「失われた30年」は経済だけの話?世界で存在感増す日本の文化?スポーツ

長田浩一    2025年4月8日(火) 20時30分

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文化やスポーツ、ライフスタイルなどの分野に目を向けると、アジアはもとより世界でも日本の存在感はバブル期よりはるかに増している。寫真は大谷翔平。

バブル崩壊後の日本経済の低迷を、人は「失われた30年」と呼ぶ。この言葉には日本全體が地盤沈下しているようなニュアンスがあるが、私はこれまであまり抵抗感を抱かずにこのフレーズを使ってきた。しかし、文化やスポーツ、ライフスタイルなどの分野に目を向けると、アジアはもとより世界でも日本の存在感はバブル期よりはるかに増している。この時代を「失われた」と表現(xiàn)するのは、経済の物差ししか持たない経済人の視野狹窄のなせる業(yè)なのではないか。

「ボカロ」が世界の音楽シーンを席巻

3月に放送されたNHKスペシャル「新ジャポニズム第2集 J-POP “ボカロ”が世界を満たす」は、私にとって衝撃的な內(nèi)容だった。楽器メーカーのヤマハが開発したボーカロイド(ボカロ)という音聲合成技術(shù)が、世界の音楽シーンを席巻しているという。ボカロを使って音楽を製作する人をボカロPと呼ぶが(Pはプロデューサーの略)、ロンドンの音楽ホールを埋めた聴衆(zhòng)がきくおという日本人のボカロPのパフォーマンスに合わせて、「愛して、愛して、もっともっと愛して」と日本語で大合唱するシーンには圧倒された。

2023年に「アイドル」で世界的ヒットを飛ばした2人組の音楽ユニットYOASOBIもボカロを駆使して楽曲を作っているし、20年に「うっせぇわ」でセンセーショナルなデビューを飾った女性シンガーAdoも、ボカロの曲を歌って外國でも人気を集めている。番組はさらに、タイ、インド、英國、メキシコの若者が、日本の音楽に強い影響を受けたり、自分でもボカロを使って曲作りに挑戦したりしている姿を紹介していた。私はボカロについてほとんど知らなかったし、ましてそれが海外の若者にこれほどのインパクトを與えているとは想像もしていなかった。世の中の変化についていけていないなあと痛感した。

こうした映像を見ながら、ふと思う。日本の「失われた」と言われる前の時代、すなわち「ジャパン?アズ?ナンバーワン」などとおだてられて浮かれていた時代に、日本は経済以外の分野でこのような存在感を持っていただろうか?株式時価総額で日本企業(yè)がベスト10のうち7社を占めるなど経済分野では突出しているが、それ以外ではたいして魅力のない國、顔のない國と思われていたのではないか?

訪日外國人、バブル期の13倍

海外で人気のある日本発のコンテンツとしては、アニメが代表的だ。私が通信社の記者として歐州に駐在した1990年ごろ、スイスやフランスのテレビでは「ドラゴンボール」や「シティーハンター」などが放送され、當時から一定の人気があった。その後、「ワンピース」や「ポケットモンスター」、一連のジブリ作品などのインパクトが加わり、人気はさらに高まるとともに世界的に広がっている。

ライフスタイルの面でも、日本は存在感を増している。その筆頭は、和食。前述の新ジャポニズムの第3集「FOOD 日本食が“世界化”する」によると、現(xiàn)在世界には19萬軒の日本食レストランがあり、その多くは外國人が経営し、客も現(xiàn)地の人が多いという。和食をベースにしつつ、獨自に進化した料理を提供する店も少なくない。30數(shù)年前にも歐州に日本食レストランはあったが、その數(shù)はずっと少なかったし、経営者も客も日本人が中心だった。當時とは様変わりだ。

日本を訪れる外國人の増加は、海外での日本人気の高まりの証左だろう。今年1月の訪日外國人は378萬人で単月として過去最高を記録。これはバブルの絶頂期だった1989年の年間の訪日者數(shù)(283萬人)を大きく上回っている。昨年の訪日者數(shù)は89年の13倍となる3687萬人で、年間として過去最高を更新。今年は4000萬人を突破する勢いだ。

日本人の海外での支出と、外國人の日本での消費の差額である旅行収支は、14年まで赤字が続いていたが、15年に黒字転換し、昨年は5兆8973億円と過去最大の黒字を記録した。これは円安もあって日本人があまり海外に旅行しないためでもあり、喜んでばかりはいられないのだが、日本の観光地や和食の魅力が海外の旅行者を引き付けているのは間違いないだろう。

