アメリカの力が相対的に低下するにともない、次は「アジアの世紀(jì)」がやってくると言われて久しい。アジア開(kāi)発銀行が「アジア2050―アジアの世紀(jì)は実現(xiàn)するか」とのセンセーショナルなレポートを出したのが2011年であった。しかし、そのような世紀(jì)が本當(dāng)にやってくるのか疑う人も多くなったし、もう終わったという人もいる。中國(guó)、インド、日本、韓國(guó)、アセアンの國(guó)々が、いずれもアジア?グループの一員として協(xié)力し合うのではなく、それぞれの「わが道」を歩んでいることが、「アジアの世紀(jì)」なるものをつかみどころのないものにしている。しかし、そのような狀況にもかかわらず、アジア各國(guó)の近年の活発な動(dòng)きを見(jiàn)る限り、漠とした「アジアの世紀(jì)」の到來(lái)は、疑いようもなく現(xiàn)実になりつつある。

そもそもアジアとは何なのかについては、昔からさまざまな意見(jiàn)があった。岡倉(cāng)天心は?アジアは一なり?と東邦の理想を掲げたし、フランスの歴史學(xué)者フェルナン?ブローデルもインドを含む極東の文明にかなり均質(zhì)的な物質(zhì)的文明を見(jiàn)た。この文明は菜食主義であり、コメの文明圏であり、宗教がすべての人間生活に関與する世界だ。他方、梅棹忠夫は「文明の生態(tài)史観」の中で、辛らつに、「地理的な名前としても、ユーラシア大陸からヨーロッパを除いたものを、アジアと呼んでいるに過(guò)ぎないのである。それを平気で踏襲して、文化的にも 歴史的にも、本気でアジアは一なりなどと考えることは、アジアに関するおどろくべき無(wú)関心と思考の粗雑さを示すものといわなければならない」と喝破した。種々意見(jiàn)の異なるアジア論を背景に、小倉(cāng)和夫元駐韓國(guó)大使は、「世界的な価値を持ちうるアジアの価値は何なのかについて、アジア內(nèi)部の厳格な検討と探求が行われなければならない」と訴えた。

そのアジアの価値論がもてはやされた一時(shí)期があった。1980年代から90年代の中ごろにかけて、すなわち日本のバブルが華やかなりし頃である。ルシアン?パイMIT教授や、シンガポールのリー?クアンユー首相やキショール?マブバニ國(guó)連大使（いずれも當(dāng)時(shí)）、さらには日本でも多くの論客が、このような価値論を展開(kāi)した。マレーシアのマハティール首相も西洋から學(xué)ぶのをやめて日本や韓國(guó)から學(xué)べと「ルックイースト」を提唱した。1982年のマレーシアの新聞の有名な風(fēng)刺漫畫(huà)に、英國(guó)外相がマレーシアに到著するのを、日本の著物姿で正座して迎えようとするマハティール首相を描いたものがあった。

當(dāng)時(shí)、典型的なアジアの価値と目されたものに、儒教精神の影響を受けた家父長(zhǎng)、組織、國(guó)家への忠誠(chéng)、社會(huì)の秩序と安定のための個(gè)人の自由の犠牲、學(xué)問(wèn)および技術(shù)向上意欲、勤労倫理と質(zhì)実剛健、自然環(huán)境との共生などがあった。政治的には一黨支配の容認(rèn)、反対派に非寛容的なコンセンサス社會(huì)、市民的自由や人権よりも社會(huì)経済的な厚生の重視、集団主義、権威的な政府の選択なども特徴であった。ルシアン?パイ教授は、アジアでは権力観が強(qiáng)力な國(guó)家指導(dǎo)型の経済発展を可能にしたし、溫情主義的権威と依存の相互作用、共同體の連帯、調(diào)和、集団、チームワークが重視される、したがって、アジアでは西洋的な民主主義は期待できず、獨(dú)自の政治文化を絶えず持ち続け、西洋の政治文化と収斂せずに、これとは異なる近代化の過(guò)程をたどる、と主張した。これは1993年にフランシス?フクヤマが、その著「歴史の終わりと最後の人間」で、共産主義が崩壊したあと歴史は個(gè)人の権利または政府のコントロールからの自由を基礎(chǔ)とするリベラル民主主義によって終わりを告げると論じたこととは真っ向から異なる議論であった。

