吉田陽介 2023年7月28日(金) 10時0分
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東アジアの共通の価値観について、中國の専門家が指摘している。資料寫真。
1960~90年代に東アジアは目覚しい経済発展を遂げ、「東アジアの奇跡」とまでいわれ、世界の注目を集めた。この地域の経済発展パターンは一定の共通性があるため、経済について語る場合、「東アジアモデル」という言葉がよく使われた。だが、1997年のアジア通貨危機により、東アジアの「神話」は崩壊し、韓國などは不況に陥り、國際通貨基金(IMF)の支援を受けた。當時、一部識者から、東アジアは官僚や政治家、利益団體とのつながりが経済活動で重要な意味がある「縁故資本主義(クローニーキャピタリズム)」が問題で、「グローバルスタンダード」に合致した経済運営をすべきだという指摘がなされた。
ただ、この見方は歐米の「新古典派経済學(xué)」に基づいた考え方であり、必ずしもアジア地域の実情を反映したものではなかった。アジアが獨自の経済発展をしてきたことは事実だ。
17日付の中國新聞ネット(WeChat版)に「儒家経済圏が世界で注目されている理由」と題する記事が掲載された。記事は、日本の高度成長、韓國の「漢江の奇跡」と呼ばれる経済発展、中國やベトナムの経済発展を儒家経済圏の経済発展の成功例に挙げ、「儒家経済圏の絶え間ない『拡大』により、圏內(nèi)の多くの経済體(エコノミー)の人口と経済規(guī)模は世界で重要な位置にある」と述べた。
東アジア、特に日本、中國、韓國は地理的に近く、文化?習(xí)慣の面でも共通點があるため、経済交流にプラスとなるという話は、アジア獨自の発展についての見方がよく出てきた90年代後半にも聞いたことがある。記事も、「儒家経済圏は儒家文化を基礎(chǔ)にしている」とし、「歴史的に中國の政治や中華文化の影響を受け、過去または現(xiàn)在、漢字を使用し、文語文を書き言葉として共に使っていた」と述べている。
儒家経済圏の定義について、記事は「一般的には儒家文化が社會文明體系の中で主導(dǎo)的地位を占める、または重要な影響力を持つ経済體を指す。儒家経済圏には中國大陸、香港、マカオ、臺灣地區(qū)、日本、韓國、ベトナム、シンガポールなど8つの経済體が含まれている」と述べている。ここで挙げられた國と地域は、いずれも目覚しい経済発展を遂げており、そのパターンも共通している點がある。
周知のように、経済発展には労働、資本、技術(shù)、管理などの要素が重要だが、記事も指摘しているように、文化的要素も少なからず影響している。儒家経済圏が目覚しい経済発展を遂げた要因として、記事は以下の7つの點を挙げた。
第一に、文化面で、「禮」「仁」を尊び、秩序を重んじるという點だ。儒教思想の基本的な理論的基礎(chǔ)である「性善論」が、「仁政」を行い、人間本位の人道的管理を行うための基礎(chǔ)だとしている。また、儒教の中心的倫理思想である「禮」は、「禮はルールであり、秩序であり、規(guī)則にのっとったすべての禮は統(tǒng)治の基礎(chǔ)を構(gòu)成し、社會の安定と経済の発展を保障する」と述べている。
第二に、統(tǒng)治面で、「有効な市場」と「有為な政府」を提唱するという點だ。儒教経済圏の國と地域は、相対的に権力を集中させ、政府の役割を重視する発展パターンをとっている。このような市場経済モデルは、市場の「見えざる手」を利用して自らの経済活動を調(diào)整する一方で、政府は「見える手」で必要な時に適切な介入を行うというものだ。
第三に、モデルの面で、「和而不同(人とは仲良くするが、むやみに同調(diào)しない)」を固く守り、多くの事柄を包容するという點だ。記事は「儒家経済圏は多文化を認め、文明の対話と文化の調(diào)和を主張し、寛容性?開放性?協(xié)議性を備えている」とし、さらに「圏內(nèi)の國は一般的に対外開放政策を?qū)g施しており、その際立った利點は排他的ではなく、最高権威者を決めないことであり、外來の先進的な科學(xué)技術(shù)、文化のあり方、発展モデル、管理の経験に対する大きな包摂性を持っていることだ」と述べている。