スポーツ大國ニッポン

かつてに比べ、日本の存在感が格段に増していることが數(shù)字でも裏付けられている分野の一つにスポーツがある。バブル期の1988年に韓國ソウルで開催されたオリンピックでは、日本の金メダルは競泳背泳ぎの鈴木大地選手など4個だけで、參加國中14位にとどまった。日本の半導(dǎo)體が世界シェアの半分を占め、邦銀が世界の金融マーケットを席巻していた時代としては、寂しい數(shù)字と言わざるを得ない。「日本人は金もうけに夢中で、スポーツには関心がないのだろう」と言われても仕方なかった。

その36年後に開催された昨年のパリオリンピック。日本は自國開催以外では最高となる20個の金メダルを獲得、國別ランキングで米國、中國に次ぐ3位に入った。ソウル五輪に比べ競技種目が増えているので単純な比較はできないが、金メダル數(shù)3位は2020東京大會(実際の開催はコロナ禍の影響で21年だが)に続き2大會連続。これはもう、スポーツ大國と呼ばれてもおかしくない成績だ。

オリンピック以外でも、日本選手の活躍は目覚ましい。米大リーグでの大谷翔平らの活躍は改めて取り上げるまでもない。歐州各國のサッカーリーグには日本人選手が多數(shù)在籍し、彼らを中心とした日本代表チームは、來年の北中米ワールドカップ(W杯)の出場権を開催國以外では初めて獲得するなど、「アジア最強」と呼ばれている。

國際舞臺で活躍する日本人選手には、アジア諸國から熱い視線が注がれる。昨秋のW杯予選でインドネシアを訪れたサッカー日本代表の練習場には、イングランドでプレーする三笘薫らを見るためにファンが押し寄せたし、バレーボール男子の高橋藍はフィリピンで大変な人気があり、出場した試合には女性ファンが殺到し、アイドルのコンサートのようだったという。これらはすべてバブルの頃には全く見られなかった光景だ。

若者のチャレンジに期待

バブル崩壊後、日本の経済が低迷し、それに比例する形で外交面でも影響力を失っているのは事実だ。バブルの形成と後始末で失政を重ねた政府?日銀、內(nèi)部留保をため込むばかりで新規(guī)投資に及び腰だった経済界の責任は大きいし、そうした政府や企業(yè)の対応の問題點を十分に指摘しなかったメディアにも反省點はある。一方で、文化やスポーツなどの分野では、日本の存在感は確実に高まっている。ビジネスマンや経済官僚などを除く一般の外國人にとっては、日本はバブルの頃よりはるかに身近な存在になっていると思う。

そうだとすれば、「失われた30年」というフレーズは、経済の尺度でしか物事を見ない経済人の傲慢さ、あるいは視野の狹さの反映と言えるのではないか。私自身、長く経済記者だったこともあって、90年代以降の日本のネガティブな面だけ見てしまうきらいがあった。今後は、経済以外の分野にももっと視野を広げたいと思う。

もう一つ、最近の若者は內(nèi)向き姿勢が強くなり、積極的に海外に出て行こうとしないと言われる。一橋大學名譽教授の野口悠紀雄氏は、日本人學生の海外留學は04年ごろをピークに減少しており、これが人的資源の劣化を招いて將來の経済成長を制約しかねないと懸念している。大學の外國語學部の人気もひところより落ちているようだ。私自身、通信社に在籍していた5、6年前、新入社員に「特派員として海外で取材してみたいか?」と尋ねたところ、薄い反応しか返ってこなかったためがっかりした記憶がある。

その一方で、前述のように文化やスポーツなどの分野で、世界で活躍している若い成功者が多數(shù)存在するという事実は心強い限りだ。彼らの活躍が、今の高校生や大學生を刺激し、海外でチャレンジする若者を増やしてくれることを期待したい。

■筆者プロフィール:長田浩一

1979年時事通信社入社。チューリヒ、フランクフルト特派員、経済部長などを歴任。現(xiàn)在は文章を寄稿したり、地元自治體の市民大學で講師を務(wù)めたりの毎日。趣味はサッカー観戦、60歳で始めたジャズピアノ。中國との縁は深くはないが、初めて足を踏み入れた外國の地は北京空港でした。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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