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関稅戦爭で米中のどちらが耐えられるかのチキンレースの様相を呈している。
このほど公開された映畫「ゲッベルス ヒトラーをプロデュースした男」を鑑賞した。ナチスの宣伝大臣として國民を扇動するとともにユダヤ人虐殺を正當化し、ドイツを奈落の底に突き落とした男の物語。80~90年前の話だが、ホロコーストの生存者が語る「それは起きた。また起きるかもしれない。それこそを伝えるべきだ」という言葉が頭から離れない。第2次トランプ政権発足後の米國で起きていることの中に、ゲッベルスが権勢をふるった時代のドイツと類似している部分があると思えるからだ。
映畫は、第二次世界大戦開戦(1939年9月)の前年から、45年4月のヒトラーの自殺、同5月のゲッベルスの自殺までのナチス政権內(nèi)部の動きを、この2人を中心に描く。私は、ゲッベルスはヒトラーの忠実な右腕として終始変わらず獨裁者を支えたと認識していたが、映畫で2人の間に深刻な亀裂が走った時期が2度あったと知り、驚いた。最初はゲッベルスの愛人問題が表面化したとき、2度目は39年のポーランド侵攻(第二次世界大戦の引き金となる)にゲッベルスが反対したときだ。どちらもヒトラーはゲッベルスに対してかなり不信感を抱いたようだが、罷免したり、遠ざけたりすることはなかった。それだけ彼の能力を買っていたのだろう。
なにしろゲッベルスは、「真実は私が決める」と言い放ち、ニセ情報や誇大宣伝で黒を白と言いくるめる天才だ。國力に見合わない大規(guī)模な戦爭や、反ユダヤ的政策を推し進めようとするヒトラーにとって、國民の支持を得るために、あるいは國民の目を欺くために、彼の存在は必要不可欠だった。
この映畫のHPは、現(xiàn)時點でゲッベルスの半生を描いた意義について「ゲッベルスの手法が現(xiàn)在も広がり続けている…ウクライナやガザにおける戦爭、ポピュリズムや極右臺頭の背後で喧伝される言葉や映像、量産されるフェイクニュース。インターネット全盛の現(xiàn)代社會で我々がどのようにウソを見抜き、真実を見極めることができるのか。これは現(xiàn)代社會への警告である」と説く。そう言われて頭に浮かぶのは、いま世界を混亂に巻き込んでいる“あの人”と、彼が率いる政権である。
「平気でうそをつく」(ニューズウィーク誌)と言われるトランプ氏と彼の政権の虛偽?誇大発言は枚挙に暇がない。最近では、ウクライナのゼレンスキー大統(tǒng)領を「選挙なき獨裁者」と呼び、ゼレンスキー大統(tǒng)領の支持率は4%に過ぎない、戦爭はロシアではなくウクライナが始めたなどとした同氏の発言が記憶に新しい?!溉毡兢扦厦讎嚖?臺も走っていない」とのクレームも余りにオーバーだ。第一次政権発足時の就任式典(2017年)の観衆(zhòng)がオバマ元大統(tǒng)領の就任式より少なかったという客観的な報道に対し、當時のホワイトハウス報道官が「観衆(zhòng)は過去最高だった」と強弁した事実は、トランプ政権のゲッベルス的傾向が8年前から変わらない事実を突きつける。
ナチスとの関連で一番気になるのが、「多様性?公平性?包括性(DEI)」への攻撃だ。ナチス時代のホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)は余りにも有名だが、彼らはドイツ人でも障害者や同性愛者、社會主義者らを収容所に送った。文化面でも、反ドイツ的とされた書籍の焚書を?qū)g行したり、近代美術?前衛(wèi)蕓術を退廃的としてそれらの絵畫を処分したりした。要するに、ナチスが適切ではない、役に立たないと判斷した國民や思想、文化を排除した。