こうした?アジアの価値論?は、アンチテーゼたる西洋の価値、すなわち自由、民主主義、市場(chǎng)経済、小さい政府、人権、個(gè)人主義、進(jìn)歩主義などへの根強(qiáng)い懐疑から出発していた。こうした価値や主義とは違うものがアジア諸國(guó)にはずっと昔から存在していて、それが現(xiàn)実の経済制度などの運(yùn)用に有効な役割を果たしているという議論であった。その背景には、世界の超大國(guó)となった日本と、それを雁の一群のように追う韓國(guó)、臺(tái)灣、シンガポールなどのダイナミックなアジア?タイガーたちの躍進(jìn)があった。そして、中國(guó)が急速に追いついた。2000年代初頭には、日中韓の協(xié)力を前提にした、「東アジア共同體」構(gòu)想の議論も活発になされた。

一世を風(fēng)靡した「アジアの価値論」は、バブルがはじけてからの日本の長(zhǎng)い経済停滯 、アジア諸國(guó)を襲った経済危機(jī)、日中間の対立などで、無(wú)殘にも世界の論壇の舞臺(tái)から撤退を余儀なくされた。それどころか、今度は、このようなアジアの価値論にいう諸要素こそがアジア諸國(guó)の経済危機(jī)?停滯の元兇とまで見(jiàn)られるに至り、?アジアの価値?というだけで見(jiàn)向きもされない時(shí)代を迎えた。そして、日本では規(guī)制緩和、構(gòu)造改革などの新自由主義が力をふるう一方、活力を取り戻した米國(guó)では、ネオコンと呼ばれた保守主義者によって、世界に米國(guó)流のリベラル民主主義を展開(kāi)しようとする政策が、2008年のリーマン?ショック時(shí)まで幅を利かせた。さらに、追い打ちをかけるように、中國(guó)の急速な臺(tái)頭と、その権威主義的な體制、國(guó)內(nèi)の反対勢(shì)力への弾圧などが、「アジアの価値」なるものの暗い側(cè)面をあぶりだした。

しかし、いま世界を見(jiàn)回せば、先祖がえりともいえる狀況が見(jiàn)えてくる。中國(guó)に対する國(guó)際社會(huì)の厳しい目は変わらないものの、グローバルサウスを代表しようとするかのインドの目覚しい臺(tái)頭、アセアン諸國(guó)の活気ある経済、そしてグローバルなレベルでの権威主義國(guó)の増大と民主主義陣営の停滯は、再び「アジアの価値論」をまな板にのせうる狀況を呈している。アジア諸國(guó)が歐州連合やアフリカ連合のような政治的なまとまりをもつことは當(dāng)面無(wú)理としても、共通の「アジアの価値」を有した國(guó)々の國(guó)際的なプレゼンスが増せば、おのずと世界からは「アジアの世紀(jì)」の再來(lái)と認(rèn)識(shí)されるであろう。2023年12月に開(kāi)かれた日本とアセアンとの特別首脳會(huì)議は、友好協(xié)力50周年を機(jī)に、地域の経済と社會(huì)を?qū)澋趣柿?chǎng)で共に作り上げるという「共創(chuàng)」ビジョンを打ち出した。アセアンは、數(shù)年內(nèi)に経済規(guī)模で日本を追い抜くという予測(cè)もある。日本がアセアン諸國(guó)を支援するという従來(lái)の関係から、対等な関係を打ち出すまでに至ったのである。

それでは、そのような「アジアの世紀(jì)」の到來(lái)は、世界に何を新しくもたらすだろうか？19世紀(jì)に世界を支配した大英帝國(guó)は、その遺産として、議會(huì)制度、金本位制度、航海の自由、リベラリズムといったものに加えて、英語(yǔ)、テニス、サッカー、ラグビーなどのスポーツを世界に広めた。20世紀(jì)に世界の覇者となった米國(guó)は、民主主義、市場(chǎng)経済、自由貿(mào)易、國(guó)連、ブレトンウッズ體制、NATO、OECD（経済協(xié)力開(kāi)発機(jī)構(gòu)）、世界人権宣言などを世界にもたらした。まだまだアメリカは、軍事、外交、経済、貿(mào)易、金融サービスなどの各面での優(yōu)位を容易に他地域に譲るつもりはなさそうだ。

アジア諸國(guó)からは、確かに、インドカレー、中華料理、日本の壽司がすでに世界標(biāo)準(zhǔn)となっているが、哲學(xué)的な思想や新しい政治経済、社會(huì)制度といったところで世界に提供できるものがないだろうか。古いアジアの価値論の焼き直しでは、世界に通用しないし、中國(guó)のいう「中國(guó)の特色ある社會(huì)主義」では汎用性を欠く。世界に通用する価値観を示して、アジア諸國(guó)の活力は何も特別な、あるいは歐米から見(jiàn)て不公正な、制度や慣行によって支えられているのではないことを示さねばならない。他の先進(jìn)國(guó)と同じ土俵で勝負(fù)して、その結(jié)果優(yōu)秀だからアジアは発展してきたという説明の方がずっと説得力を持つ。

