中國ではかつて、政治上の理由で外國の映畫が上映されない時期もあったが、1980年代からは改革開放政策の進(jìn)行に伴い外國の作品も多く一般公開されるようになった。人々は外國映畫を鑑賞することで、「われわれの社會は進(jìn)歩しつある」という実感を味わいもした。外國作品が「崇拝」されるような雰囲気も出現(xiàn)したが、現(xiàn)在では逆に國産作品が勢いづき、外國作品が苦戦している狀態(tài)だ。中國での映畫をめぐる狀況に、何が発生しているのだろうか。本稿は、上海に拠點を置いて市場分析や総合コンサルティングを営む上海嘉世営銷諮詢有限公司（MCR）による「2024年映畫市場簡易分析リポート」の主要部分に、一部で日本人読者向けの情報を追加するなどで再構(gòu)成したものだ。

【その他の寫真】

映畫産業(yè)は回復(fù)中だが楽観視できない狀況も

中國における2023年の映畫興行収入（サービス料を含む）は前年比83．35％増の549億元（約1兆800億円）だった。同年の新規(guī)上映作品本數(shù)は前年比56．31％増の計508本で、19年比では9．77％減だった。中國映畫は21年と23年に新規(guī)上映総數(shù)と興行収入総額の過去記録を更新した。この狀況は主に、新型コロナウイルス感染癥で社會生活などが強く規(guī)制された期間中に「お蔵入り」になっていた作品が集中的に放出されたことによる。例えば23年の興行収入上位10本のうち3本は、21年までに製作された「積み殘し作品」だった。

最近の中國の映畫興行で目立つ現(xiàn)象の一つが、限定公開だ。公開される地域や上映館を絞り込んでの公開で、數(shù)は少なくとも熱心なファンを引き付けることを狙う。業(yè)界側(cè)にとっては、宣伝費を減らすことなどができる。また、映畫館が差別化されることで、新たな市場競爭が発生すると期待されている。また製作する側(cè)にとっては、特定の好みを持つ人を強く意識するので、作品の質(zhì)が向上する可能性もあるとされる。

一方で中國の映畫産業(yè)は、「より多くの人々を動員している」とは言えない狀況だ。23年の全國の映畫鑑賞者數(shù)は約5億300萬人で、19年の5億3200萬人より5．45％減少した。19年には1人當(dāng)たり3．25回だった映畫鑑賞回數(shù)は、23年には2．58回に減少し、上映館に足を運んで鑑賞した映畫は1本だけだったと言う人が51％に達(dá)した。

春節(jié)（舊正月）連休や夏休み時期、秋の國慶節(jié)連休などは、映畫業(yè)界にとって書き入れ時だ。そのため逆に、閑散期の狀況を見れば、映畫産業(yè)の「底力」を知ることができる。19年には興行が最も振るわなかった週の興行収入が4億1200萬元(約81億4000萬円）で、観客動員數(shù)は1217萬人だった。しかし23年には3億1200萬元(約61億6000萬円）と755萬人で、いずれも19年を大きく下回った。

特に苦戦が目立ったのは、外國作品だった。23年には中國で公開されたシリーズもののハリウッド作品の3分の2の興行成績が、前年の同時期に公開されたシリーズ前作の成績の40％に屆かなかった。原因としては、ハリウッドの映畫製作能力がまだ完全に回復(fù)していないこと、米中の対立がさらに深刻になったこと、輸入映畫の宣伝力や配給力などが國産映畫に比べて目立って弱く、上映する映畫館が少なかったことなどが考えられる。

地方都市の比重が高まりつつある業(yè)界地図

中國では都市を一線都市、二線都市のように分類することが多い。分類方法が確定しているわけではないが、一線都市は「経済活動の強い影響が全國に及ぶ都市」で、通常は北京市、上海市、広東省広州市、同省深セン市と考えられている。二線都市は省全體や省境を越えて影響が及ぶ都市、三線都市は二線都市に準(zhǔn)じる都市で、その次の四線都市は地方の中都市、五線都市は小都市と考えてよい。

多くの場合、新たな経済の動きや社會の流行はまず一線都市で出現(xiàn)し、次に二線都市、三線都市と広がっていく。一線都市や二線都市は人口が大きいが、それ以外の都市の方が人口の合計が大きいので、中國で発生した新たな現(xiàn)象は四線都市や五線都市に広がって初めて、全國規(guī)模で定著したと見なすことができる。