報道によると、トランプ政権は、ハーバード大學がDEI容認の立場を続けているとして、助成金の一部を凍結した。また、米國南東部とメキシコ北東部に挾まれた灣を、世界標準の「メキシコ灣」ではなく「アメリカ灣」と呼ぶように指示。それに従わなかったAP通信をホワイトハウスでの取材から締め出した。もちろん、ナチスのようにこれらの措置を暴力的に実行しているわけではないが、自分たちの主張に沿わない見解を持つ個人や組織は容赦しないという點で、類似性を感じずにはいられない。民主主義の総本山として、自由と多様性が最大の魅力だった米國で、こうした措置がとられているのを見ることは悲しい。
もちろん、こうした政権の姿勢に反発する聲も噴出している。ハーバード大への助成金凍結について、オバマ元大統(tǒng)領は「學問の自由を抑制しようとする不法で強引な試みだ」と批判。AP通信の問題については、ワシントンの連邦地方裁判所が、政権の措置は「憲法に違反する」として取材アクセスを回復するよう命じた。今後、事態(tài)が良い方向に向かうことを期待したい。
トランプ政権の話をするなら、関稅の問題に觸れないわけにはいかない。貿(mào)易赤字解消と製造業(yè)の米國回帰を目的として、日本など同盟國を含む各國に一方的な高関稅を課すと発表し(その後、中國以外の國には90日の適用停止を発表)、世界経済を大混亂させているからだ。最大の競爭相手と位置付ける中國に対しては、合計で145%という常識外れの追加関稅を課した。
トランプ関稅について、4月半ばに日本記者クラブで記者會見した野村総合研究所の木內(nèi)登英エグゼクティブ?エコノミストは、「貿(mào)易赤字を企業(yè)の赤字と同じようなものと考え、赤字減少で國內(nèi)総生産(GDP)を押し上げることができると考えているが、これはビジネスマン感覚を単純に國の政策に適用したもので、誤っている」と指摘。高関稅は國內(nèi)需要や米國のサプライチェーンに混亂をもたらし、その分GDPを押し下げるとして、米國は4~6割の確率で景気後退に陥ると予測した。
145%の関稅を掛けられた中國は、それに対抗して125%の関稅を米國からの輸入品に課すと発表、米中のどちらが耐えられるかのチキンレースの様相を呈している。これについて木內(nèi)氏は1.中國には財政出動で高関稅のショックを和らげられる余地がある2.何といっても選挙がない―として、トランプ氏より習近平氏の方が持ちこたえる可能性が高いとの認識を示した。この予測が正しいかは分からないが、米國で高関稅政策により金融市場が混亂したり、物価が予想を超えて上昇したりした場合、來年秋の中間選挙を控えて政策修正の圧力が高まるのは間違いないだろう。
さて、何もしなければ24%の追加関稅が課せられる見通しの日本はどう対応すべきなのか。本稿執(zhí)筆時點では、赤沢亮正経済再生相が他國に先駆けて訪米して事態(tài)打開に向けた対米協(xié)議を開始。石破茂首相は政府內(nèi)の検討作業(yè)の加速を指示したと伝えられているが、決著を急ぐことが得策なのか、はなはだ疑問だ。米國が真っ先に日本との協(xié)議に応じたのは、扱いやすい同盟國の日本をまるめこんで個別國とのディール(取引)の成功例にしたいとの意図が見え見え。関稅引き下げと引き換えに規(guī)制緩和や安全保障面で安易な譲歩をすれば、それが前例となり、他國から批判される恐れがある。前述のように、時間の経過とともに高関稅の弊害が表面化して、米側が政策修正を余儀なくされる可能性もあり、急ぐ必要はない。
ここは適當な口実を付けながら、金融市場や他國の動向もにらみつつ、のらりくらりと協(xié)議を長引かせるのがベターなのではないか。日本は、このようなしたたかな外交は不得意だが、拙速?安易な合意だけは避けるように願いたい。
■筆者プロフィール:長田浩一
1979年時事通信社入社。チューリヒ、フランクフルト特派員、経済部長などを歴任?,F(xiàn)在は文章を寄稿したり、地元自治體の市民大學で講師を務めたりの毎日。趣味はサッカー観戦、60歳で始めたジャズピアノ。中國との縁は深くはないが、初めて足を踏み入れた外國の地は北京空港でした。
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