割は無視できないが、それでも諸狀況を総合的に考える必要がある。

鉄道建設(shè)でまず重要なことは、他のインフラ建設(shè)と組み合わせて、総合的に進めることだ。特に、地方の特色ある産業(yè)の育成は極めて重要だ。産業(yè)が十分に育っておらず、鉄道という便利な輸送方法が出現(xiàn)したのでは、人口流出と農(nóng)村の空洞化、農(nóng)業(yè)の疲弊が加速するだけだ。

鉄道建設(shè)はさらに、地方の交通インフラの実情と実際の必要性と結(jié)びつけて考えねばならない。長期に渡って水運や道路輸送が機能してきた地域にあっての鉄道建設(shè)や駅の開設(shè)には、慎重の上にも慎重を期さねばならない。鉄道の開通は、従來の輸送手段體系を直撃する。そのことで地域の町や村が不可逆的な破壊を被る場合もある。

鉄道建設(shè)にはプラス面もマイナス面もある

また、鉄道建設(shè)のコストと長期的な債務(wù)負擔(dān)を直視せねばならない。つまり、國民経済全體における鉄道建設(shè)の費用と効果を考えねばならない。重要なことは、建設(shè)によって生じた債務(wù)が効果的に解消されるかどうかであり、國民経済に深刻な負擔(dān)にならないかどうかだ。鉄道の総延長が長くなることを単純によしとするのではなく、総合的な観點から考えねばならない。

鉄道を建設(shè)すれば、経済によい影響を與えるかもしれない。しかし巨額の投資による負の側(cè)面も発生する。鉄道建設(shè)がもたらすプラス面よりもマイナス面がずっと大きいということも、十分にありえる。われわれはこれらについて、一衣帯水の隣國である日本の経験から學(xué)ばねばならない。まさに「殷鑑遠からず」ということだ。（翻訳?編集/如月隼人）