第四に、教育の面で、「師を尊び、教育を重んじる」ことを発揚し、「誰もが等しく教育を受けられる」ことを主張するという點だ。儒家経済圏の「奇跡」と呼ばれる経済発展は、教育の普及と質(zhì)の高い労働力を抜きには語れない。日本の高度成長は安くて質(zhì)の高い労働力に支えられ、中國の経済発展も然りだ。その要因として記事は、「圏內(nèi)の経済體は孔子の『誰もが等しく教育を受けられる』の思想を普遍的に認め、教育の公平を図り、青年學(xué)生に相対的に平等な教育を受ける機會と條件を提供するよう盡力している」と述べている。
第五に、社會の面で、「穏やか?素直?恭しい?質(zhì)素?謙遜」を提唱し、「家國同型(家族と國家が組織?構(gòu)造の面で共同性を持つ)」だとしている點だ。この理念は経済の持続的で安定した発展の社會的基盤を築いた?!讣覈汀工摔瑜盲粕叱訾丹欷繌娏Δ式M織力?動員力は、現(xiàn)代工業(yè)化の大生産における競爭力に転化することができる。
第六に、政策決定者の面で、個人の修養(yǎng)を重視し、エリートが政治を主導(dǎo)することを尊重するという點だ。儒家経済圏の統(tǒng)治者は、儒教の「修養(yǎng)を積むことで、人々を楽しませる」、「其の身正しければ令せずして行はる。其の身正しからざれば、令すと雖も従はれず(人の上に立つ者の身が正しければ、命令しなくても意図したことは正しく行われる。人の上に立つ者の身が正しくなければ、命令しても國民は従わない)」の理念を重視しており、それは企業(yè)家の品格を改善すると記事は指摘する。また、儒教の理念は「義利合一」「士魂商才」を重視し、仁義、人格、教養(yǎng)、情誼などを行為の根底とし、「論語」と算盤を一體化させている。
第七に、労働力の面で、「苦労に耐え、勤勉を尊ぶ」という點だ。東アジアの人々には、果敢に重荷を負い、苦労に耐え、実務(wù)に勵むという「民族の品格」があり、それは「現(xiàn)代の大工業(yè)生産に非常に適している」と記事は指摘する。
この7つの要因は、東アジア地域に共通する政治経済、文化的要因だ。東アジアの経済発展について語る場合、政府の役割は非常に重要だ。日本や韓國などの経済発展は、國が経済発展のためのレールを敷き、企業(yè)間の競爭を促したことが大きい。中國の経済発展も、「政府の手」と「市場の手」をうまく組み合わせている。改革開放前は「政府の手」のウエイトが非常に大きかったが、それ以降の経済発展は「市場の手」を大いに発揮させて、これまで「タブー視」されていた資本主義的要素を取り入れて、経済発展を図った。
中國とその他の東アジア諸國とは政治體制が違う。中國は社會主義國であり、マルクス主義が政権黨である中國共産黨のイデオロギーになっている。ただ、同黨は「マルクス主義の中國化」を強調(diào)しており、同國特有の文化?思想を取り入れたものでなければならないとしている。中國の政治?経済の基本理論を見ると、ここで挙げられた7つの要因がある程度當てはまる。
第一に、政治面で、「有為の政府」の建設(shè)を重視し、一連の改革を行うという點だ。改革開放から40年たち、市場経済志向改革の弊害が出た。特に黨?政府の腐敗、職務(wù)怠慢が深刻になったため、「有為の政府」をつくるために、中國共産黨指導(dǎo)部は「反腐敗闘爭」を展開した。さらに、政治面では「徳治」を重視しており、統(tǒng)治者自身が修養(yǎng)を積み、「人民に奉仕する」という理念を堅持することを強調(diào)している。
第二に、対外関係面では、各國の多様性を認めている。記事が提起した第三の要因は、まさに中國が2013年に提唱した「一帯一路」イニシアチブの理念だ。日本の報道では「巨大経済圏」という言葉がついているが、それは中國を「盟主」にしたものでなく、「文明間の対話、學(xué)び合い」が理念にあり、沿線諸國の文化の多様性を認めている。
第三に、社會建設(shè)の面では、「社會主義核心的価値観」を堅持するとしている。その內(nèi)容は「富強、民主、文明、調(diào)和、自由、平等、公正、法治、愛國、勤勉、誠実、友好」というものだ。このうち、「勤勉、誠実、友好」は記事が挙げた「穏やか?素直?恭しい?質(zhì)素?謙遜」の理念にも近いものがある。中國政府は「社會主義核心的価値観」を堅持して、人々のモラル水準を上げ、「向上?修善、誠実?互助の社會気風(fēng)」がいっそう強まることを目指している。