しかし、さまざまな世界的課題に対してアジアからの積極的な貢獻(xiàn)を考える前に、アジア諸國(guó)は、自らが抱える諸問(wèn)題をまず解決しなくてはならない。さもなければ、西歐のポピュリストは、またぞろ不公正なアジア論を持ち出すであろう。いくつかの具體的な提案をしたい。

第一に、「法の支配」の厳格な実行である。普遍的な価値の存在を認(rèn)めたうえで、すでに存在する政治、貿(mào)易、経済、環(huán)境、人権などに関する國(guó)際的な法や制度、約束などを、きちんと守る姿勢(shì)を示すことである。このため、シンガポール、インドネシア、タイ、マレーシア、ベトナムなどが、一日も早くOECDに加盟して、先進(jìn)諸國(guó)から有益な慣行や制度を吸収するとともに、お互いにベストプラクティスを?qū)Wびあう「ピア?レビュー」に參加すべきである。

第二に、民主主義の徹底だ。民主主義は、単に國(guó)民の代表を選挙で選ぶだけでなく、三権分立、特に司法の獨(dú)立、表現(xiàn)の自由、報(bào)道の自由、基本的人権の保護(hù)など広範(fàn)囲にわたる制度的な改革を必要とする。まだまだアジアにはこうした自由や権利が保障されていない國(guó)が數(shù)多くあり、アジア諸國(guó)の世界報(bào)道自由度ランキングなどはおしなべて低い。日本は積極的に、國(guó)連人権理事會(huì)や國(guó)連情報(bào)委員會(huì)などを活用して、自由の抑圧狀況の改善を訴えるべきだ。

第三に、情報(bào)発信力の強(qiáng)化だ。アジアから世界に向けた情報(bào)、特に役に立つ情報(bào)がもっと流れなくてはならない。ニッポンドットコムの2023年9月26日付の記事に、「東京での落とし物、2022年度は過(guò)去最高の現(xiàn)金40億円弱が警察に屆く：コロナ禍以前より人々のモラルは向上？」というのがあった。この記事は、英語(yǔ)、フランス語(yǔ)など多言語(yǔ)に訳されている。このように、日本やアジア各國(guó)の人々の正直で誠(chéng)実な行動(dòng)のエピソードや、平等な社會(huì)、多様な文化の共存、他者への思いやり、自然との共生などを示すデータをもっと歐米社會(huì)に向けて発信すべきだ。

そのほかにも、貧富の格差是正や、縁故資本主義との決別など、アジア諸國(guó)が抱える課題は多いが、他方、アジアにはきわめて魅力的な文明、歴史、文化、民蕓、工蕓、アートが存在する。西洋文明とアジアの価値は決して対立するものではない。一例をあげれば、昨年、寶生流の能は、スウェーデンのジャズとコラボできることを見(jiàn)事に示した（ニッポンドットコム、2023年6月7日付記事「現(xiàn)（うつつ）と幻の”あわい”：スウェーデン?ジャズと能の邂逅（かいこう）」）。このような試みはもっと広い範(fàn)囲で行われることができるだろう。

アジア獨(dú)自の価値を振りかざして西洋の価値に対抗しようとする試みは、これまで幾多の手痛い失敗を重ねてきた。そうではなく、西洋が長(zhǎng)い歴史を経て築き上げてきた普遍的な価値を抱擁し、それに敬意を示しつつも、アジア側(cè)からの知見(jiàn)と蓄積された英知を頼りに、新たな視點(diǎn)から西洋とアジアとの懸け橋をかける時(shí)期が來(lái)ている。必ずやってくる「アジアの世紀(jì)」を真に実りあるものにするため、「アジアの価値」について再度真剣に議論する時(shí)が來(lái)た。

■筆者プロフィール：赤阪清隆

公益財(cái)団法人ニッポンドットコム理事長(zhǎng)。京都大學(xué)、ケンブリッジ大學(xué)卒。外務(wù)省國(guó)際社會(huì)協(xié)力部審議官ほか。経済協(xié)力開(kāi)発機(jī)構(gòu)（OECD）事務(wù)次長(zhǎng)、國(guó)連事務(wù)次長(zhǎng)、フォーリン?プレスセンター理事長(zhǎng)等を歴任。2022年6月から現(xiàn)職。