上海で7月上旬に世界人工智能大會（WAIC2024）が開催された。100以上の専門フォーラムが開かれ、1000人以上の著名人、テスラ、マイクロソフト、デル、アリババ（阿里巴巴）、テンセント（騰訊）、バイドゥ（百度）、ファーウェイ（華為技術(shù)）など500社以上が參加した。テーマは大規(guī)模言語モデル、コンピューティング、ロボット、自動運(yùn)転などだが、大方の印象は大規(guī)模言語モデルとロボットが半々だったという。そんな中、アリババの大規(guī)模言語モデル「通義千問」に大きな注目が集まった。アリババ復(fù)活ののろしとなるだろうか。

アリババは中國のDXを主導(dǎo)

アリババは金融子會社のアントグループと共に中國のデジタルトランスフォーメーション（DX）を主導(dǎo)した。2004年に決済ツールのアリペイ（支付寶）、2009年に11月11日の獨身の日の大規(guī)模セール「ダブルイレブン（雙11）」を開始した。2011年にQRコード決済を開始。2013年にMMF（マネー?マーケット?ファンド）の「余額寶」、2015年に小口金融商品の「花唄」を発売し、どちらも大ヒットした。2015～2016年には新型O2Oスーパー「盒馬鮮生」、ライブコマース「淘寶直播」、信用スコア「芝麻信用」もスタートした。2017年に研究機(jī)関「達(dá)磨院」を設(shè)立。2018年に醫(yī)療共済保険「相互寶」を開始した。

アリババは斬新な商品とプラットフォームを次々とリリースし、中國社會に革命をもたらした。この頃のアリババと創(chuàng)業(yè)者ジャック?マー（馬雲(yún)）氏は中國DXの象徴として光輝いていた。しかし2020年代に入り暗転する。

アントグループは2020年11月に史上最大規(guī)模の上場を予定していた。それが突如中止となり、世界を震撼させた。これは中國當(dāng)局によるIT企業(yè)締め付けの端緒となった。翌2021年4月、アリババは獨占禁止法違反で182億元もの巨額罰金を課せられ、アントグループはデータの開放と金融商品の“調(diào)整”を迫られた。IT巨頭の象徴ゆえに、最も強(qiáng)い逆風(fēng)を受けた。

その後のアリババは業(yè)績悪化や組織変更、功労者の退任、時価総額で新興の拼多多（ピンドゥオドゥオ）に抜かれるなど、マイナスの話題ばかりだった。

アリババの「通義千問」は唯一のオープンソースモデル

中國電子技術(shù)標(biāo)準(zhǔn)化研究院は2023年12月、AI業(yè)界の健全で秩序ある発展のため、大規(guī)模言語モデルの適合性評価を行い、アリババの「通義千問」、百度の「文心一言」、テンセントの「Hunyuan（混元）」、三六零安全科技（360セキュリティー?テクノロジー）の「360智脳」の4モデルが合格した。

通義千問はアリババのクラウドコンピューティング子會社「アリクラウド（阿里雲(yún)）」が開発した。アリクラウドはダブルイレブンと同じ2009年にスタートした。アリババグループはもとより、國家鉄路集団、中國石化、中國石油、中國煙草総公司など國有中央企業(yè)のDXにも大きく貢獻(xiàn)した。さらに世界中に開発者と企業(yè)ユーザーを持つ。

「通義」とは一般的、合理的な正義といった意味合いで、通義千問はAI Generated Content（AIGC、AI生成コンテンツ）と呼ばれるタイプの大規(guī)模言語モデルだ。

通義千問の最大の強(qiáng)みは四つの中で唯一のオープンソースモデルであることだ。パラメーター數(shù)（外部要素の処理數(shù)）が18億、70億、140億、720億の四つの大規(guī)模言語モデルをオープンソース化した。その結(jié)果、権威ある世界10種の評価基準(zhǔn)で最上位にランクされ、メタ社のオープンソースモデルLlama2を上回った。

靜止畫をアニメーションへ変換

通義千問は複數(shù)データを一括処理できる。複數(shù)の対話、コピーライティング、論理的推論、多言語サポートにより、小説の続きやEメールを書いたり、コピーを作ったりできるのだ。アリババはWAIC2024の會場で「通義12時間、AIアシスタントが付き添う1日を體験しよう」をテーマに掲げた。対話、効率、インテリジェンス、ビジョンの四つを中心に、仕事、學(xué)習(xí)、生活のシーンにおいてAIアシスタント機(jī)能を提供する。あらゆる靜止畫像をダンスアニメーションに変換でき、兵馬俑が踴りだしたり、名畫「韓熙載夜宴図」を復(fù)活させたりと、インパクトの強(qiáng)いデモンストレーションを行った。參加者は「パーソナルボイス」や「大學(xué)100萬人クリエーター」などのツールのほか、AI絵本やデモンストレーションの鑑賞、うちわやポストカード作りなどを體験した。

大規(guī)模言語モデルはアリババの切り札になるか

2009年にスタートした大規(guī)模SNSの微博（ウェイボー）は通義千問の草創(chuàng)期からの顧客だ。微博のトップは、「生成AIは想像を超えるスピードで発展している。この間、多くの大規(guī)模言語モデルが登場したが、これらは百科辭典のようなもので、何個も必要ない。微博では、通義千問のような優(yōu)れたビッグモデルを使用しつつ、獨自データをより精緻にカスタマイズしたい」と述べた。ユーザーサイドのニーズをよく表している。

一方、アリクラウドのトップは、中國の大規(guī)模モデルの進(jìn)歩と社會実裝にはオープンソースモデルのエコシステム構(gòu)築が不可欠だと述べ、外部との連攜を強(qiáng)調(diào)した。また、演算能力、AI、生成モデルの形成など、フルスタックの技術(shù)革新を通じてクラウドコンピューティングシステムをアップグレードする。通義千問はAI時代に最もオープンかつ競爭力のあるクラウドとしてユーザーニーズに応えるという。

唯一のオープンソースモデルであることや國內(nèi)外多數(shù)の優(yōu)良顧客の存在により、四つの國家認(rèn)定大規(guī)模言語モデルの中でトップランナーなのは間違いなさそうだ。ただ、2010年代に道なき道を切り開いた王者の輝きはない。かつてと違い、獨創(chuàng)的なプラットフォームとはいえないからだ。

しかし、この通義千問の動向は今後のアリババを左右しそうだ。長年のライバルのテンセントはともかく、臺頭著しいバイトダンス（TikTok運(yùn)営）や拼多多（Temu運(yùn)営）にここで差をつけられるかどうか。アリババは正念場を迎えている。

■筆者プロフィール：高野悠介

1956年生まれ、早稲田大學(xué)教育學(xué)部卒。ユニー株（現(xiàn)パンパシフィック）青島事務(wù)所長、上海事務(wù)所長を歴任、中國貿(mào)易の経験は四半世紀(jì)以上?，F(xiàn)在は中國人妻と愛知県駐在。最先端のOMO、共同購入、ライブEコマースなど、中國最新のB2Cビジネスと中國人家族について、ディ－プな情報を提供。著書：2001年「繊維王國上?！箹|京図書出版會、2004年「新?繊維王國青島」東京図書出版會、2007年「中國の人々の中で」新風(fēng)舎、2014年「中國の一族の中で」Amazon Kindle。