<アベノミクス暗転>日銀?バズーカ超金融緩和は「膨大な財政赤字帳消し」への危険な道?

八牧浩行    2014年12月11日(木) 5時57分

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日銀が「バズーカ砲」と呼ばれる異次元金融緩和の追加策を推進、波紋を呼んでいる。財政健全化や潛在成長率の引き上げが実現(xiàn)しない中で、日銀の國債大量買い入れが続き、ハイパーインフレ(物価急上昇)につながるリスクもある。寫真は日本銀行。

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日本銀行の「バズーカ砲」と呼ばれる異次元金融緩和策の追加策が波紋を呼んでいる。デフレ脫卻に向け「物価2%上昇目標」達成への道筋をつけることを理由にしているが、財政健全化や潛在成長率の引き上げが実現(xiàn)しないまま、日銀の國債大量買い入れが続くリスクもある。

その他の寫真

日銀が10月末の金融政策決定會合でサプライズ的に決定した追加金融緩和は、(1)年60兆?70兆円のペースで増やすとしていた資金供給量を約80兆円まで拡大。中長期國債の買い入れペースを年約80兆円と、現(xiàn)狀の約50兆円から30兆円程度増やす、(2)上場投資信託(ETF)と不動産投資信託(REIT)の保有殘高をこれまでの3倍に拡大する―など。カネを市場にばら撒き、投資信託(事実上の株式)を購入するというもので、円安?株高につながる。

潛在成長率が低下している中で、大量資金を市場に供給すると、日銀券の価値が下がり物価上昇に歯止めが効かなくなる懸念が大きい。政府の國債を日銀が直接引き受けることは財政法で禁止されているが、実際には、毎年一部の國債は例外的に直接買い入れられているのだ。日銀が買い入れる國債金額が拡大するにつれて、日銀が日本政府の借金を肩代わりするような形になりつつある。

現(xiàn)在の國債発行額は約800兆円で、このうち日銀の國債保有殘高は今年末に200兆円に達する見込み。この額が際限なく増えていけば、日本國債への信任が薄れ、國債価格が下落(金利は上昇)する可能性があり、日銀には多額の含み損が発生してしまう。

これを無制限に行えば、財政や通貨に対する信任がなくなり、將來ハイパーインフレ(急激な物価上昇)を引き起こす懸念が高まってしまう。巨額の國債殘高を抱えながら日本の財政が維持されてきたのは、國債のほとんどが國內(nèi)で消化されていたことと、デフレ?低金利で利払い費用が増えなかったことによるものだが、この前提が崩れる可能性も大きくなる。

 

◆政府主導の株価下支え策と合わせ技 

日銀が追加緩和を決めた同じ日に打ち出されたのが、年金積立金管理運用獨立行政法人(GPIF)による國債運用減額。GPIFが株式や外貨建て資産などリスク資産の比率を引上げるのに合わせ、ウエートが引き下げられる國債を日銀が吸収するため日銀買い入れを増やすことになったと市場関係者は見ている。実際、日銀が今回決定した長期國債購入の増額は、GPIFの國債比率引き下げから算出される30兆円とぴったり合致するのだ。國民の大切な年金資金を株式などリスクマネーに多く投入するのは禁じ手に近い。株価を上げるために使える手段を総動員するのは將來に禍根を殘す。

超金融緩和により円相場は一時1ドル=120円を割り込み、2年前に比べ4割も安くなった。輸出より內(nèi)需で稼いでいる企業(yè)にとっては猛烈な逆風だ。円安で原材料、電力代が上昇し、コストがかさんでいる。大企業(yè)製造業(yè)は生産の海外移転が進み、円安になっても輸出の増大にはつながりにくい。輸出が増えなければ下請け企業(yè)の受注も伸びず、原材料など輸入コスト増だけがのしかかる。製品納入先の大企業(yè)が円安で業(yè)績を回復させたとしても、下請け中小企業(yè)に恩恵は及ばない。

◆為政者が陥りやすい「安易な道」

巨額財政赤字は潛在成長率アップや徹底した歳出削減、増稅で解消するのが真っ當な方策だが、人口減少と景気低迷が続く日本ではハードルが高い。強い政治力も必要となるが、これも望み薄。そこで為政者が誘惑に駆られるのが「インフレによる赤字解消」である。大平正芳元首相は蔵相時代の1975年、「増稅も歳出削減もできない中、財政赤字をなくすために為政者が陥りやすい安易な方法はインフレ。インフレにすれば最大の借金を持つ國が最大の恩恵を受けるので誘惑に駆られやすい。ただ年金生活者や低所得者は困窮してしまう」と戒めの弁を語っていた。首相時代に「一般消費稅導入」をぶち上げたが、道半ばで倒れた。

今回の異次元金融緩和は、大平氏が懸念した「禁じ手」につながるのではないか。大戦後の日本や西獨での超インフレなど國の巨額債務を帳消しにした例は多い。政府日銀には、景気回復とハイパーインフレ防止の二兎を追うぎりぎりのかじ取りが求められている。(八牧浩行

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、歐州、米國、アフリカ、中東、アジア諸國を取材。英國?サッチャー首相、中國?李鵬首相をはじめ多くの首脳と會見。東京都日中友好協(xié)會特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著?共著に「中國危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外國為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

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