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きょとんとしている私に母の仕事仲間の先生は、「どう、美味しい? これで不老不死になれたね」とにっこり笑って話しかけてくれた。資料寫(xiě)真。
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「孫悟空の桃を食べて待っていて」と、私が言われたのは中國(guó)の杭州?浙江省の大學(xué)研究施設(shè)であった。母の仕事に同行していた小學(xué)生の私を中國(guó)の先生方はあたたかく迎え入れてくれ、おやつに桃を出してくれた。
岡山で生まれ育った私は、小さい頃から夏にはよく岡山特産の桃を食べていたのだが「孫悟空の桃」にとても驚いた。赤くて少し平べったい中華料理の桃饅頭に似た形で、かじると食感もしっかりあってじわっと甘味が広がってくる、岡山の円形の白桃とはまるで違う果物のように感じた。
きょとんとしている私に母の仕事仲間の先生は、「どう、美味しい? これで不老不死になれたね」とにっこり笑って話しかけてくれた。なぜ桃が孫悟空なのか、自分の言葉で聞きたくなって勇気をふりしぼり「什么意思(シェンマイースー)(どういう意味ですか)?」と習(xí)いたての中國(guó)語(yǔ)で聞いてみた。
年に一度は母の中國(guó)での仕事に同行していた當(dāng)時(shí)の私は、自分の言葉で話したくて中國(guó)語(yǔ)を習(xí)いはじめたばかりだった。母の仕事先の先生は「孫悟空の桃」を食べてきょとんとした私よりももっと驚いた顔で、「中國(guó)語(yǔ)を話せるの?」と優(yōu)しく笑ってくれた。
そして、西遊記に出てくる「孫悟空の桃」のお話を教えてくれた。天界に住んでいた孫悟空は、西王母に桃園で蟠桃(ばんとう)の管理を任せられていたにも関わらず、蟠桃會(huì)に招かれなかったことに怒って9000年に一度しか実をつけない蟠桃を食べてしまったそうだ。貴重な桃の効果で不老不死になったが、孫悟空は天界から追放されたという逸話があるとの話だった。少しだけ話せた中國(guó)語(yǔ)が通じたことと「孫悟空の桃」の謎が解けて、すごくほっとして桃があまく感じたことをよく覚えている。
桃は私の育った岡山の特産物としてもとても有名で、とろっとした食感と糖度が高くて色が白いのが特徴である。昔話の桃太郎も桃から生まれて鬼退治をした岡山出身の有名人とされていて、神社などでも祀られている。岡山は、空港名も「岡山桃太郎空港」というほど桃とゆかりが深い。白桃?清水白桃?黃金桃など初夏から秋までたくさんの品種を食べられることもあって、桃は岡山が発祥の地だと私は思い込んでいた。中國(guó)から帰國(guó)した後も「孫悟空の桃」のことが頭から離れなかった私は、桃について調(diào)べることにした。すると、桃は中國(guó)が原産で岡山では明治の初めに品種改良して誕生したのが白桃であることを知った。日本の桃の品種の大半は岡山県がルーツだそうだが、その前のルーツは中國(guó)だったことをはじめて知ったのだ。
「孫悟空の桃」の話をもっと知りたくて、西遊記が原語(yǔ)で読めるようにと私は中國(guó)語(yǔ)の勉強(qiáng)を前よりも熱心にした。それと同時(shí)に、「孫悟空の桃」と「岡山の桃」は同じ桃でも違う果物に感じるほど桃には品種がたくさんあることにもとても興味を持つようになった。調(diào)べていく中で、桃の品種改良はとても進(jìn)んでいて冬に食べられる品種もすでにあることやそれぞれの産地において好まれる色や食感や糖度は地域に根ざしていることなど、桃について多くのことを知ることができ、農(nóng)業(yè)にも興味を持つようになった。
その後、中學(xué)?高校と中國(guó)語(yǔ)や化學(xué)の勉強(qiáng)も続けた私は、この春から農(nóng)學(xué)を?qū)煿イ工氪髮W(xué)生になった。桃はバラ科サクラ屬の植物で、果実だけではなく葉や種にも健康成分が豊富に含まれている。果実には食物繊維やカリウムが含まれているので、腸內(nèi)環(huán)境や疲労回復(fù)に効果的でコレステロール値を下げることも近年の研究で明らかになったらしい。まさに不老不死と呼ばれるにふさわしい果物だ。おいしくて身體にいい桃を中國(guó)と日本の共同研究で世界に屆けることができればどんなに素?cái)长坤恧Αⅳ长欷饯维F(xiàn)在の夢(mèng)だ。
きっと世界で好まれる色や食感や糖度は土地によって異なるだろうし、土壌も異なるので濕度や硬度の異なる環(huán)境や病気にも強(qiáng)い品種が必要かもしれない。しかし、世界に中國(guó)と岡山がルーツの桃を創(chuàng)って是非屆けたい。そして、はじめて「孫悟空の桃」を食べたあの日の私のようにルーツに関する勉強(qiáng)をはじめるきっかけを、まだ會(huì)ったこともない同じ世界の誰(shuí)かとも共有したいと強(qiáng)く願(yuàn)っている。
世界的なコロナ禍で中國(guó)に出張できなくなった母は、オンラインで中國(guó)の先生達(dá)と変わらずコミュニケーションをとっている。落ち著いて対面で會(huì)える日が待ち遠(yuǎn)しいそうだ。次回は私も同行させてもらい、今度は自分の言葉で「孫悟空の桃」をきっかけに農(nóng)學(xué)に興味を持ったことをあの時(shí)の先生に是非お話ししたいと思っている。もう少し勉強(qiáng)を重ねながら、その日が近い將來(lái)になるように今は待ちたいと思う。
「孫悟空の桃」と「岡山の桃」、同じ桃でも少し違うけれど不老不死や鬼退治など人を幸せにしたいと思う気持ちは共通なのではないかと私は思う。忘れられないあの中國(guó)滯在の日の桃からはじまる未來(lái)を、これからつくっていきたい。
■原題:孫悟空の桃と岡山の桃
■執(zhí)筆者プロフィール:谷 拓篤(たに ひろあつ)大學(xué)生
岡山県で生まれ育った岡山大學(xué)農(nóng)學(xué)部1年生の19歳(書(shū)籍出版時(shí))。幼少の頃から母の海外出張に同行し、東アジアを中心に7カ國(guó)に滯在経験がある。特に中國(guó)への渡航は、浙江省を中心にこれまでに12回。孔子學(xué)院で中國(guó)語(yǔ)も學(xué)び、中國(guó)語(yǔ)の朗読やスピーチコンテスト等での受賞経験もある。これまでに中國(guó)語(yǔ)と英語(yǔ)の資格も取得しており、將來(lái)は東アジアの農(nóng)業(yè)研究所で働くことを夢(mèng)みている。
※本文は、第6回忘れられない中國(guó)滯在エピソード「『香香(シャンシャン)』と中國(guó)と私」(段躍中編、日本僑報(bào)社、2023年)より転載したものです。文中の表現(xiàn)は基本的に原文のまま記載しています。なお、作文は日本僑報(bào)社の許可を得て掲載しています。
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