中國での映畫の興行収入は20年以前には一線都市が三線都市や四線都市を上回っていたが、今年（24年）のメーデー連休では一線、二線、三線都市の比率が低下し、四線都市の割合が大きく上昇した。年初來5月初めまでの興行収入では、一線都市が全體の14％の28億元（約550億円）、二線都市は41％の82億元（約1600億円）、三線都市は20％の40億元（約790億円）、四線都市は24％の47億5000萬元（約940億円）だった。興行収入において一、二線都市の占める割合は低下しつつあり、三、四線都市の割合は上昇しつつある。

23年の映畫鑑賞チケット料金は1枚當(dāng)たり42．29元（約835円）で、前年比では0．48％の微増だった。24年1－5月の平均チケット料金は一線都市が50．66元（約1000円）、二線都市が42．86元（約847円）、三線都市が43．29元（約855円）、四線都市が43．64元（約862円）だった。一線都市は前年より下落したが、それ以外では上昇した。

通年予想では、チケット料金の平均は42．7元（約843円）で、経済回復(fù)に伴う消費力の向上や供給の改善により、観客動員數(shù)は前年比5％増の13億6500萬人と見込まれている、年間の市場規(guī)模は前年比で3％－5％の成長で566億元（約1兆1200億円）から600億元（約1兆1900億円）の範(fàn)囲になると予想されている。

映畫産業(yè)の新たな潮流と克服せねばならない課題

映畫制作の注目すべき流れとしては人工知能生成コンテンツ（AIGC）の活用がある。AIGCはシナリオの創(chuàng)作を補助し、クリエイターのアイデアに基づいてシナリオの枠組み、段落、さらには完全なシナリオを生成し、シナリオに磨きをかけて創(chuàng)作の効率と質(zhì)を高める。映像作成では、要求に合ったバーチャルキャラクターとシーンデザインを迅速に生成し、特殊効果の視覚効果を向上させ、レンダリングを加速するなどで制作効率を向上させる、音聲に基づいて字幕を自動的に生成し、テキストなどに基づいて吹き替えを自動的に生成することが可能だ。編集作業(yè)では、自然言語のヒントに基づいて動畫を切り取ったり、動畫に音響効果を追加することができる。

中國の映畫産業(yè)界が直面する課題としては、高まりつつある観客の「質(zhì)への期待」に、プロデューサーや監(jiān)督が追い付けていないことがある。きちんと取り組もうとする動きはあるが、低レベルな作品でお茶を濁す場合もある。大スターの出演や派手な特殊効果で客を引きつけようとはしているが、ストーリーは月並みで、盛り上がりに乏しい作品だ。このような作品も興行としては成功することはあるが、そのことが創(chuàng)作側(cè)の心理狀態(tài)に悪影響を與える。また、時間と労力をかけない映畫も収益を上げられるとなれば、「よい作品をしっかりと作る」という理念に資本を投下することにもためらいが出る。

公開される映畫に「はずれ作品」が増えれば、映畫全體への人気が影響を受ける。その結(jié)果、投資家がリターンを得られないことも発生しやすくなる。そうなれば、投資家や製作會社は、映畫への大規(guī)模な投資を行う勇気を持てなくなる?，F(xiàn)場は資金不足に陥りやすくなり、思い切った考えで斬新な作品を作るリスクを取れなくなる。そのことが「はずれ作品」をさらに増やす。悪循環(huán)だ。

このような狀況にあって、作品の限定公開は業(yè)界全體をよい方向に導(dǎo)く可能性がある。全ての人が支持する作品ではなく、割合は少なくても、大いに好む人が確実に存在する作品を世に出す。意図してマーケティングの範(fàn)囲を縮小することなどでコスト削減を?qū)g現(xiàn)し、投下した資本が確実に回収できるようにする。

中國では「小衆(zhòng)」という言葉が注目されている。工業(yè)では畫一な製品を大量生産して大量販売するのではなく、さまざまな顧客の異なる好みを反映する手法だ。それぞれの顧客層は「小衆(zhòng)」でも、全體として大きなビジネスが成立する。たとえば服飾では畫一的な既製品ではなく、個別の顧客の好みを反映した商品を提供する。IT技術(shù)の活用などで、従來型のオーダーメイド品より迅速に生産して価格を下げられもする。

映畫産業(yè)でも「小衆(zhòng)」を徹底的に意識することで、個別の作品の興行成績では「大型話題作」に及ばなくても、業(yè)界全體に活気をもたらすことは大いに可能だ。（翻訳?編集/如月隼人）