<コラム>ニュース中國語事始め=微妙な違い?日本と中國の「福祉」について

如月隼人    2020年10月7日(水) 23時20分

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今回は中國語のニュースで使われる「福祉」という言葉を考えます。この言葉は、そのまま「福祉」と訳したのでは、どうもおかしなことになる場合があります。資料寫真。

今回は中國語のニュースで使われる「福祉」という言葉を考えます。この言葉は、そのまま「福祉」と訳したのでは、どうもおかしなことになる場合があります。

まず日本語の「福祉」ですけど、「社會福祉」なんて使われ方をする事が多く「弱者救済のための公的事業(yè)」をイメージしますよね。しかし「福祉」の本來の語義に「弱者救済」というはっきりとした意味はありません。日本語としてあまり使うことのない「祉」ですが、本來の字義は「神がそこに足を止めて福を與える」ということで「(神より授かる)幸せ」だそうです。つまり「福祉」の本來の意味は「幸せ」です。

広辭苑(第5版)は「福祉」を「幸福。公的扶助やサービスによる生活の安定、充足」と説明しています。「幸?!工趣いσ馕钉xであり「公的扶助やサービスによる生活の安定、充足」は派生してできた意味とみなしているわけです。

さて、法律や行政用語として使われる「福祉」ですが、英語の「welfare」を訳す際に用いた日本語のようです?!竪elfare」について、オックスフォード上級學(xué)習(xí)者向け現(xiàn)代英語辭典(Oxford Advanced Learner’s Dictionary of Current English)は「welfare」を「Condition of having good health, comfortable living and working conditions(良好な健康や快適な暮らし、労働環(huán)境を保持する條件)」と説明しています。

同じ辭書で「happy」は「fortunate; lucky; feeling or expressing pleasure(幸運、運よく、喜びを感じたり表現(xiàn)すること)」であり、「happiness」はその名詞形と記載されています。「happiness」が感情面に主眼を置いた言葉であるのに対して、「welfare」は人の具體的な活動が好ましい狀況にあることを示す語と考えてよいでしょう。だからこそ、人々にそのような狀況をもたらす公的な事業(yè)について「welfare」の語が使われるようになったわけです。

日本語で、この「welfare」の訳語として「福祉」が用いられたことについてですが、できるだけ古い公的な対訳例を探してみました。すると、第二次世界大戦後に日本を統(tǒng)治していたGHQが1946年2月に日本側(cè)に示した日本國憲法草案、いわゆるマッカーサー草案と外務(wù)省による日本語訳が見つかりました。

同対訳の中に「welfare」は4回出てきますが、「within the limits of the general welfare」が「一般ノ福祉ノ限度內(nèi)ニ於テ」と訳されているなど、「welfare」の訳語はいずれも「福祉」です。

次に中國語の「福祉 fu2zhi3」について調(diào)べてみましょう。まず、中國で刊行されている最も代表的な辭書の現(xiàn)代漢語詞典には「<書>福、幸?!工葧欷皮い蓼?。つまり文章に用いられる固い単語としての「福、幸?!工趣いΔ长趣扦?。ネット辭書を調(diào)べてみたのですが、ほとんどは同じ説明でした。

このことから、中國語では「福祉」が、本來の「幸せ」という意味で使われてきたということが分かります。では、中國で発表される記事や論説で「福祉」という言葉はどのように使われているのでしょうか。

例えば、米國の対中経済政策を批判する論説では「破壊了中美両國人民的福祉(po4huai4le zhong1mei3 liang3guo2 ren2min2 de0 fu2zhi3)」という表現(xiàn)がありました。この部分は明らかに「中米両國人民の幸せを破壊した」です。中國語の<福祉>の訳語として日本語の「福祉」を使ったのではおかしいですよね。

米國のコロナ対策を批判する論説では、「美國民衆(zhòng)的生命福祉(mei3guo2 min2zhong4 de0 sheng1ming4 fu2zhi3)」という記述もあります。中國語の辭書をそのまま適用するならば「米國民衆(zhòng)の生命の幸せ」となりますけど、やや不自然かもしれない。

この點を、中國人の報道関係者に尋ねたところ、「中國語で『福祉』という言葉が使われ始めたのは最近のことで、『利益』というニュアンスを込めていると思う」とのことでした。なるほど?!该讎裥\(zhòng)の生命という利益」と訳してみると、原文の意図がより明確に伝わってくる気もします。

この報道関係者によれば、「中國の記事で『福祉』という言葉が使われるようになったのは、日本語の影響かもしれない」とのことでした。

中國語の単語、特に古典にみられる用例を調(diào)べるのには、清朝末期に編纂が始まり、1930年代に初版が出版された「辭源」という辭書が便利です。その後も追加や改訂が施されながら、現(xiàn)在も刊行されています。

ところが、この「辭源」は「福祉」という単語を取り上げていません。相當に充実した辭書が取り上げていないのですから、中國ではもともと「福祉」と言う言葉が、あまり使われていなかったのかもしれません。

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