中國共産黨は第20回黨大會で「中國式現(xiàn)代化」の概念を打ち出し、それを堅持すると強調(diào)している。それは歐米諸國と違う現(xiàn)代化の道を歩むというものだ。最近は、中國式現(xiàn)代化と中華文化の結(jié)合も言われており、歐米式の発展パターンに対する東アジアの発展パターンという図式をはっきりさせつつある。
記事では、シンガポールのリー?クアンユー元首相が1980年代に打ち出した「アジアの共通的価値観」にも言及した。ここまで見てきたように、東アジア地域の経済発展パターンには儒教文化の要素が見られ、それらは「東アジアの価値観」といえるものだ。
過去のアジアの経済発展パターンは一國単位だったが、現(xiàn)在はグローバル化が進んでおり、世界経済と切り離した発展はどの國も不可能だ。今後は各國と連攜した東アジアの経済発展パターンを構(gòu)築することが必要だ。ただ、各國の「共同體意識」が重要だ。
それには、アジアの経済大國である日本と中國の関係が重要だ。周知のように、日中両國は2000年にわたる交流の歴史があり、儒教の考え方も中國から日本に伝えられ、江戸時代の日本では朱子學(xué)が政治に活用された。そのため、日中両國には「共通の価値観」が存在するといえる。
だが、日本は「市場経済」「民主主義」「法の支配」という「共通の価値観」を持つ歐米諸國、特に米國との関係を深め、中國への警戒を強調(diào)している。
2004年に出版された「東アジア共同體」という本に、「日米間には共通の価値観があるが、日中間にはそれがない。日中間にあるのは共通の利益だけだ」という日本外務(wù)省のある高官の話が引用されていた。確かに、現(xiàn)在の日中関係は「新時代に合った日中関係の構(gòu)築」という言葉をよく聞くが、どちらかといえば「共通の利益」に重きが置かれている。ただ、日中間には歴史問題や領(lǐng)土問題など解決の難しい問題があり、「共通の利益」を関係発展の「突破口」として、さらなる関係回復(fù)につなげるのが望ましい。
価値観の面では、中國は現(xiàn)在、「平和、発展、公平、正義、民主、自由」を人類共通の価値観としており、伝統(tǒng)的な社會主義國とは違うことを強調(diào)している。日中両國でいえば、前述のように、東アジアの価値観が歴史的にあるため、日中関係の研究がよくいうように、両國関係の発展は両國のみならずアジア地域にとってもプラスとなる。さらにいえば、新たな東アジアの発展パターンの構(gòu)築の面から見ても、両國関係の改善は重要な意味がある。
現(xiàn)在、日中関係は停滯しているが、交流のチャネルがないというわけではない。7月初めに沖縄県の玉城知事が訪中し、中國の國家指導(dǎo)者と面會した。14日には林外相と王毅中央外事工作委弁公室主任が會談するなど、対話は続いている。そのため、日中関係は「最悪」とはいえず、先行きは必ずしも暗いものではない。
新たな「東アジアモデル」の構(gòu)築は長いスパンで考える必要がある。
■筆者プロフィール:吉田陽介
1976年7月1日生まれ。福井県出身。2001年に福井県立大學(xué)大學(xué)院卒業(yè)後、北京に渡り、中國人民大學(xué)で中國語を一年學(xué)習(xí)。2002年から2006年まで同學(xué)國際関係學(xué)院博士課程で學(xué)ぶ。卒業(yè)後、日本語教師として北京の大學(xué)や語學(xué)學(xué)校で教鞭をとり、2012年から2019年まで中國共産黨の翻訳機関である中央編訳局で黨の指導(dǎo)者の著作などの翻訳に従事する。2019年9月より、フリーライターとして活動。主に中國の政治や社會、中國人の習(xí)慣などについての評論を発表。代表作に「中國の『代行サービス』仰天事情、ゴミ分別?肥満?彼女追っかけまで代行?」、「中國でも『おひとりさま消費』が過熱、若者が“愛”を信じなくなった理由」などがある。
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